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◎私感訳注:
※清平楽:詞牌の一。詞の形式名。双調。四十六字。換韻。詳しくは「構成について」を参照。この作品は『花間集』第二にある。独りになってしまった女性の嘆きを詠う。
※春愁南陌:春の物思いに耽る南の道。 ・春愁:春の物思い。 ・南陌:南のみち。・陌:道。街路。東西に通じるあぜ道。
※故國音書隔:ふるさとからの手紙が途絶え。 ・故國:ふるさと。 ・音書:たより。手紙。音信。 ・隔:へだたる。便りが途絶えてきた。
※細雨霏霏梨花白:霧雨がしとしととして、梨の花の一枝が春雨に濡れているかの風情で(美女の趣が漂っている)。 *白居易の『長恨歌』に「玉容寂寞涙闌干,梨花一枝春帶雨。」 とある。色白の美貌の女性が(懐旧の)涙を流すさまを聯想させる。 ・細雨:こぬか雨。 ・霏霏:霧雨がしとしとと降るさま。 ・梨花:ナシの花。 ・白:白く咲く。
※燕拂畫簾金額:ツバメが美しい窓のカーテンの金の装飾や縫いとりのある立派な簾額の側を(ツバメ返しに)飛び。 ・燕拂:ツバメが払って触れるように飛び込んでUターンする。 ・畫簾:美しい窓のカーテン。 ・金額:金の装飾や縫いとりのある立派な簾額。
※盡日相望王孫:一日中、王孫(の帰ってくるの)を眺めて(待って)いる。 ・盡日:一日中。終日。 ・相望:見つめている。眺めている。「相」は対象に動作が及んでいる表現。…に。…を。 ・王孫:王族、貴族の子弟。ここでは、(女性の許を離れて旅立っている)男性を指す。男性。『楚辭』の招辞の一種である『招隱士』に「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊, 蛄鳴兮啾啾。」に由来する。ここでの王孫とは、隠士である楚の王族の屈原のこと。ただ、詩詞で使われる王孫とは、女性の容色の衰え等のために、女性の許を離れて旅立っていった男性のことでもある。詩題や詞牌に『王孫歸』 『憶王孫』 『王孫遊』(南齊・謝 )「綠草蔓如絲,雜樹紅英發。無論君不歸,君歸芳已歇。」 としてよく使われる。劉希夷『白頭吟』(代悲白頭翁)「公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」 や、王維の『送別』「山中相送罷,日暮掩柴扉。春草明年綠,王孫歸不歸。」 や、韋荘の『淸平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。 盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。」 や、王維の『山居秋暝』で「空山新雨後,天氣晩來秋。明月松間照,清泉石上流。竹喧歸浣女,蓮動下漁舟。隨意春芳歇,王孫自可留。」 、温庭 の『楊柳枝』「館娃宮外 城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草綠萋萋。 がある。
※塵滿衣上涙痕:塵が衣の上の涙の痕に一杯になっている。 *濡れた涙の後に塵が附いて、涙の形が浮き出ているさまをいう。
※誰向橋邊吹笛:誰が橋のたもとで、笛を吹いているのか。 ・誰:・向:…に。…にて。≒於。 ・橋邊:橋のたもと。 ・吹笛:笛を吹く。
※駐馬西望消痕:馬をとどめて、西の方を眺めて深く悲しんで沈んでいる。 ・駐馬:馬をとどめて。 ・西望:西の方を眺める。夕陽の方になる。西は衰頽をイメージする語でもある。 ・消魂:深く悲しんで意気を失うこと。
◎ 構成について
双調。四十六字。換韻。韻式は「aaaa BBB」。 韻脚は「陌隔白額 孫痕痕」で詞韻第十七部十一陌。第六部平声十一真。
○ ●(仄韻),
●○○●(仄韻)。
● ○○●●(仄韻)。
● ○●●(仄韻)。
○ ●○○(平韻)。
○ ●○○(平韻)。
● ○ ●,
○ ●○○(平韻)。
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