悲憤詩| 嗟薄  兮遭世患，宗族殄兮門戸單。 身執略兮入西關， 歴險阻兮之羌蠻。 山谷眇兮路曼曼， 眷東顧兮但悲歎。 冥當寢兮不能安， 飢當食兮不能餐， 常流涕兮眥不乾， 薄志節兮念死難， 雖苟活兮無形顏。 惟彼方兮遠陽精， 陰氣凝兮雪夏零。 沙漠壅兮塵冥冥， 有草木兮春不榮。 人似禽兮食臭腥， 言兜離兮状窈停。 歳聿暮兮時邁征， 夜悠長兮禁門  。不能寐兮起屏營， 登胡殿兮臨廣庭。 玄雲合兮翳月星， 北風厲兮肅  。胡笳動兮邊馬鳴， 孤雁歸兮聲嚶嚶。 樂人興兮彈琴箏， 音相和兮悲且清。 心吐思兮匈憤盈， 欲舒氣兮恐彼驚， 含哀咽兮涕沾頸。 家既迎兮當歸寧， 臨長路兮捐所生。 兒呼母兮號失聲， 我掩耳兮不忍聽。 追持我兮走煢煢， 頓復起兮毀顏形。 還顧之兮破人情， 心怛絶兮死復生。  |
悲憤詩******************
其二章
薄（はくこ）を 嗟（なげ）きて 世患に 遭（あ）ひ，
宗族（そうぞく） 殄（ほろ）びて 門戸 單（ひと）つ。
身 執略せられて 西の關に 入り，
險阻（けんそ）を 歴（へ）て 羌蠻（きゃうばん）に 之（ゆ）く。
山谷 眇（べう）として 路 曼曼（まんまん）たり，
東を 眷（かへりみ） 顧（かへりみ）て 但（た）だ 悲歎す。
冥となれば 當（まさ）に 寢ぬべくも 安らかなること 能（あた）はず，
飢となれば 當（まさ）に 食すべくも 餐すること 能（あた）はず，
常に 涕（なみだ）を 流して 眥（まなぢり） 乾（かわ）かず，
志節 薄くして 死を 念（おも）へど 難（かた）く，
苟（かりそめ）にも 活（い）くと 雖（いへど）も 形顏 無し。
惟（おも）ふに 彼方は 陽精 遠く，
陰氣 凝（こ）りて 雪 夏に 零（ふ）る。
沙漠 壅（ふさ）ぎて 塵 冥冥たり，
草木 有りても 春 榮えず。
人は 禽（けもの）に 似て 食臭 腥（なまぐさ）く，
兜離（とうり）を 言ふに 状（さま）は 窈停（えうてい）たり。
歳 聿（ここ）に 暮れて 時 邁征し，
夜 悠長にして 門（もんしゃう）を 禁ず。
寐ぬ 能はずして 屏營（へいえい） 起こり，
胡殿に 登りて 廣庭に 臨む。
玄（くろ）き雲 合（あは）さりて 月星 翳（かげ）り，
北風 厲（きび）しく 肅（しゅく）（れいれい）たり。
胡笳 動きて 邊馬 鳴（いなな）き，
孤雁 歸らんとして 聲 嚶嚶（あうあう）たり。
樂人 興じて 琴箏を 彈（ひ）き，
音 相ひ和して 悲く 且つ 清し。
心 思ひを 吐きて 匈（むね） 憤（いきどほり）に 盈（み）つ，
氣を 舒（くつろ）げんと 欲すれど 彼（か）の驚くを 恐れ，
哀咽を 含みて 涕（なみだ） 頸（くび）を 沾（ぬら）す。
家 既に 迎へて 當（まさ）に 歸寧（きねい）すべく，
長路に 臨みて 生める所を 捐（す）つ。
兒は 母を 呼びて 號して 聲を 失ひ，
我は 耳を 掩（おほ）ひて 聽くに 忍びず。
追ひて 我を 持ちて 走ること 煢煢（けいけい）として，
頓（つまづ）き復（ま）た 起ちて 顏形を 毀（こぼ）つ。
還（な）ほも 之（これ）を 顧（かへりみ）れば 人情を 破り，
心 怛絶（だつぜつ）して 死して 復（ま）た 生まれん。
の娘。後漢末の天下喪乱のため、結果として胡族
に攫われた。彼女について詳しくは、前ページ『胡笳十八拍』を参照
。の作品が載せられ、続いて「其二章曰：」としてこの頁の七言詩の作品が載せられている。なお、彼女作と伝えられる『胡笳十八拍』については、前々ページを参照。兮遭世患：（身の）薄倖と世間の患いに出逢ったことを歎く。 ・嗟：なげく。 *読み下しとは異なるが、「嗟」は「薄兮遭世患，宗族殄兮門戸單。」までかかろう。 ・薄：薄倖。 ・：〔こ；hu4●〕幸福。幸せ。に「吾令羲和弭節兮 望
而匆迫，路曼曼其脩遠兮 吾將上下而求索。」とある。は、武帝の時、匈奴に使いして、十九年間俘虜となるとも節を持したことで名を青史に留める。匈奴の仕打ちに屈することなく、節を持したこと。蘇武と李陵 。：（人生の）夜は、はるかに長く、（その地での生活は）よその家庭との交流を禁じられた。 ・門：〔もんしゃう；men2shang3？「」のshang3は反切よりの復元○●〕門戸の扉に附けた大きな鐶。案内を乞う者はこれをたたいて来意を告げる。：北風が激しく、きびしく凍え。◎ 構成について
| ２００４．８． ３ ８． ４完 ８． ５補 ８． ６ |
