山郭 | ||
乾十郎 |
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花霧柳烟吟杖迷, 風輕麥浪漲田畦。 憩途餉婦向人説, 春滿城南桃李谿。 |
花霧 柳烟に吟杖 は 迷ひ,
風輕 やかに 麥の浪は田畦 に漲 る。
途 に憩 へば餉婦 人に向かひて説 く:
「春は滿 つ 城南桃李 の谿 に」と。
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◎ 私感註釈
※乾十郎:幕末の倒幕・尊攘運動の過激派。文政十年(1827年)〜元治元年(1864年)。名は嗣龍。字は希潜。号は縦龍、世龍。森田節斎に儒学を学び、弟の森田仁庵に医学を学び、梅田雲浜に国学を学ぶ。医師となって大坂(現・大阪市)や郷里の大和(現・奈良県)の五条で開業する。文久三年(1863年)、天誅組の挙兵に加わり、敗れて処刑された。
※山郭:山沿いの村。山に囲まれた村。また、聚落の外周の建物。ここは、前者の意。晩唐・杜牧の『江南春絶句』に「千里鶯啼拷f紅,水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺,多少樓臺烟雨中。」とある。 *作者が平穏な生活を送って時期の作品になろう。
※花霧柳烟吟杖迷:花にたちこめる霧や柳にかかる靄(もや)が、詩人が詩作をするために散策する時に持つ杖の運びを迷わせて。(=春の美しい光景に見とれてしまい、詩人としての私の足取りを狂わせて。) ・花霧:花にたちこめる霧(きり)の意。 ・柳烟:柳にかかる靄(もや)の意。 ・吟杖:詩人が詩を考えるために散策する時に持つ杖。
※風軽麦浪漲田畦:風は軽やかに(吹いて)、麦の穂の浪は、田畑の畦(あぜ)に漲(みなぎ)っている。 ・軽:かろやか(に)。 ・麦浪:(風に)波打つ(畑の)ムギの穂の意。 ・漲:〔ちゃう;zhang4●〕みなぎる。 ・田畦:〔でんけい;tian2qi2○○〕 田畑のあぜ。
※憩途餉婦向人説:道で休息を取っている(れば、)食べ物を振る舞う女性が人々に言うことには。 ・憩:休息する。やすむ。いこう。 ・途:みち(道)。みちすじ。 ・餉:〔しゃう;xiang3●〕食糧を饋(おく)る。供応する。酒食を振る舞う。 ・向人説:人に向かって言う。
※春満城南桃李谿:「春は、山里の南のモモやスモモ(の花)の谷間に満ちている」とのことだ。 ・桃李:モモやスモモ(の花)。 ・谿:谷。谷川。=渓(溪)。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「迷畦谿」で、平水韻上平八齊。この作品の平仄は、次の通り。
○●●○○●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
○●○○○●○。(韻)
平成24.12.13 |
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