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村居雜詩
                                                  
                        元・劉因

黄昏雨氣濃,
喜色滿南畝。
誰知一夜風,
吹放門前柳。




          
    **********************


           村居雜詩

黄昏(くゎうこん)  雨氣(うき) 濃く,
喜色  南畝(なん ぽ )に滿つ。
(たれ)か知らん  一夜(いち や )の風,
()(はな)つ  門前(もんぜん)の柳を。

            ******************




◎ 私感訳註:

※劉因:元初の文学者。1249年〜1293年。もとの名は駰、字は夢驥。後、名を因、字を夢吉とした。号を雷渓真隠として、居所を静修と名付けた。容城(現・河北省徐水)の人。フビライに召されて、承徳郎、右賛善大夫となったが、母親の病のため致仕して、故郷に隠棲した。

※村居雑詩:いなか生活を興の趨(おもむ)くままに作った、型にとらわれない詩。これは『村居雜詩四首』のうちの其二。

※黄昏雨気濃:たそがれ時、雨の降りそうな気配が濃厚(なの)で。 ・黄昏:〔くゎうこん;huang2hun1○○〕たそがれ。宵闇。盛唐・杜甫の『詠懷古跡』に「羣山萬壑赴荊門,生長明妃尚有邨。一去紫臺連朔漠,獨留青冢向
黄昏。畫圖省識春風面,環珮空歸月夜魂。千載琵琶作胡語,分明怨恨曲中論。」とあり、中唐・白居易の『三月三十日題慈恩寺』に「慈恩春色今朝盡,盡日裴回倚寺門。惆悵春歸留不得,紫藤花下漸黄昏。」とある。 ・雨気:雨の降りそうな気配。雨模様。雨景色。

※喜色満南畝:喜ばしそうな様子が、南向きの畑に満ちていた。 ・喜色:うれしそうな顔つき。喜ばしそうな表情。よろこんでいるようす。 ・南畝:南向きの畑。 ・南:「南」の語の属性として、火・赤・夏・朱雀のイメージがあり、「南畝」では「南向きの畑で、日当たりが良く暖かい」といった意味が付与されよう。 ・畝:〔ぼう(ほ);mu3〕たはた。耕地。また、うね。あぜ。また、田の面積。ここは、前者の意。盛唐・王維の『田園樂七首之二』に「再見封侯萬戸,立談賜璧一雙。詎勝耦耕
南畝,何如高臥東窗。」とある。

※誰知一夜風:誰が知っていようか、ひと晩の風が。 ・誰知:誰が知ろうか、誰も知るまい。だれが…と分かっているのか(だれも知らない)。…とは、だれが知ろう(だれも知らない)。中唐・李紳の『憫農』に「鋤禾日當午,汗滴禾下土。
誰知盤中餐,粒粒皆辛苦。」とあり、晩唐・王周の『宿疎陂驛』に「秋染棠梨葉半紅,荊州東望草平空。誰知孤宦天涯意,微雨瀟瀟古驛中。」とある。 ・一夜:ひと晩。

※吹放門前柳:吹いてきて、門前の柳を芽吹かせたことを。 ・吹:吹きつける。 ・放:草木の芽が出る。花が咲く。 ・門前:門の前。晩唐・杜牧の『自宣城赴官上京』に「瀟灑江湖十過秋,酒杯無日不淹留。謝公城畔溪驚夢,蘇小
門前拂頭。千里雲山何處好,幾人襟韻一生休。塵冠挂卻知闔磨C終擬蹉訪舊遊。」とあり、晩唐〜・温庭の『楊柳枝』に「蘇小門前萬條金線拂平橋。黄鶯不語東風起,深閉朱門伴細腰。」 とある。





◎ 構成について

韻式は「aa」。韻脚は「畝柳」で、平水韻上声二十五有。次の平仄はこの作品のもの。

○○●●○,
●●●○●。(韻)
○○●●○,
○●○○●。(韻)
2015.3.27
                               
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