葉夢得点絳唇　紹興乙卯登絶頂小亭　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩

點絳脣　紹興乙卯登絶頂小亭
	北宋・葉夢得

縹緲危亭，
笑談獨在千峰上。
與誰同賞。
萬里橫煙浪。

老去情懷，
猶作天涯想。
空惆悵。
少年豪放。
莫學衰翁樣。

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點絳脣(てんかうしん)　紹興乙卯(きのとう)　絶頂の小亭に登る

縹緲(へうべう)たる危亭(きてい)，
笑談しつつ　獨(ひと)り　　千峰の上に在り。
誰(たれ)と　同(とも)にか賞せん。
萬里　煙浪(えんらう)を橫たふ。

老い去れども　　情懷(じゃうくゎい)，
猶(な)ほも　天涯(てんがい)の想(おも)ひを作(な)す。
空(むな)しく惆悵(ちうちゃう)す。
少年　豪放(がうはう)なれば，
學ぶ莫(なか)れ　衰翁(すゐをう)の樣(さま)を。

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◎　私感註釈

※葉夢得：北宋の詞人。１０７７年～１１４８年。字は少蘊。石林居士と号す。蘇州呉県（現・江蘇省内）の人。紹聖四年の進士。官は龍図閣直学士に至る。抗金（金国との抗争）に功があった。

※点絳唇：〔てんかうしん；dian3jiang4chun2〕詞牌の一。四十一字。双調。仄韻一韻到底。韻式は「aaa　aaaa」。この詞は隠棲の地・湖州の烏程の卞山（べんざん）（＝弁山。浙江省の湖州市の西北９キロメートルのところで、太湖の南岸に面している。主峰名は雲峰頂で、海抜５２１．５メートル）の南の頂（いただ）きに登った時のもの。

※紹興乙卯登絶頂小亭：紹興五年（１１３５年）に山の頂上にある小さなあずまやに登った。　・紹興乙卯：紹興五年（１１３５年）のことで、金では天會十三年、西夏では大德元年。　・乙卯：〔いつばう；yi3mao3●●〕きのとう。干支で表した年で、ここでは､紹興五年（１１３５年）を指す。＊干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸のことをいい、十二支とは子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順次、次のように組み合わせていく。甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、（以上、１０組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、１１組目が始まる）甲戌、乙亥、……（ここで、十二支は「子」に戻り、１３組目は）丙子、丁丑…となって、合計は（ページの）６０組になる。これで、１から６０までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、６１番目は、１番目の甲子にもどる。還暦である。蛇足になるが、乙卯年は、紹興五年（１１３５年）だけに限らず、±６０年（の倍数年）も乙卯年となる。（例えば：（－６０の）１０７５年、１０１５年…。また、（＋６０の）１１９５年、１２５５年、１３１５年…と）。それゆえ、１９７５年は、昭和乙卯年（昭和五十年）になる。　・絶頂：山の頂上。いただき。最高のところ。　・小亭：小さなあずまや。

※縹緲危亭：遠く遥かに見える高いあずまや。　・縹緲：〔へうべう（ひょうびょう）；piao1miao3●●〕遠く遥かに見えるさま。ぼんやりしていてかすかなさま。また、澄んで長く引く声の形容。ここは、前者の意。　・危亭：高いあずまや。　・危：高い。

※笑談独在千峰上：談笑しているうちに、多くの峰の上にひとりでいた。　・笑談：談笑する。＊「笑談」か「談笑」か。平仄的には「笑談」は●○で、「談笑」は○●。『点絳唇』の当該の部分（笑談独在千峰上）は「○●○○●」で、「笑談」（●○）が適切。北宋・蘇軾の『念奴嬌』に「大江東去，浪淘盡、千古風流人物。故壘西邊，人道是、三國周郞赤壁。亂石穿空，驚濤拍岸，卷起千堆雪。江山如畫，一時多少豪傑。　　　遙想公瑾當年，小喬初嫁了，雄姿英發。羽扇綸巾，談笑間、檣櫓灰飛煙滅。故國神遊，多情應笑我，早生華髪。人間如夢，一樽還酹江月。」とあり、南宋・岳飛の『滿江紅』に「怒髮衝冠，憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯，壯懷激烈。三十功名塵與土，八千里路雲和月。莫等閒、白了少年頭，空悲切。　　　靖康耻，猶未雪。臣子憾，何時滅。駕長車踏破，賀蘭山缺。壯志饑餐胡虜肉，笑談渇飮匈奴血。待從頭、收拾舊山河，朝天闕。」とあり、明・楊愼の『臨江仙』に「滾滾長江東逝水，浪花淘盡英雄。是非成敗轉頭空。靑山依舊在，幾度夕陽紅。　　　白髮漁樵江渚上，慣看秋月春風。一壺濁酒喜相逢。古今多少事，都付談笑中。」とある。　・独：ひとりだけで。ひとり。ここは、前者の意。　・在…上：…のうえに。

※与誰同賞：だれと一緒に賞翫しようか。　・与誰-：だれとともに…。だれと…か。　・同賞：一緒に見て楽しむ意。ともに賞翫する意。

※万里橫煙浪：遥か彼方まで横たわる雲の波を。　・横：横たわる。よこざまになる。　・煙浪：雲の波を謂う。

※老去情懐：年々歳をとってからの心中の思いは。　・老去：年々歳をとる。≒老来（歳をとってから。老後）。平仄的には「老去」は●●とすべきところで用い、「老来」は○○（●○）とすべきところで用いる。『点絳唇』の当該の部分（老去情懐）は「●○○」とすべきところで、「老去」が適切。　・情懐：〔じゃうくゎい；qing2huai2○○〕心中の思い。心情。心持ち。気持ち。

※猶作天涯想：いまなお、天の涯（にある中原の地を恢復しようとする）志を持っている（ものの）。　・猶：いまなお。いまだに。なお。なお…ごとし。　・作：なす。　・天涯想：天の涯にある中原の地を恢復しようとする志、を指す。　・天涯：空の果て。遙かなところ。非常に遠いところ。晩唐・李商隱の『天涯』に「春日在天涯，天涯日又斜。鶯啼如有涙，爲濕最高花。」とあり、北宋・曹組の『憶少年』に「年時酒伴，年時去處，年時春色。清明又近也，卻天涯爲客。　　　念過眼光陰難再得。想前歡、盡成陳蹟。登臨恨無語，把欄杆暗拍。」とあり、元・馬致遠の『〔越調〕　天淨沙・秋思』に「枯藤老樹昏鴉，小橋流水人家，古道西風痩馬。夕陽西下，斷腸人在天涯。」とある。

※空惆悵：むなしく怨（うら）み嘆（いている）。　・惆悵：〔ちうちゃう；chou2chang4○●〕怨み嘆くさま。失意のさま。憂え悲しむさま。中唐・白居易の『三月三十日題慈恩寺』に「慈恩春色今朝盡，盡日裴回倚寺門。惆悵春歸留不得，紫藤花下漸黄昏。」とあり、晩唐・杜牧の『歎花』に「自是尋春去校遲，不須惆悵怨芳時。狂風落盡深紅色，綠葉成陰子滿枝。」とある。

※少年豪放：若者は、度量が大きく、大胆で、小さい事にこだわらない（ので）。　・少年：若者。　・豪放：気象が強くおおまかで、小さい事にこだわらない。

※莫学衰翁様：体力が衰えた老人（＝作者）を手本としなさるな。　・莫-：…（する）なかれ。禁止の辞。　・学…様：（…を）手本とする意。　・様：手本。　・衰翁：体力が衰えた（男の）老人。ここでは、作者を指す。

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◎　構成について

◎　點絳脣　（南浦月、点桜桃ともいう。）
四十一字。双調。仄韻一韻到底。韻式は「aaa　aaaa」。韻脚は「上賞浪　想悵放様」で、詞韻第二部仄声。

　　　　●○○，
　　　　○●○○●。（韻）
　　　　●○○●。（韻）
　　　　●○○●。（韻）

　　　　●○○，
　　　　●○○●。（韻）
　　　　○○●。（韻）
　　　　●○○●。（韻）
　　　　●○○●。（韻）