狂詩 | ||
身程不知 | ||
一枝堂主人 | ||
位牌知行如我功, 忘君親恩勤業空。 才藝劣他武具蠹, 大祿高鼻俗士風。 |
位牌 知行 我が功 の如 く,
君親 の恩を忘れて業 を勤 むること空 し。
才藝 は他 に劣 りて武具 は蠹 ふ,
大祿 鼻を高うす俗士 の風。
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◎ 私感註釈
※一枝堂主人:江戸時代享保年間に活躍する狂詩作家。~享保二十年(1735年)。姫路藩出身の浪人で江戸に住む。
※狂詩:江戸中期以降、明治にかけて流行した滑稽・洒脱を主とする漢詩体をとった詩。押韻や平仄などの漢詩作法や格律には基本的には則り、(日本語の)俗語や卑語を交えての滑稽や洒脱、諷刺を主とした通俗的な日本漢詩体。狂歌・川柳の漢詩版とも謂えるもの。なお、この作品『身程不知』は、押韻はしているが、平仄には顧慮していない。
※身程不知:身の程知らず。自分の身分や能力などの程度をわきまえない(人)。 *先祖が立てた手柄の結果としての高禄を、世襲制のため、子孫がその能力もないのに高禄を得ていることを詠ったもの。 ・身程:みのほど。和語。自分の身分や能力などの程度。分際(ぶんざい)。
※位牌知行如我功:(先祖が得た)位階や俸禄を、自分の功績であるかのように(思い振る舞い)。 ・位牌:死者の戒名、または俗名を書いた木の札(ふだ)。この「位牌」の語は、「位階」「位勲」「位官」等の意で使われたのではなかろうか。 ・知行:(君主から支給される)俸禄。扶持(ふち)。本来の意は、与えられた知行国の職務を執行すること。 ・如: ・我功:自分の手柄(てがら)。
※忘君親恩勤業空:君主と親の恩を忘れて、職務に従事する(さまも)空虚である。 *伝統的な詩では「忘・君親・恩+勤業空」といった節奏の例は少ない。基本的には「□□・□□+□□□」となるべきもの。 ・君親恩:君主と親の恩。 ・勤業:本来は、仏道の修行する意だが、ここでは、職務に専念する意で使われていよう。 ・空:空虚である。内容がない。無駄である。
※才芸劣他武具蠹:才知と技芸は他人よりも劣っており、(武士が本務として重視すべき鎧(よろい)、兜(かぶと)といった)武具も、虫が食っている。 ・才芸:才知と技芸。 ・劣:おとる。 ・他:他人。 ・武具:鎧、兜、槍、刀などの戦いに用いる道具。武器。 ・蠹:〔と;du4●〕むしばむ。虫が食う。(物事をそこないやぶる。)また、きくいむし。ここは、前者の意。=蠧、螙。
※大禄高鼻俗士風:高禄で得意げなさまは、つまらぬ俗人の姿である。 ・大禄:多くの禄高。多くの知行。多額の俸禄。高禄。 ・高鼻:鼻高々。いかにも得意そうであるさまの和語の意。また、高くとおった鼻すじ。洟(はな)をかむときに、大きな音をたてること。ここは、前者の意。 ・俗士:通常の人。世間なみの人。世俗的な人。見識の低いつまらぬ人。俗人。俗子。 ・風:姿。いきおい。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「功空風」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●○○○○●○,(韻)
●○○○●●○。(韻)
○●●○●●●,
●●○●●●○。(韻)
平成23.3.13 3.14 |
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