宣城見杜鵑花 | |
唐・李白 |
蜀國曾聞子規鳥,
宣城還見杜鵑花。
一叫一廻腸一斷,
三春三月憶三巴。
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宣城にて 杜鵑花を見る
蜀國に 曾て聞く 子規の鳥,
宣城に 還た 見る 杜鵑の花。
一叫 一廻 腸 一斷,
三春 三月 三巴を 憶おもふ。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる。安史の乱では苦労をする。後、永王が謀亂を起こしたのに際して幕僚となっていたために、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※宣城見杜鵑花:(現・安徽省南部の)宣城で、杜鵑花(ツツジ)を見て(故郷のことを思い出した)。 *全対格で構成されており、数字を有効に使っている。適切な譬喩かは別にして、テレビ番組の『笑点』での名回答のように、即席で作られた軽妙な作品と謂える。この詩の主旨は「今、宣城で杜鵑花(ツツジの花)を見て、昔、故郷で聞いた子規鳥(ホトトギス)のことを思い出した」ということである。その聯想のキーワードは【ホトトギス】。⇒「杜鵑花(ツツジの花)」と「子規鳥(ホトトギス)」のことである。「杜鵑」も「子規」もホトトギスのことで、そこから聯想された。 ・宣城:現・安徽省宣城県。南京の南100キロメートルのところの長江南岸50キロメートル南。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「唐 淮南道」にある。 ・杜鵑花:ツツジの花。なお、「杜鵑」はホトトギスのことでもあり、次の句の「……子規鳥」に繋がる。「子規鳥」とはホトトギスのことである。
※蜀國曾聞子規鳥:蜀の国(現・四川省:作者の故郷)にいた頃、かつて子規鳥(ホトトギス)を聞いたことがあったが。 ・蜀國:現・四川省。また、現・四川省にあった三国時代の王国。蜀漢。ここでは作者・李白の故郷の意として使われている。 ・曾聞:昔、聞いたことがある。かつて耳にした。 ・子規鳥:ホトトギス。
※宣城還見杜鵑花:今、(現・安徽省南部の)宣城で、杜鵑花(ツツジ)を見た。 *杜鵑花(ツツジ)とは、「杜鵑(ホトトギス)の花」(鳴いて血を吐くホトトギスのように赤い花)の意で、そこから故郷の杜鵑(ホトトギス)ことを思い出した、ということ。 還:また。なおまた。
※一叫一廻腸一斷:一たび鳴けば、一回断腸の思いがして。 *「一叫一廻腸一斷,三春三月憶三巴」と「一」や「三」のリズミカルな繰り返しで構成された詠いやすい詩句である。 ・一叫:一たび鳴く。蛇足になるが、現代語でも“叫”は、鳥などが鳴く意。 ・一廻:一回。 ・腸:〔ちゃう;chang2○〕はらわた。こころ。 ・腸斷:断腸の思いになる。
※三春三月憶三巴:春の三か月のうち季春の三月に、(故郷の蜀の国の)三巴の地域を思い出してしまう。 ・三春:春の三か月。陰暦の孟春(正月)、仲春(二月)、季春(三月)。三度の春。三年。 ・三月:〔さんぐゎつ;san1yue4○●〕陰暦・三月は季春で、春の最後の月。また、三ヶ月。ここは、前者の意。前者の例では、盛唐・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』「故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡,惟見長江天際流。」や、盛唐・杜甫『絶句漫興』「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」があり、後者の例(「三月」で「三ヶ月」の意の場合)『詩經』王風の「采葛」「彼采葛兮。一日不見,如三月兮。 彼采蕭兮。一日不見,如三秋兮。 彼采艾兮。一日不見,如三歳兮。」、盛唐・杜甫の『春望』「國破山河在,城春草木深。感時花濺涙, 恨別鳥驚心。烽火連三月,家書抵萬金。白頭掻更短,渾欲不勝簪。」とある。後者は〔さんげつ;san1yue4○●〕と読む。 ・憶:〔おく;yi4●〕思い出す。忘れない。 ・三巴:現・四川省の東半分の郡名。後漢に置かれた巴・巴東・巴西の三郡の地域。ここでは、前出・「蜀國」とほぼ同意で、作者・李白の故郷の意として使われている。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「花巴」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●○○,
○○○●●○○。(韻)
●●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
2010.6.5 6.6 |
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