![]() ![]() |
![]() |
題大庾嶺北驛 | |
初唐・宋之問 |
陽月南飛雁,
傳聞至此回。
我行殊未已,
何日復歸來。
江靜潮初落,
林昏瘴不開。
明朝望鄕處,
應見隴頭梅。
******
大庾嶺 の北驛 に題す
陽月 南に飛ぶ雁 は,
傳へ聞く此 に至って回 ると。
我が行 殊 に未だ已 まず,
何 れの日にか復 た歸り来 たらん。
江 靜かに潮 初めて落ち,
林 昏 く瘴 開 かず。
明朝 望鄕 の處,
應 に隴頭 の梅を 見るべし。
****************
◎ 私感註釈
※宋之問:初唐の詩人・官僚。顕慶元年(656年)?~延和元年(712年)。字は延清。一名に少連。虢州(かくしゅう)弘農(こうのう)(現・河南省霊宝県)の人。則天武后の宮廷詩人として活躍し、沈佺期と並んで「沈宋」と称せられた。五言詩に優れ、近体詩の律詩の確立に貢献した。後、罪を得て欽州に流され、死を賜わった。
※題大庾嶺北駅:大庾嶺(だいゆれい)北駅を詩題にして詩を作る。 ・題-:…を詩題として、詩を作る。 ・大庾 嶺:〔だいゆ れい;Da4yu3 ling3●● ●〕江西と広東の間にある山脈。また、その北側の江西側にある都市名。梅嶺。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期69-70ページ「嶺南道東部」(中国地図出版社))にある。 ・駅:馬継ぎ場。宿場。
※陽月南飛雁:陰暦十月に、南に向かって飛ぶガンは。 ・陽月:陰暦十月の異称。 ・南飛雁:南に向かって飛ぶガン。
※伝聞至此回:(ガンは、)伝え聞く(ところによると)、ここ(大庾嶺)に至って、向きを変えてもどるということだ。 ・伝聞:伝え聞く(ところによると)。 ・至此:ここに至って。 ・此:ここ。この詩の場合、「大庾嶺(だいゆれい)」を指そう。 ・回:向きを変えてもどる。Uターンしてかえる。
※我行殊未已:わたしの旅路は、とりわけまだ終わることがなく。 ・殊:〔しゅ;shu1○〕ことに。とりわけ。 ・已:やむ。終わる。
※何日復帰来:何日(いつ)、またふたたび戻ってくることがあろうか。 ・何日:いつ。 ・復:また。またふたたび。 ・帰来:戻ってくる。
※江静潮初落:川(の流れ)は静かに、水量は減る(ものの)。 ・江:川。ここでは江西省を南北に流れる贛水(かんすゐ;Gan4shui3●●)を謂うか。
※林昏瘴不開:深林は薄暗く、熱病の毒の気は晴れない。 ・林:森林。 ・昏:〔こん;hun1○〕くらい。 ・瘴:〔しゃう;zhang4●〕(南方の湖沼地帯の山川に生じる、湿熱の気によって起こる)熱病の毒気。 ・-不開:(瘴気が)晴れない。(瘴気が)通さない。
※明朝望郷処:明の朝は、望郷の地点(=見晴らし台)である峠(≒山頂)になるが…。(もはや、首都の方を懐かしがって見る必要はなかろう。) ・望郷:故郷をなつかしく思いやる。唐・盧汝弼の『和李秀才邊庭四時怨』「八月霜飛柳半黄,蓬根吹斷雁南翔。隴頭流水關山月,泣上龍堆望故鄕。」とある。
※応見隴頭梅:当然ながら見るべきは、(地元の大庾嶺の隴頭=梅嶺の)嶺の上にある梅の花になろう。 ・応:当然…であろう。まさに…べし。 ・隴頭:〔ろうとう;Long3tou2●○〕ここでは、大庾嶺(江西省と広東省の省境の)嶺の上。=梅嶺。なお、(陝西省と甘粛省の省境にある)隴山のほとりの意もあるが、この詩を作った場所とは、遠くはなれている。以下は同一地名だが別の場所:それは、・隴頭:〔ろうとう;Long3tou2●○〕隴山のほとり。隴山は、現・甘肅省と陝西省の境の大きな山。対西北方面の軍事前進基地。『中国歴史地図集』第四冊 東晋十六国・南北朝時期(中国地図出版社)54-55ページ「北朝魏 雍、秦、?、夏等州」にある。南朝・梁の『隴頭歌辭』に「朝發欣城,暮宿隴頭。寒不能語,舌卷入喉。」とある。唐・盧汝弼の『和李秀才邊庭四時怨』「八月霜飛柳半黄,蓬根吹斷雁南翔。隴頭流水關山月,泣上龍堆望故鄕。」
とは場所は些か異なるが、言いたいことはこれに同じ。なお、この山は毛沢東が南方根拠地を追われて、大西遷(長征)をしたとき、最後の難関となった山の六盤山のこと。毛澤東『清平樂・六盤山』に「天高雲淡,望斷南飛雁。不到長城非好漢,屈指行程二萬。 六盤山上高峰,紅旗漫捲西風。今日長纓在手,何時縛住蒼龍?」
とある。梁詩の『隴頭歌辭』に「隴頭流水,鳴聲幽咽。遙望秦川,心腸斷絶。」
とあり、常建の『塞下曲』「北海陰風動地來,明君祠上望龍堆。髑髏皆是長城卒,日暮沙場飛作灰。」
とある。
***********
◎ 構成について
この作品の平仄は、次の通り。韻式は、「AAAA」。韻脚は「回来開梅」で、平水韻。
○●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
○●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●○●,
○●●○○。(韻)
2021.9.13 9.14 9.15 |
![]() ![]() ![]() ************ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() |