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壇浦夜泊 | ||
木下犀潭 |
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篷窗月落不成眠, 壇浦春風五夜船。 漁笛一聲吹恨去, 養和陵下水如煙。 |
篷窗 月 落ちて眠 りを成さず,
壇 ノ浦 の春風 五夜 の船。
漁笛 一聲 恨 を吹いて去る,
養和 陵下 水 煙の如し。
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◎ 私感註釈
※木下犀潭:江戸時代末期の儒学者。文化二年(1805年)~慶応三年(1867年)。名は業広。字は子勤。通称は宇太郎で、後に真太郎。号して犀潭。別号に韡村。肥後国の人。
※壇浦夜泊:壇ノ浦に、夜、宿泊して。 ・壇浦:壇ノ浦(だんのうら)。治承・寿永の乱の最後の源平合戦となった「壇ノ浦の戦い」の舞台となった場所。山口県下関市周辺の名。南北朝~室町・絶海中津の『赤間關』に「風物眼前朝暮愁,寒潮頻拍赤城頭。怪巖奇石雲中寺,新月斜陽海上舟。十萬義軍空寂寂,三千劍客去悠悠。英雄骨朽干戈地,相憶依欄看白鴎。」
とあり、後世、村上佛山は『過壇浦』で「魚莊蟹舎雨爲煙,蓑笠獨過壇浦邊。千載帝魂呼不返,春風腸斷御裳川。」
と詠う。 ・夜泊:船旅で、夜に碇泊する。中唐・張繼に『楓橋夜泊』「月落烏啼霜滿天,江楓漁火對愁眠。姑蘇城外寒山寺,夜半鐘聲到客船。」
とあり、明・施敬に『巴陽夜泊』「獨棹三巴夜,天高片月孤。淮聲將客夢,萬里下東呉。」
とある。
※篷窓月落不成眠:舟の窓外では(夜も更けて)月は沈んだが、まだ寝付けない。 ・篷窓:〔ほうさう;peng2chuang2○○〕舟の窓。とまを掛けた舟の窓。南宋・陸游の『鵲橋仙』夜聞杜鵑に「茅檐人靜,蓬窗燈暗,春晩連江風雨。林鶯巣燕總無聲,但月夜、常啼杜宇。 催成淸涙,驚殘孤夢,又揀深枝飛去。故山猶自不堪聽,況半世、飄然羈旅。」(この例は「蓬」字)とあり、頼山陽の『泊天草洋』に「雲耶山耶呉耶越,水天髣髴靑一髮。萬里泊舟天草洋,烟橫篷日漸沒。瞥見大魚波閒跳。太白當船明似月。」
、作者と同時代の吉村寅太郎の『舟到由良港』に「囘首蒼茫浪速城,篷窗又聽杜鵑聲。丹心一片人知否,不夢家鄕夢帝京。」
とある。 ・月落:月が西に沈む。夜が更けたことを謂う。前出・張繼の『楓橋夜泊』「月落烏啼霜滿天,江楓漁火對愁眠。」
とある。 ・成眠:寝入る。寝つく。
※壇浦春風五夜船:壇ノ浦は春風の(吹く季節で、)五更(=午前四時)の船(の中でのことである)。 ・五夜:夜明け前(午前4時頃)の時間。=五更。ここでは五更の第五番目の時間。現在の午前3時から午前5時頃、または、午前4時から午前6時頃にあたる。なお、五更とは、 1: 一夜を五等分したこと。 2: 五等分された夜の時間帯の内、初更(甲夜)・二更(乙夜(いつや))・三更(丙夜)・四更(丁夜)・五更(戊夜(ぼや))と称した五番目の時間帯。
※漁笛一声吹恨去:漁夫の吹く笛が一声、(平家滅亡の)恨み(を込めてかのよう)に響いていった。 ・漁笛:漁夫の吹く笛。 ・恨:平家滅亡の恨み。
※養和陵下水如煙:養和(を思い起こさせる安徳天皇の)御陵の下の水面は、靄(もや)がかかって煙るかのようである。 ・養和陵:安徳天皇の御陵を謂う。養和は、安徳帝時代の元号。治承の後、寿永の前。1181年7月14日~養和元年(=治承五年)、1181年5月26日(養和二年:治承六年)までの期間を指す。1181年5月27日~(寿永元年)。この時代の天皇は安徳天皇。源氏と平家との争乱の時代で、源氏側では、この平家側の天皇である安徳天皇の元号・養和を使用せず、治承を引き続き使用した。 ・水如煙:水面は靄(もや)がかかって煙るかのようである。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「眠船煙」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成24.4.4 4.5 4.6 |
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