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即事
南明・夏完淳
| 戰苦難酬國， 仇深敢憶家。 一身存漢蠟， 滿目盡胡沙。 落月翻旗影， 淸霜冷劍花。 六軍渾散盡， 半夜起悲笳。 |
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| 戰苦難酬國， 仇深敢憶家。 一身存漢蠟， 滿目盡胡沙。 落月翻旗影， 淸霜冷劍花。 六軍渾散盡， 半夜起悲笳。 |
即事
戰 ひ苦 く 國に酬 ゆること難 く，
仇 深くして敢 へて家を憶 はんや。
一身漢蠟 存 し，
滿目盡 く胡沙 。
落月 旗影を翻 へせば，
淸霜 劍花 を冷やす。
六軍 渾 く散り盡 くし，
半夜 に悲笳 起く。
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◎ 私感訳註：
※夏完淳：明朝末年（≒南明（なんみん）。南明：明末、華中・華南に立てられた明の亡命政権）の抗清の義士。少年詩人。明・崇禎四年/清・天聰五年（１６３１年）～清・順治四年（１６４７年）。幼名は端哥。別名は復。字は存古。号して小隠、また霊首とも号する。有名な学者・夏允彝の子である。松江華亭（現・上海市松江区）の人。幼少より聡明で、神童の誉が高かった。詩文のみでなく、時局にも関心を持ち、父に従って抗清闘争に加わり、父が戦い敗れて自殺した後、その遺志を受け継いで、太湖抗清義軍に参加した。帰郷時に捕らえられたが、投降を拒否し、十七歳で死んだ。
※即事：その場の事柄や様子、風景をよんだ詩歌。北宋・曾鞏の『虞美人草』に「鴻門玉斗紛如雪，十萬降兵夜流血。咸陽宮殿三月紅，覇業已隨煙燼滅。剛強必死仁義王，陰陵失道非天亡。英雄本學萬人敵，何用屑屑悲紅粧。三軍散盡旌旗倒，玉帳佳人坐中老。香魂夜逐劍光飛，靑血化爲原上草。芳心寂莫寄寒枝，舊曲聞來似斂眉。哀怨徘徊愁不語，恰如初聽楚歌時。滔滔逝水流今古，漢楚興亡兩丘土。當年遺事久成空，慷慨樽前爲誰舞。」とある。
※戦苦難酬国：戦いは不利な状況に苦しみ、なかなか国（＝明朝）にむくいる意ことがむずかしく。 *「戦苦難酬国」と「仇深敢憶家」とは対句。 ・難：…ことがむずかしい。 ・酬国：国にむくいる意。
※仇深敢憶家：（民族の）うらみが深く、どうして（個人の）家郷を思い起こすことをあえてしようか。 ・仇：あだ。かたき。仇敵（きゅうてき）。 ・敢：反語として使う。どうして（…を）あえてしようか。（決してしない）。「敢」：…する勇気がある。思い切って…する。あえて。 ・憶家：（個人の）家を思い起こす意。
※一身存漢蝋：全身に、漢（民族の）の祭（＝漢民族精神）を抱（いだ）き。 ・一身：全身。 ・存：保留する。心に抱く。 ・漢蝋：漢（王朝）の蝋日。「蝋」は冬至後第三の戌の日に行う祭。「漢」は漢民族を指し、明朝も漢民族の王朝で、ここでは、「漢民族の王朝の風俗・習慣・精神を受け継いだ『明朝』の漢民族精神」の意。
※満目尽胡沙：見渡す限り、ことごとくが西北地方の砂漠（≒清軍）である。 ・満目：見渡す限り。中唐・韓愈の『題楚昭王廟』に「丘墳滿目衣冠盡，城闕連雲草樹荒。猶有國人懷舊德，一間茅屋祭昭王。」とある。 ・尽：ことごとく。 ・胡沙：〔こさ；hu2sha1○○〕蒙古地方の砂漠。ここでは、清軍を指す。なお、清は北方の満洲民族。
※落月翻旗影：西に傾いた月に、軍旗の影がひるがえり。 ・落月：沈もうとする月。西に傾く月。月が没する。 ・翻：ひるがえす。
※清霜冷剣花：霜は、剣（と剣を打ち合わせて出る）火花を冷やしている。 ・清霜：古代の名剣の名。また、寒霜。白霜。また、頭髪の白くなったのを謂う。ここは、前者の意。 ・剣花：剣と剣を打ち合わせた時に出る火花。
※六軍渾散尽：皇帝の率いる軍勢は、すべて（逃げたり死んだりして）すっかりいなくなってしまった。 ・六軍：〔りくぐん；liu4jun1●○〕皇帝の率いる軍勢。編制が六つの軍団からなっていたことによる。六師。中唐・白居易の『長恨歌』に「九重城闕煙塵生，千乘萬騎西南行。翠華搖搖行復止，西出都門百餘里。六軍不發無奈何，宛轉蛾眉馬前死。」とあり、南宋・陸游の『書事』の「關中父老望王師，想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏，斷碑猶有少陵詩」
※半夜起悲笳：夜半に、悲しげな胡笳（の音色（ねいろ））が起こってくる。 ・半夜：夜中。夜半。 ・悲笳：悲しげな音色（ねいろ）の胡笳。「胡笳」は：〔こか；hu2jia1○○〕胡人が葦の葉を巻いて作った笛。あし笛。盛唐・岑参の『胡笳歌送顏眞卿使赴河隴』に「君不聞胡笳聲最悲，紫髯綠眼胡人吹。吹之一曲猶未了，愁殺樓蘭征戍兒。涼秋八月蕭關道，北風吹斷天山艸。崑崙山南月欲斜，胡人向月吹胡笳。胡笳怨兮將送君，秦山遙望隴山雲。邊城夜夜多愁夢，向月胡笳誰喜聞。」
◎ 構成について
| ２０１６．８．１０ ８．１１ |
