李夢陽葡萄　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Li Mengyang

葡萄

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明・李夢陽

萬里西風過雁時，
綠雲玄玉影參差。
酒酣試取氷丸嚼，
不説天南有茘枝。

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　　　　　　　　　　　葡萄( ぶだう)

萬里(ばんり)の西風(せいふう)　　雁(がん) 過ぐるの時，
綠雲(りょくうん)　玄玉(げんぎょく)　　影參差(しんし )たり。
酒　酣(たけなは)に　試(こころ)みに　　氷丸(ひょうがん)を取りて嚼(か)めば，
説(と)かず　天南(てんなん)に　　茘枝(れいし ) 有りと。

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◎　私感訳註：

※李夢陽：〔りぼうやう；Li3 Meng4yang2〕明の文学者。成化十年（１４７４年）～嘉靖八年（１５２９年）。初めての字は天賜、また獻吉（献吉）。号して空同子。隴右慶陽（現・甘粛省）の人。弘治七年(１４９４年)の進士。官は江西提学副使に至る。「十才子」の一と呼ばれ、「前七子」の一。「四大家」「海内三才」の一。復古説（文は秦漢、詩は盛唐）を主張した。

※葡萄：ブドウ。西域原産の植物で、その果実で造られた酒は、遥か異国の酒、という雰囲気がある。盛唐・王翰の『涼州詞』に「葡萄美酒夜光杯，欲飮琵琶馬上催。醉臥沙場君莫笑，古來征戰幾人回。」とある。後世、日本・荻生徂徠は『甲斐客中』で「甲陽美酒綠葡萄，霜露三更濕客袍。須識良宵天下少，芙蓉峰上一輪高。」とした。

※万里西風過雁時：遥か西の彼方から吹いてくる秋風に雁が渡る季節の秋。　・万里：長大な距離を謂う。　・西風：秋風。西から吹いてくる風。　・過雁：雁が渡る季節。秋。

※緑雲玄玉影参差：緑色の雲（＝葡萄の葉）に黒い玉（＝葡萄の実）の姿は似通っている。　・緑雲：緑色の雲。婦人の黒髪の多くて美しいことの形容。　・玄玉：黒い玉。ここでは、葡萄の実を指す。　・影：形。姿。　・参差：〔しんし；cen1ci1○○〕長短不揃いのさま。転じて、大体似たような感じ。さらに発展して、そっくり。『詩經』周南『關雎』に「關關雎鳩，在河之洲。窈窕淑女，君子好逑。　　參差荇菜，左右流之。窈窕淑女，寤寐求之。求之不得，寤寐思服。悠哉悠哉，輾轉反側。　　參差荇菜，左右采之。窈窕淑女，琴瑟友之。參差荇菜，左右芼之。窈窕淑女，鐘鼓樂之。」とあり、中唐・白居易の『長恨歌』中に、「樓閣玲瓏五雲起，其中綽約多仙子；中有一人字太真，雪膚花貌參差是。」とあり、晩唐・司馬扎（司馬礼）の『宮怨』に「「柳色參差掩畫樓，曉鶯啼送滿宮愁。年年花落無人見，空逐春泉出御溝。」とあり、北宋・柳永の『望海潮』に「東南形勝，三呉都會，錢塘自古繁華。煙柳畫橋，風簾翠幕，參差十萬人家。雲樹繞堤沙。怒濤卷霜雪，天塹無涯。」とあり、北宋・秦觀の『春日』に「一夕輕雷落萬絲，霽光浮瓦碧參差。有情芍藥含春涙，無力薔薇臥曉枝。」とあり、北宋・蘇軾の『書李世南所畫秋景』に「野水參差落漲痕，疎林欹倒出霜根。扁舟一棹歸何處，家在江南黄葉村。」とある。

※酒酣試取氷丸嚼：酒盛りが酣（たけなわ）の時に、ちょっと氷の粒（のような透き通った葡萄の実）を噛んでみれば。　・酒酣：酒盛りが酣（たけなわ）になる。　・試：ためしに。こころみに。　・氷丸：氷の粒。ここでは、透き通った葡萄の実を謂う。　・嚼：〔しゃく；jue2（jiao2）●〕かむ。かみくだく。

※不説天南有茘枝：我が国の遥か南の方には、茘枝があるではないか、とは主張しない。（葡萄の実は、茘枝よりも遥かに素晴らしい）。　・不説-：…言いきかせることはしない。…と言わない。 *「説（と）かずや、…」と読み、詰問・反問・疑問（「…しないのか」の意）を表すことが多いが、ここではそうではない。　・天南：距離が遠く隔たっている南の方。　・茘枝：〔れいし；li4zhi1リーチー●○〕れいし。中国南方原産の果物。赤い果皮の中に白色半透明で薫り高い果肉の果物。南方方言（広東語、閩南語）経由の呼称ではライチ。晩唐・杜牧の『過華清宮絶句』に「長安回望繍成堆，山頂千門次第開。一騎紅塵妃子笑，無人知是茘枝來。」とあり、唐・皇甫松の『竹枝詞』に「木棉花盡竹枝茘枝垂（女兒），千花萬花竹枝待郞歸（女兒）。」とあり、北宋・蘇軾の『食茘枝』に「羅浮山下四時春，盧橘楊梅次第新。日噉茘枝三百顆，不辭長作嶺南人。」とある。