薄粥不足飽 | ||
河上肇 |
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薄粥不足飽, 爐火幽如螢。 誰憐破屋底, 風寒病骨冷。 |
薄粥 飽 するに足 らず,
爐火 幽 なること螢 の如し。
誰 か憐 まん破屋 の底の,
風 寒くして病骨 に冷 きを。
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◎ 私感註釈
※河上肇:明治十二年(1879年)〜昭和二十一年(1946年)。マルクス主義経済学者。山口県の人。東京帝国大学卒業後、大学教授となり、次第にマルクス主義に近づき、やがて、新労農党、共産党と活動して、治安維持法違反で検挙された。主義のため、信念を貫くために地位と名誉を捨てた。詩作は検挙後に始めたというが、その詩は、作者の専門外とはいうものの、見事なものである。詠物、叙景の詩が文人の作詩の主流となっている現代日本詩では異色で、興味をそそられる慨世の作品群を遺している。
※薄粥不足飽:うすいかゆでは、満腹するには十分ではない。 *昭和二十年三月のもの。第一句を以て詩題とした。
※薄粥不足飽:うすいかゆでは、満腹するには十分ではなく。 ・薄粥:〔はくしゅく;bao2(bo2)zhou1●●〕うすいかゆ。 ・飽:〔はう;bao3●〕あきる。食物が充分にある。満足する。
※爐火幽如螢:火鉢(ひばち)の火は、かすかで、ホタルのようである。 *作者の同時期の詩歌を見れば、暖房にも不自有していたことがうかがえる。 ・爐火:暖炉の火。日本風に謂えば、火鉢(ひばち)の火。ここは、恐らく後者の意。 ・幽:かすか。ほのか。 ・如:…のようである。
※誰憐破屋底:だれが、あばらやの内で……していることを憐れに思おうか。 ・誰-:だれが…しようか。たれか…ん。反語の形式。 ・破屋:あばらや。やぶれや。 ・底:なか(内)。奥。下部。
※風寒病骨冷:(だれが、あばらやの内で、家の中にしのびこむ)風が冷たく、病気がちなからだ(を憐れに思おうか)。 ・病骨:病気にかかっているからだ。病気がちなからだ。=病躯、病身。なおこれらの使い分けは、「病骨」は(●●であって、)●●とすべきところで用い、「病躯」や「病身」は(●○であって、)○○とすべきところで用いる。 ・冷:ひえる。 *なお、「冷」は平水韻上声二十三梗であって、「螢」は平水韻下平九青で、押韻はしていない。
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◎ 構成について
押韻は無い。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●,
○●○○○。?
○○●●●,
○○●●●。?
平成25.2.8 |
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