墨水竹枝 | ||
山内容堂 |
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水樓酒罷燭光微, 一隊紅粧帶醉歸。 繊手煩張蛇眼傘, 二州橋畔雨霏霏。 |
水樓 酒罷 みて 燭光微 かに,
一隊の紅粧 醉 を帶びて歸る。
繊手 張るを煩 はす蛇眼傘 ,
二州 橋畔 雨霏霏 たり。
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◎ 私感註釈
※山内容堂:幕末の土佐藩主。文政十年(1827年)〜明治五年(1872年)。名は、豊信。容堂は号。別号に、忍堂、鯨海酔侯。吉田東洋らを登用して藩政改革を断行。安政五年(1858年)、将軍継嗣問題にあたり一橋慶喜の擁立に尽力。井伊大老による専制と安政の大獄で、容堂は隠居を願い、幕府より謹慎の命が下った。その後、容堂は公武合体運動を進めた。慶応三年(1867年)、十五代将軍・徳川慶喜に大政奉還を建白し、公武合体論による幕府権力の温存を図った。
※墨水竹枝:隅田川をうたった竹枝詞。 ・墨水:隅田川を漢風に謂う。 ・竹枝:民間の歌謡のことで、庶民の生活感情を詠った(唱った)、主に七言絶句形式の詩。格律は七言絶句より緩い。各地の名称を入れ、『□□竹枝』という場合がある。詳しくはこちら。
※水楼酒罷燭光微:川沿いの料亭での酒盛りも終わって、(照明のための)燭台の火も微(かす)かになって。 ・水楼:水辺のたかどの。水閣。 ・罷:〔は(ひ);ba4●〕やめる。終わる。現代・周恩來に『大江歌罷』「大江歌罷掉頭東,邃密羣科濟世窮。面壁十年圖破壁,難酬蹈海亦英雄。」がある。 ・微:かすかである。
※一隊紅粧帯酔帰:一群の接待役の女性たちが、酒気を帯びながら帰っていく。 ・隊:多人数の集団。むれ。 ・紅粧:化粧した美人。美人のよそおい。紅(べに)おしろい。ここは、前者の意で、芸者等を謂う。
※繊手煩張蛇眼傘:女性のか細い手を煩(わずら)わせて、蛇の目傘を開いている。 ・繊手:〔せんしゅ;xian1shou3○●〕女性の細く美しい手。前出・芸者の手のことになる。 ・煩:まどわす。いとわしい思いをさせる。 ・張:(傘を)開く、意。 ・蛇眼傘:じゃのめがさ。蛇の目模様(同心円状の模様)を施した傘。
※二州橋畔雨霏霏:両国橋のほとりには、雨がしとしとと降っている。 ・二州橋:両国橋を漢風に謂う。 ・霏霏:〔ひひ;fei1fei1○○〕雨などがはらはらと降るさま。霧雨がしとしとと降るさま。また、雨や雪などが、甚だしく降るさま。晩唐・韋莊の『金陵圖』に「江雨霏霏江草齊,六朝如夢鳥空啼。無情最是臺城柳,依舊烟籠十里堤。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「微帰霏」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
令和2.9.22 9.23 |
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