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      淮村兵後 
                 戴復古

小桃無主自花開,
煙草茫茫帶晩鴉。
幾處敗垣圍故井,
向來一一是人家。


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淮村兵後
小桃 主(あるじ) 無くして  自ら花 開き,
煙草 茫茫
(ばうばう)として  晩鴉を 帶ぶ。
幾處かの 敗垣
(はいゑん)  故井(こせゐ)を 圍(かこ)み,
向來 一一  是れ 人家。

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◎ 私感註釈

※戴復古:南宋の詩詞人。1167年〜(没年不詳)。字は式之。号は、故郷の南塘の石屏山に隠棲したことに因み、石屏と称する。天台黄岩(現・浙江省)の出身。江湖派の詩人として有名。江湖派とは、南宋中期、後期の詩歌流派の一で、江湖を流離った人々、つまり、進士試験の落第生や野にある知識人で、時の中央の詩壇に対して、下層社会(江湖)の中に出来あがった、社会の下層知識人の詩壇であると謂える。名の由来は、陳起が江湖(世間)の作品を集めて『江湖集』をはじめとして、『江湖×集』『江湖○集』という具合に、出版を続けたことによる。詩人は、本サイトに出てくる人物では、劉過、姜、劉克荘、そしてこのページの戴復古などである。作風は、その社会的立場を反映して、中央政権や社会の中の矛盾には批判的な面を持ったものを、或いは、社会の第一線から身を引いて隠棲し、斜に構えた態度でのものが多い。

※淮村兵後:淮河流域の国境の村で、金軍の侵入後のありさまをうたう。 ・淮村:淮河流域の村落。国境の村。南宋では、淮河が国境線となり、淮河以北は金の領土となってしまった。 ・兵:いくさ。わざわい。また、兵士。また、武器。ここでは金軍の侵入の事態を指す。

※小桃無主自花開:庭に植えられていた小さな桃の樹は(愛でる)主人がいなくなっても自然と花が開き。 ・小桃:小さな桃の樹。 ・無主:花を世話し、愛でるあるじがいないこと。陸游の『卜算子』詠梅に「驛外斷橋邊,寂寞開無主。已是黄昏獨自愁,更著風和雨。   無意苦爭春,一任羣芳妬。零落成泥碾作塵,只有香如故。」 とある。 ・自花開:自然と花が開く。「花自開」の方が分かりよいが、平仄上できない。

※煙草茫茫帶晩鴉:遠くの霞んだ草むらは、ぼうっとして果てしなく、夕暮れに鳴きながら巣に戻るカラスの姿が長く列になって続いている。 ・煙草:霞みでぼんやりとした遠くの草むら。賀鋳の『青玉案(凌波不過横塘路)』の「若問閑情都幾許?一川
煙草,滿城風絮,梅子黄時雨」とある。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕広々として果てしないさま。ぼうっとして、はっきりとしないさま。草が多く生えて乱れているさま。『古詩十九首之十一』の「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」や、東晋・陶淵明の『挽歌詩其三』「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。」や、東晉・陶潛『擬古・九首』其四「迢迢百尺樓,分明望四荒。暮作歸雲宅,朝爲飛鳥堂。山河滿目中,平原獨茫茫。古時功名士,慷慨爭此場。一旦百歳後,相與還北。松柏爲人伐,高墳互低昂。頽基無遺主,遊魂在何方。榮華誠足貴,亦復可憐傷。」や、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。   夜來幽夢忽還ク。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」がある。 ・晩鴉:夕暮れに鳴きながら巣に戻るカラス。

※幾處敗垣圍故井:何カ所かの壊れた垣(かき)が古井戸を囲んでいる(ところがあるが)。 ・幾處:何カ所(かの)。 ・敗垣:壊れた垣根。 ・圍:かこむ。 ・故井:古井戸。

※向來一一是人家:今まで、ひとつひとつが人の住まいであった。 ・向來:これまで。今まで。 ・一一:ひとつひとつ。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・人家:人の住まい。

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◎ 構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「開鴉家」で、平水韻上平十灰(開)、下平六麻(鴉家)。押韻の通用が大きいが、この時代、中国では、大きく発音が変わってきているのか。詩韻の「上平九佳」周辺が、なんだか不安定。次の平仄はこの作品のもの。

●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○●●●○○。(韻)

2007. 8.30完
2018. 7.24補
2019. 7.23
2020.10.28

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