蘇舜欽淮中晩泊犢頭　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Su Shunxin

淮中晩泊犢頭

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　蘇舜欽

春陰垂野草靑靑，
時有幽花一樹明。
晩泊孤舟古祠下，
滿川風雨看潮生。

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　　　　　　　　　　淮中にて　晩に犢頭に泊す

春陰　野(の)に垂(た)れて　　草　青青たり，
時に　幽花(いうくゎ)　有りて　　一樹明るし。
晩(くれ)に　孤舟を泊す　　古祠の下(もと)，
滿川(まんせん)の風雨　　潮の生ずるを看る。

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◎　私感訳註：

※蘇舜欽：北宋の詩人。１００８年～１０４８年。字は子美。梓州銅山（現・四川省中江）の人。若くして蔭補により、任官。仁宗の景祐元年（１０３４年）の進士。後に、范仲淹に認められたが、反対派により弾劾されて蘇州に移住し、滄浪亭を造り、読書と作詩に没頭した。その詩は、雄志を述べる道をふさがれた感慨の述べて悲憤慷慨したものとなっている。

※淮中晩泊犢頭：淮河の船旅の途上で、夕暮れに犢頭に碇泊して。　・淮：〔わい；Huai2○〕淮水（現・淮河）華中を流れる河。金と南宋との国境線（地図）となった川。黄河と長江の間にあって、長江、黄河に次ぎ、中国第三の大河。河南省南端の桐柏山に源を発し、安徽省を流れて、江蘇省の洪沢湖を経て大運河に注ぐ。なお、淮河は南宋時代になると、紹興十一年（１１４１年）十二年の対金媾和以降、淮河を国境とすること（＝華北は金国のものとする）。南宋は、金国に対して臣礼をとる。銀二十五万両、絹二十五万匹を歳貢とする、などの屈辱的条件で媾和した。このとき、南宋は拉致された欽宗の帰国要求をしなかったために、やがて客死した。主戦派の岳飛は、同年暮、大理寺に死を賜った。当時の政治は秦檜が主導していた。『宋史・本紀・第二十九』の最後の部分「（紹興十一年十一月己亥）與金國和議成，立盟書，約以淮水中流畫疆，割唐、鄧二州之，歳奉銀二十五萬兩、絹二十五萬匹，休兵息民，各守境土。詔川、陝宣撫司毋出兵生事，招納叛亡。」とある。『中国歴史地図集』第六冊　宋・遼・金時期（中国地図出版社）５２－５３ページ「金　南京路」、５４－５５ページ「金　山東東路　山東西路」、６２ページ「南宋　淮南東路　淮南西路」に明瞭に画かれている。（地図）　・泊：舟をとめる。宿る。唐・鄭谷に『淮上與友人別』「揚子江頭楊柳春，楊花愁殺渡江人。數聲風笛離亭晩，君向瀟湘我向秦。」とある。　・犢頭：〔とくとう；Du2tou2〕淮河沿いにある地名で、犢頭鎮のこと。現・江蘇省の淮陰県にある。『中国歴史地図集』第六冊　宋・遼・金時期（中国地図出版社）２２－２３ページ「北宋淮南東路淮南西路」『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期４４－４５ページ「唐都畿道河南道」には無い。

※春陰垂野草青青：春の雲が野に垂れこめているが、草は青青として。　・春陰：春の雨雲。　・垂野：原野に垂れ籠める。　・草青青：草が青々としているさま。『古詩十九首』之二に「青青河畔草，鬱鬱園中柳。盈盈樓上女，皎皎當窗牖。娥娥紅粉妝，纖纖出素手。昔爲倡家女，今爲蕩子婦。蕩子行不歸，空牀難獨守。」とある。

※時有幽花一樹明：時に、ひそやかに咲く花で木の（周りだけがぱっと）明るくなっている。　・時有-：時には…がある。中唐・白居易の『香鑪峰下新置草堂即事詠懷題於石上』に「有時聚猿鳥，終日空風煙。時有沈冥子，姓白字樂天。平生無所好，見此心依然。如獲終老地，忽乎不知還。」とあり、後世、楊萬里は『夏夜追涼』で「夜熱依然午熱同，開門小立月明中。竹深樹密蟲鳴處，時有微涼不是風。」と使う。　・幽花：ひそやかに咲く花。後世、清・丘逢甲の『西貢雜詩』に「金碧樓臺眼界新，競將工巧詫西人。竹籬茅舍清江上，幾樹幽花本色春。」とある。　・一樹明：一本の木だけ花が咲き誇り、そこだけが明るくなったように感じることを謂う。後世、南宋・陸游は『遊山西村』で「莫笑農家臘酒渾，豐年留客足鷄豚。山重水複疑無路，柳暗花明又一村。簫鼓追隨春社近，衣冠簡朴古風存。從今若許閒乘月，拄杖無時夜叩門。」と表現する。

※晩泊孤舟古祠下：日が暮れて、（作者の乗った）孤独な小舟は、古いほこらのもとに泊（と）まった（ところ）。　・孤舟：ぽつんとひとつだけの小舟。詩詞では孤独な人生の旅路にある者の表現にも使う。盛唐・杜甫『登岳陽樓』に「昔聞洞庭水，今上岳陽樓。呉楚東南坼，乾坤日夜浮。親朋無一字，老病有孤舟。戎馬關山北，憑軒涕泗流。」とあり、中唐・柳宗元の『江雪』に「千山鳥飛絶，萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁，獨釣寒江雪。」とある。　・古祠：古いほこら。

※滿川風雨看潮生：河一面の風や雨の嵐で、見る見るうちに水が漲（みなぎ）ってきた。（＝水かさが増してきた）。　・滿川：河一面。　・潮生：上げ潮で河の水が漲（みなぎ）ってくることを謂う。初唐・張若虚の『春江花月夜』「春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」とある。