家鉉翁寄江南故人　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 JiaXuanweng

                    　　　
      寄江南故人　
      　　　　　　　　　　　家鉉翁

曾向錢塘住，
聞鵑憶蜀鄕。
不知今夕夢，
到蜀到錢塘。

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江南の故人に寄す

曾（かつ）て　錢塘（せんたう）に向（おい）て　住みしとき，
鵑（けん・ほととぎす）を聞かば　　蜀鄕（しょくきゃう）を憶（おも）へり。
知らず　　今夕（こんせき）の夢，
蜀（しょく）に到るか　　錢塘（せんたう）に到るかを。

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◎　私感註釈

※家鉉翁：南宋末～元時代の人。元軍が南宋の都・臨安（現・杭州）に迫ったとき、元への請願の使節として大都（燕京・現・北京）へ赴き、その地に留まる。眉州（現・四川省眉山県）の人。詩からみて、四川省眉州⇒南宋の首都臨安（銭塘・現・杭州）⇒元の首都・大都カムバリク（燕京・現・北京）へと移り住んだことが分かる。

※寄江南故人：（北京でいる作者が）江南の（恐らく銭塘の）古い友人に詩を郵送で送る。　・寄：手紙で（詩歌を）送る。　・江南：長江下流域南岸一帯を指す。後出の銭塘もその地方の中にある。　・故人：古くからの友人。古い知り合い。

※曾向錢塘住：（生まれ故郷の四川・眉州を離れて、）曾（かつ）て、（江南にある南宋の首都）銭塘に住んでいたことがあったが（その時は）。　・曾：今までに…したことがある。かつて。　・向：…に於いて。…で。…に。≒於。曹植の『七歩詩』「煮豆持作羹，漉鼓以爲汁。向釜下然，豆在釜中泣。本是同根生，相煎何太急？」や、韋荘の『淸平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。　　盡日相望王孫，塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛，駐馬西望消魂。」や、李煜の『望江南』「多少涙，斷臉復橫頤。心事莫將和涙説，鳳笙休向涙時吹，腸斷更無疑。」とある用例に同じ。「向かう」の意はここではない。　・錢塘：〔せんたう；Qian2tang2○○〕現・杭州市。銭塘・餘杭・臨安（現・浙江省杭州市）。『中国歴史地図集』第六冊　宋・遼・金時期（中国地図出版社）５９－６０ページ「南宋　両浙西路両浙東路江南東路」に、臨安府に錢塘がある。　・住：留まる。住む。

※聞鵑憶蜀鄕：ホトトギスの鳴き声を聞けば（生まれ故郷である）四川省の故郷を思い出したものだった。　・聞：聞く。聞こえる。　・鵑：〔けん；juan1○〕ほととぎす。哀しげな鳴き声で知られる鳥。　・憶：〔おく；yi4●〕思い出す。思い遣る。　・蜀鄕：四川省の故郷。作者の生まれ故郷。

※不知今夕夢：（今や、元の都・大都カムバリク（現・北京）に住むようになったが）今宵の夢は（生まれ故郷の蜀・四川に行くのか、任官の地の（手紙の相手と知り合った）江南・銭塘に行くのか、どちらになるのかは）分からない。　・不知：分からない。　・今夕：今宵。

※到蜀到錢塘：（生まれ故郷の）蜀・四川に行くのか、（第二の故郷）江南・銭塘に行くのか。　*江南の銭塘は、第二の故郷となったということ。　・到：（…に）到る。　・蜀：四川省。

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◎　構成について

韻式は「AA」。韻脚は「鄕塘」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。

○●○○●，
○○●●○。（韻）
●○○●●，
●●●○○。（韻）