室積夜泊夢家翁 | ||
高杉晉作 |
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分明夜半見家翁, 耐喜温顏與舊同。 一夢醒來心未覺, 尚疑人影在舟中。 |
分明 に 夜半家翁 に見 ゆ,
喜びに耐 へんや温顏 の舊 と同じきを。
一夢 醒 め來 りて 心未 だ覺 めず,
尚 ほ疑ふ人影 の舟中 に在 るかと。
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◎ 私感註釈
※高杉晋作:天保十年(1839)〜慶應三年(1867)。幕末の尊皇攘夷運動の志士。長州藩士。病歿する。
※室積夜泊夢家翁:室積(むろづみ)に、夜に船が船着き場に碇泊した時、家長である父親の夢を見た。 ・室積:むろづみ。現・山口県南東部の光(ひかり)市の一地区。 ・夜泊:夜に船が船着き場に碇泊すること。中唐・張繼の『楓橋夜泊』に「月落烏啼霜滿天,江楓漁火對愁眠。姑蘇城外寒山寺,夜半鐘聲到客船。」 がある。 ・夢:夢に見る。ゆめむ。動詞。 ・家翁:家長。家の主人。ここでは、父親のことになる。
※分明夜半見家翁:あきらかに、夜中に家長である父親にまみえた。 ・分明:あきらかに。 ・夜半:よなか。まよなか。 ・見:まみえる。みる。
※耐喜温顔与旧同:よろこびにたえないのは、やさしくておだやかな顔つきは、昔と同じである。 ・耐喜:「よろこびにたえない」の意。 ・温顔:やさしい顔つき。おだやかな顔つき。 ・与…同:…と同じである。 ・旧:むかし。
※一夢醒来心未覚:儚(はかな)い夢から目覚めてきたが、心はまだ覚(さ)めていない。 ・一夢:一回夢を見る間の短い時間。儚(はかな)いさま。 ・醒来:さめてくる。さめてきた。「〔動詞〕+来」は、方向補語の用法で、物事をこちら側に近づけさせる表現。
※尚疑人影在舟中:なおまだ(父親の)姿が舟の中にあるのではないかと疑ってしまう。 ・尚:なお。まだ。なおも。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「翁同中」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●◎○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成25.8.17 8.18 8.19 |
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