杜甫　絶句　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　dufu

　　　　　　　　　　　　　　唐　杜甫
五絶
絶句

江碧鳥逾白，
山靑花欲然。
今春看又過，
何日是歸年。

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絶句

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
江　碧（みどり）にして　　鳥　逾（いよいよ）よ　白く，
山　靑くして　　花　然（も）えんと欲す。
今春　　看（みすみす）　又た　過ぐ，
何（いづれ）の日か　　是れ　歸年ならん。

　　　　　　　
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◎　私感註釈

※杜甫：盛唐の詩人。７１２年（先天元年）～７７０年（大暦五年）。字は子美。居処によって、少陵と号する。工部員外郎という官職から、工部と呼ぶ。晩唐の杜牧に対して、老杜と呼ぶ。さらに後世、詩聖と称える。鞏県（現・河南省）の人。官に志すが容れられず、安禄山の乱やその後の諸乱に遭って、流浪の生涯を送った。そのため、詩風は時期によって複雑な感情を込めた悲痛な社会描写のものになる。

※絶句：一首が四句から成り立っている短い詩。 *この詩、『唐詩三百首』にはなく、『唐宋詩醇』にもないようだが、『唐詩選』にある。

※江碧鳥逾白：川の水はエメラルドグリーン（なの）で、鳥の色が一層白く引き立ち。　・江：大きな川。主に南部の川。杜甫が成都に避難していたときの作ならば、成都を貫流して長江へ注ぎ込む多数の支流の一になる。「江碧鳥逾白，山靑花欲燃。」は対になっており、「江碧鳥逾白」の一句も「江碧」と「鳥（逾）白」とは句中の対となっている。　・碧：みどりいろ。碧玉色。エメラルドグリーン。なお、あおみどり色は「翠」も使うが、こちらはやや婉約詞の風情がある。もっとも「翠華搖搖」ともいうが…。その場合は皇帝関係。　・鳥：ここでは、白い羽の水鳥のことになる。第一句は川の色と水鳥の色の対比の妙をいう。　・逾：いよいよ。普通、その場合は「愈」を使うが、「愈」は●（上声）で、「逾」は○のため。第一句（起句）は、「○●●○●」で、第四字めはどうしても○にならないとだめなところ。

※山靑花欲然：山の色は青く、花は燃えあがらんばかりである。　・靑：青い。「青」の指す範囲は広いが、ここは平字として、また「山」との取り合わせのよさからこうなった。　・花：（意味の流れから）紅い花。　・欲：…ようとしている。　・然：もえる。＝燃。ここでは、紅いカンナなどの江花が、恰も焔をあげて燃え出すかのように、強烈に咲いているさまをいう。首聯（第一句、第二句）は、「春望」「國破山河在，城春草木深。」とその謂う所は同じである。

※今春看又過：今年の春も、見ている内に、またもや過ぎてしまったが。　・今春：今年の春。この春。春は陰暦一月から三月末（三十日）まで。白居易の『遊趙村杏花』に「趙村紅杏毎年開，十五年來看幾迴。七十三人難再到，今春來是別花來。」とある。　・看：みすみす。伝統的に「みすみす」と読んでいるが、正確ですばらしい読み。ここの「看」には「黙ってみている」「みすみす」「見ている内に」になる。　・又：またもや。またしても。　・過：すぎていく。時間的に、また、地理的に、通り過ぎていく。後世、中唐・白居易の『送春』「三月三十日，春歸日復暮。惆悵問春風，明朝應不住。送春曲江上，眷眷東西顧。但見撲水花，紛紛不知數。人生似行客，兩足無停歩。日日進前程，前程幾多路。兵刀與水火，盡可違之去。唯有老到來，人間無避處。感時良爲已，獨倚池南樹。今日送春心，心如別親故。」とあり、同、『三月三十日題慈恩寺』に「慈恩春色今朝盡，盡日裴回倚寺門。惆悵春歸留不得，紫藤花下漸黄昏。」とあり、同、『三月三十日作』に「今朝三月盡，寂寞春事畢。黄鳥漸無聲，朱櫻新結實。臨風猶長歎，此歎意非一。半百過九年，艷陽殘一日。隨年減歡笑，逐日添衰疾。且遣花下歌，送此杯中物。」とあるのに謂うところは同じ。

※何日是歸年：いったい、いつ、（戦乱が収まって）（郷里へ）帰る年になるのだろうか。　・何日：いつ。いづれの日。　・是：…は…だ。「A是B」で「AはBである」。ここは疑問文なので「AがBであるのか」。　・歸年：郷里に帰る年。安禄山の乱が収まって、郷里に帰られる日。　・歸：郷里、自宅、死等、本来憩う所へかえること。

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◎　構成について

五絶仄起。韻式は「ＡＡ」。韻脚は「然年」で、平水韻下平一先。以下の平仄は、この作品のもの。「看」「過」は、両韻。

○●●○●，
○○○●○。（韻）
○○●●●，
○●●○○。（韻）