蘇軾吉祥寺賞牡丹　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Su Shi

吉祥寺賞牡丹

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　北宋・蘇軾

人老簪花不自羞，
花應羞上老人頭。
醉歸扶路人應笑，
十里珠簾半上鉤。

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　　　　　　　　　　　吉祥寺(きつしゃうじ)にて牡丹( ぼたん)を賞(しゃう)す

人は　老いて花を簪(かざ)すも　　自(みづか)ら羞(は)ぢず，
花は　應(まさ)に老人の頭(かうべ)に上(のぼ)るを羞づべし。
醉(ゑ)ひて歸り　扶路(ふろ)さるるを　　人々(ひとびと) 應(まさ)に笑ふべし，
十里の珠簾(しゅれん)　　半(なか)ば鉤(こう)に上(のぼ)る。

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◎　私感訳註：

※蘇軾：北宋の詩人、文化人、政治家。字は子瞻。号は東坡。現・四川省眉山の人。景祐三年（１０３６年）～建中靖國元年（１１０１年）。三蘇の一で、（父：）蘇洵の老蘇、（弟：）蘇轍の小蘇に対して、大蘇といわれる。

※吉祥寺賞牡丹：（杭州の）吉祥寺（きっしょうじ）でボタンの花を観賞した。　・吉祥寺：杭州にあった寺院名。ボタンの名所。西湖の真北８キロメートルのところにある。　・賞：観賞する。見て楽しむ。めでる。　・牡丹：観賞用に栽培される落葉低木。晩春より初夏に、白色乃至淡紅色の大輪の花を著ける。ボタン科。

※人老簪花不自羞：人（＝作者：わたし：蘇軾）が老いて（老人の身で）、花をこうがい（≒かんざし）として挿（さ）しても、（わたしは）別におもはゆく思うこともない（が）。　・人老：人が老いる。「人」は、ここでは作者自身（＝蘇軾）を指す。　・簪：〔しん（さん）；zan1◎〕かんざしをさす。かんざす。動詞。「簪」は冠を留めるためにさす「こうがい」。高官（男性）の衣冠を整えるために必要な物。　・不自-：別に…とは思わない。南宋・陸游の『十一月四日風雨大作』に「僵臥孤村不自哀，尚思爲國戍輪臺。夜闌臥聽風吹雨，鐵馬冰河入夢來。」とある。本ページとは異なった用例だが東晋・陶淵明の『影答形』に「存生不可言，衞生毎苦拙。誠願游崑華，然茲道絶。與子相遇來，未嘗異悲悅。憩蔭若暫乖，止日終不別。此同既難常，黯爾倶時滅。身沒名亦盡，念之五情熱。立善有遺愛，胡爲不自竭。酒云能消憂，方此不劣。」とある。　・羞：〔しう；xiu1○〕きまり悪がる。はにかむ。はじらう。はずかしがる。この語は「はじる」と読むが、「おもはゆく思う」意の「はじる」。

※花応羞上老人頭：（でも、）花の方が、おそらく老人の頭（＝わたし）に（かざされることを）はずかしがっていることだろう。　・応：おそらく。きっと。当然…であろう。まさに。まさに…べし。　・上：のぼる。　・老人頭：ここでは、作者の頭のことになる。

※酔帰扶路人応笑：酒に酔っての帰りに、体を支えてもらって路を行ったのには、人々はきっと笑っていたことだろう。　・扶：〔ふ；fu2○〕支える。また、助け起こす。ここは、前者の意。明・高啓の『題宮女圖』に「女奴扶醉踏蒼苔，名月西園侍宴廻。小犬隔花空吠影，夜深宮禁有誰來。」とある。　・路：みちする。往来する。動詞。　・笑：わらう。また、（花が）咲く。後者の意も、或いは洒落としてあるかも知れない。

※十里珠簾半上鉤：約５．５キロメートル（/歩いて１時間強）ほどの（路の周りの家々の窓の）玉すだれ（＝美しいカーテン）は、半（なか）ば、かぎに巻き上げるられて（覗（のぞ）かれて）いるではないか。（これはやはり、おもはゆい（＝「羞」）ことだ）。　・十里：５．５２９６キロメートル。１里＝５５２．９６メートル。晩唐・杜牧の七絶『贈別・二首其一』に「娉娉嫋嫋十三餘，荳梢頭二月初。春風十里揚州路，卷上珠簾總不如。」とある。　・珠簾：玉スダレ。宝玉で作った女性の閨のすだれ。美しいカーテン。南朝斉・謝朓の『玉階怨』に「夕殿下珠簾，流螢飛復息。長夜縫羅衣，思君此何極。」とあり、初唐・王勃の『滕王閣』に「滕王高閣臨江渚，珮玉鳴鸞罷歌舞。畫棟朝飛南浦雲，珠簾暮捲西山雨。閒雲潭影日悠悠，物換星移幾度秋。閣中帝子今何在，檻外長江空自流。」とあり、前出・杜牧の七絶『贈別・二首其一』に「娉娉嫋嫋十三餘，荳梢頭二月初。春風十里揚州路，卷上珠簾總不如。」とあり、南唐後主・李煜の『浪淘沙』に「往事只堪哀，對景難排。秋風庭院蘚侵階。一任珠簾閑不卷，終日誰來。　　　金鎖已沈埋，壯氣蒿莱。晩涼天靜月華開。想得玉樓瑤殿影，空照秦淮。」とある。　・上鉤：（御簾/カーテンをとめる）かぎに巻き上げる。南唐後主・李煜の『采桑子』に「轆轤金井梧桐晩，幾樹驚秋。晝雨如愁，百尺蝦鬚上（/在）玉鉤。　　　瓊窗春斷雙蛾皺，迴首邊頭。欲寄鱗游，九曲寒波不溯流。」とある。