王維田園楽七首之四　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Wang Wei

田園樂七首之四
	唐・王維

萋萋春草秋綠，
落落長松夏寒。
牛羊自歸村巷，
童稚不識衣冠。

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田園樂(でんゑんらく)　七首の四　

萋萋(せいせい)たる春草(しゅんさう)　秋綠(みどり)に，
落落(らくらく)たる長松(ちゃうしょう)　夏寒し。
牛羊(ぎうやう)　自(みづか)ら村巷(そんかう)に歸(かへ)る　，
童稚(どうち)　衣冠(いくゎん)を識(し)らず。

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◎　私感註釈

※王維：盛唐の詩人。７０１年（長安元年）？～７６１年（上元二年）。字は摩詰。太原祁県（現・山西省祁県東南）の人。進士となり、右拾遺…尚書右丞等を歴任。晩年は仏教に傾倒した。

※田園楽七首之四：田園（生活）はすばらしい。作者の罔川での田園生活を指すか。これは七首のうちのその四。統治されている世とは隔絶した、完全に自由な大自然の中の情景を詠う。その心は、上代・『撃壤歌』「日出而作，日入而息。鑿井而飮，耕田而食。帝力于我何有哉。」に同じ。 *この六言詩の前半の節奏は「□□・□□＋□□」となっており、前四語とその後の間の切れ目が大きい（＝「□□・□□+□□」）。後半の節奏は、「□□・□□・□□」となっている。なお、（『楚辭』などを除いて、）一般的に七言詩の節奏は「□□・□□＋□□□」（＝「□□・□□＋□□・□」or「□□・□□＋□・□□」）であり、五言詩の節奏は「□□＋□□□」（＝「□□＋□□・□」or「□□＋□・□□」。）（『楚辭』の場合では、七言句、五言句の場合も上述の形式は当て嵌まらない場合が多い）。

※萋萋春草秋緑：盛んに春の草木が茂って、秋になって（も、なお）青い。　・萋萋：〔せいせい；qi1qi1○○〕木や草の盛んに繁っているさま。月日が過ぎて春になり、新たに草が生えるようになって。『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸」に基づく。王昭君の『昭君怨』（『怨詩』）「秋木萋萋，其葉萎黄。有鳥處山，集于苞桑。養育羽毛，形容生光。既得升雲，上遊曲房。離宮絶曠，身體摧藏。志念抑沈，不得頡頏。雖得委食，心有徊徨。我獨伊何，來往變常。翩翩之燕，遠集西羌。高山峨峨，河水泱泱。父兮母兮，道里悠長。嗚呼哀哉，憂心惻傷。」や、崔顥の『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去，此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返，白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹，芳草萋萋鸚鵡洲。日暮鄕關何處是，煙波江上使人愁。」や、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸，春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊，蛄鳴兮啾啾。」温庭の『折楊柳』に「館娃宮外城西，遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切，不關春草綠萋萋。」、唐・温庭の『菩薩蠻』に「玉樓明月長相憶。柳絲娜春無力。門外草萋萋。送君聞馬嘶。　　　畫羅金翡翠。香燭消成涙。花落子規啼。綠窗殘夢迷。」とある。　・春草：「芳草」ともする。　・緑：みどりである。「用言」的な使用。「碧」ともする。みどり、あお、の意。

※落落長松夏寒：高く大きな松の木（の蔭（かげ））は、夏でも寒い。　・落落：ものがまばらで寂しいさま。また、多いさま。互いに相容れないさま。志を得ぬさま。度量の大きいさま。ここでは松の木の高いさまを謂う。　・長松：たけの高い松。　・夏寒：夏でも寒い意。夏なお寒い意。

※牛羊自帰村巷：牛や羊は、村の小道を（ねぐらへ）ひとりでに帰り。　・牛羊：（家畜として飼っている）牛や羊。　・自帰：（ねぐらに）ひとりでに戻る意。同時代の盛唐・孟浩然の『留別王侍御維』に「寂寂竟何待，朝朝空自歸。欲尋芳草去，惜與故人違。當路誰相假，知音世所稀。祗應守索寞，還掩故園扉。」とある。　・自：自分で。ひとりでに。自然に。　・歸：自分の本来の居場所である自宅や故郷・故国・墓所に戻る。　・村巷：村の小道。

※童稚不識衣冠：子供は、衣冠（を纏ったお役人（＝統治者、＝帝力））というものを知らない。前出・『撃壤歌』「帝力于我何有哉。」のことを謂う。　・童稚：おさない者。＝童幼。　・不識：知らない。≒不知。ここを「不識」として「不知」としないのは、「童稚不識衣冠」の句は「○○●●○○」と、完成された平仄の配列になっている。その部分を「不識」としないで、「不知」とすれば「○○●○○○」となり、不都合。そのため、ここは「不識」とされた。　・衣冠：〔いくゎん；yi1guan1○○〕衣服とかんむり。正しい装束。宮仕えのたためのきちんとした正しい装束。また、それを纏った役人。「牛羊自歸」（＝自由なさま）に対しての「衣冠」とは、「統治権者」「国家権力」といった支配者を謂う。

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◎　構成について

韻式は、「AA」。韻脚は「寒冠」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。

○○○●○●，
●●○○●○。（韻）
○○●○○●，
○○●●○○。（韻）