冒刃扶姑命, 軀殘刃折鋩。 至今荒塚裏, 贏得血痕香。 |
![]() |
烈婦 寥周 氏を挽 む
刃 を冒 して姑 の命を扶 けんとし,
軀 は殘 ひて刃 は鋩 を折 る。
今に至 るも荒塚 の裏 に,
贏 ち得たり血痕 の香 を。
******************
◎ 私感訳註:
※王夫之:(おう ふうし)明末・清初の思想家。1619年(万暦四十七年)~1692年(康熙三十一年)。字は而農。号は薑斎。衡陽(現・湖南省内)の人。清兵が湖南に侵入した時は、兵を挙げて抵抗した。のち、郷里の石船山に隠棲し、著述に専念した。
※挽烈婦寥周氏:気性が強く節義を守る女性である「寥(りょう)家」に嫁(とつ)いだ、「周家」出身の女性(寥周氏)をいたむ。 ・挽:死者をいたむ。もと、死者の柩(ひつぎ)を挽(ひ)く。 ・烈婦:操(みさお)の堅(かた)い女。ここでは、気性が強く節義を守る女、を指す。明末(清初)の動乱期に、清の兵が寥家を襲った際、姑(しゅうとめ)を護るために、剣(つるぎ)を以て敵勢と戦い、節義を全(まっと)うしたことを謂う。 ・寥周氏:「寥(りょう)家」に嫁(とつ)いだ、「周家」出身の女性。
※冒刃扶姑命:刃(やいば)を押し切って突き進んで、しゅうとめをたすけ(ようとして)。 ・冒:押し切って突き進む。おかす。 ・刃:やいば。 ・扶:たすける。 ・姑:しゅうとめ。夫の母。
※躯残刃折鋩:(我が)身は損なって、刃(やいば)は切っ先を折った。 ・躯:〔く;qu1○〕からだ。むくろ。 ・残:そこなう。ころす。ほろぼす。きずつける。 ・鋩:〔ばう;mang2○〕きっさき。
※至今荒塚裏:今なお、荒れ果てて雑草が生い茂った土を盛り上げた墓の中で。 ・至今:今に至るまで。未だに。今なお。 ・荒塚:荒れ果てて雑草が生い茂った土を盛り上げた墓。 ・裏:(…の)中。
※贏得血痕香:血の痕(あと)の香りを勝ち得ているのだ。 ・贏得:(その結果)…を贏(か)ち得た。(勝ち得た)。(その結果)…を獲得した。勝ち得る。手に入れる。晩唐・杜牧の『遣懷』に「落魄江南載酒行,楚腰腸斷掌中輕。十年一覺揚州夢,贏得青樓薄倖名。」とあり、同じく杜牧の『歸家』に「稚子牽衣問,歸來何太遲。共誰爭歳月,贏得鬢邊絲。」
とある。 ・香:かぐわしい。 *血の臭いを、「臭」「嗅」「腥」…等を使わないで「香」を使ったのは、作者の烈女の行為に対する評価。
◎ 構成について
2021.7.15 7.16 |
![]() トップ |