勸學 | ||
木戸孝允 |
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駑馬雖遲積歳多, 高山大澤盡堪過。 請看一掬泉巖水, 流作汪洋萬里波。 |
駑馬 遲しと雖 も積歳 多ければ,
高山大澤 盡 く過ぐるに堪へたり。
請 ふ看 よ一掬 泉巖 の水 ,
流れて汪洋 萬里 の波と作 る。
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◎ 私感註釈
※木戸孝允:政治家。桂小五郎。号して松菊。長州藩出身。吉田松陰に師事。慶応二年(1866年)、薩長連合を結び、倒幕・王制復古運動を指導した。維新後、新政府の中心となり、版籍奉還、廃藩置県を断行し、政体書による官吏公選など開明的諸施策を建言し続け、参議内閣制の確立に努めた。天保四年(1833年)〜明治十年(1877年)。
※勧学:学問を奨励する。発憤努力を勧める。
※駑馬雖遅積歳多:のろい馬で、のろのろとした歩みであっても、多年に亘れば。 ・駑馬:〔どば;nu2ma3○●〕のろい馬。下等の馬。転じて、にぶい。才能の劣ったもの。『荀子・勸學』に「積土成山,風雨興焉;積水成淵,蛟龍生焉;積善成コ,而~明自得,聖心備焉。故不積蹞歩,無以至千里;不積小流,無以成江海。騏驥一躍,不能十歩;駑馬十駕,功在不舍。」とある。 ・雖: ・遅:のろのろとして動きがおそい。ぐずぐずして動きがおそい。蛇足になるが、時期・タイミングがおくれる場合の「おそい」は「晩」とする。 ・積歳:〔せきさい;ji1sui4●●〕多くの年月を経る。=積年、累年、多年。「積歳」と「積年」とは同義だが、(語調の都合での使い分けもあるだろうが、先ずは)平仄の都合で使い分ける。「積歳」は「●●」で、詩句中の●●となるところで使い、「積年」は「●○」であって○○(または●○)となるところで使う。この「駑馬雖遅積歳多」句は「●●○○●●○」とすべきところで、原詩の通り「積歳」(●●)とするのが適切。
※高山大沢尽堪過:高い山や大きな沢等は、ことごとく通り過ぎることができる。 ・高山大沢:高い山と大きな沢との意。 ・尽:ことごとく。 ・堪:〔かん;kan1○〕もちこたえる。こらえる。がまんする。(「たん」の読みは慣用読み)。
※請看一掬泉巌水:どうぞ御覧あれ、(水が湧き出る)岩間(いわま)の一(ひと)掬(すく)いの水((=僅かな水)であっても)。 ・請看:御覧下さい。どうぞ御覧あれ。請(こ)う看よ。 ・一掬:ひと掬(すく)い。 ・泉巌:水が湧き出る岩間(いわま)の意。
※流作汪洋万里波:(やがては、大海原の)水の深くて広い遥か彼方から打ち寄せてくる波となるのを。 ・作:…となる。 ・汪洋:水の深くて広く、際限のないさま。 ・万里波:遥か彼方から打ち寄せてくる波の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「多過波」で、平水韻下平五歌。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●◎●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
平成28.2.12 2.13 2.14 |
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