北条時頼頌遺偈　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


遺偈

	北條時賴
業鏡高縣　三十七年一槌打碎　大道坦然

******

頌(じゅ)　遺偈

業鏡(げふきゃう)　高く縣(か)く
三十七(さんじふしち)年
一槌(いつつゐ)に　打碎( ださい)して
大道(たいだう)　坦然(たんねん)たり

　　　　　*****************

◎　私感註釈

※北条時頼：鎌倉幕府五代執権。嘉禄三年の時に生まれる（≒歳末は安貞元年）（＝１２２７年）～弘長三年（１２６３年）。相模守。正四位下。父は北条時氏。母は松下禅尼。執権就任とともに、前将軍をめぐる陰謀を事前に押さえ、翌・宝治元年三浦氏を族滅。建長元年に引付衆をおいて裁判の敏活公正をはかるなど幕政の発展と北条氏独裁体制の確立に努力した。民生にも意を用い、ために、諸国回国伝説が生まれた。弘長三年十一月二十二日死去。三十七歳。法名は道崇。

※頌：仏徳を讃える詩。　・遺偈：高僧が死後に遺す仏徳をたたえることば。三字または四字の句を四句並べたもの。『吾妻鏡』第五十一　弘長三年（１２６３年）十一月廿二日の項に、「頌云：『業鏡高縣三十七年　一槌打碎大道担然』弘長三年十一月廿二日道崇（時頼の法名）珍重」（五巻５１１ページ）とある。

※業鏡高縣：（娑婆で作った）罪悪をうつす（地獄の）鏡を高らかにつりさげていた…。　・業鏡：〔ごふきゃう〕仏教用語で、娑婆（しゃば）で作った罪悪をうつす地獄の鏡。　・縣：かける。つりさげる。ひっかける。かかげる。

※三十七年：三十七年間（であった）。　・三十七年：三十七年間の意で、作者の一生涯。嘉禄三年（１２２７年）～弘長三年（１２６３年）。

※一槌打碎：（業鏡を）つちで一撃に打ち砕くと。　・槌：〔つゐchui2○〕つちで打ちたたく。うつ。　・打碎：うちくだく。

※大道坦然：大きな（悟りの）道が広がった。/煩悩を解脱して、安らかで自由な悟りの境地に達した。　・大道：〔たいだう；da4dao4●●〕仏教用語で、すぐれた教え。仏道。また、大きな道路。大通り。人の守るべき正しい道。ここは、前者の意。　・坦然：〔たんぜん（たんねん）；tan3ran2●○〕平らなさま。平然としているさま。平気である。率直公明なさま。

　　　　　　　　　　　　　　　***********

◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は、「懸年然」。平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○，（韻）
○●●○。（韻）
●○●●，
●●●○。（韻）