江南春水碧於酒, 客子往來船是家。 忽見畫圖疑是夢, 而今鞍馬老風沙。 |
瀟湘 の圖に題す
江南 の春水 は 酒よりも碧 く,
客子 の往來 は 船ぞ是 れ家なる。
忽 ち見る畫圖 疑ふらくは是 れ夢かと,
而今 鞍馬 風沙 に老 ゆ。
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◎ 私感訳註:
※呉激:南宋〜金の人。字は彦高、号して東山。建州(現・福建省建甌県)の人。南宋の宰臣の呉栻の子で、書画家の米芾の婿。(南宋の)皇帝の命令で金に使いをしたが、金側がその文名を惜しみ、金の国内に留めて返さず、(金の)翰林待制に任じた。皇統二年(1142年)、深州(現・河北省深県)の官に派遣されたが、その地に着いてすぐに死んだ。詩文に巧みであり、書法に秀で、絵画は米芾の意境に達している。
※題宗之家初序瀟湘図:…(南方の)瀟湘の絵を(見て)詩を作る。 *中国南部(≒瀟湘)の風景画を見て、作者は故郷の中国南方(≒江南)を想起し、現在我が身が置かれている北方の(金国の)地の中にいる姿を再確認した詩。望郷詩。 ・題-:(ある事物)…について詩文を作る。 ・宗之:=楊宗之。金人の楊伯淵のこと。宗之は字。蒿城の人。古書、字画の蒐集を好んだ。 ・家初序:この部分の意味がわからない。 ・瀟湘:〔せうしゃう;Xiao1xiang2○○〕瀟水と湘水。瀟水(瀟江)と湘水(湘江)のこと。湖南省(旧国名・湘)を流れる川の名で、洞庭湖に注ぐ大河。瀟水と湘水は零陵で合流後、瀟湘ともいう。また、遥か南方の地(湖南省(=旧国名・湘))を謂う。(六朝までの詩では)湘水のこと。「清らかな湘江」の意。なお、現在、湘水は“湘江”という。また、湘君をも謂う。舜帝が蒼梧(現・江西省蒼梧)で崩じた時に、娥皇と女英の后妃は深く嘆き悲しみ、舜帝を慕って湘水に身を投じて、川の神(湘君、湘靈、湘神)となったこと。唐・張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜鞨K夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」とあり、中唐・劉禹錫の『瀟湘~』に「斑竹枝,斑竹枝,涙痕點點寄相思。楚客欲聽瑤瑟怨,瀟湘深夜月明時。」とあり、中唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等濶,水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月,不勝C怨卻飛來。」とあり、晩唐・温庭筠は『瑤瑟怨』で「冰簟銀床夢不成,碧天如水夜雲輕。雁聲遠過瀟湘去,十二樓中月自明。」 とあり、清・王士モフ『樊圻畫』に「蘆荻無花秋水長,淡雲微雨似瀟湘。雁聲搖落孤舟遠,何處山是岳陽。」とある。 ・瀟湘図:南方の湖南省の瀟水(瀟江)と湘水(湘江)流域一帯の風景画。
※江南春水碧於酒:(長江下流域南岸の)江南の春の川の流れは、酒よりも青く。 ・江南:長江下流域南岸一帯を指す。 ・春水:春の川の流れ。 ・碧於酒:酒よりも青い。 ・〔形容詞等+於〕…よりも。 *比較を表す。晩唐・杜牧の『山行』に「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」とあり、中唐・白居易の『太行路』借夫婦以諷君臣之不終也に「太行之路能摧車,若比人心是坦途。巫峽之水能覆舟,若比人心是安流。人心好惡苦不常,好生毛羽惡生瘡。與君結髮未五載,豈期牛女爲參商。古稱色衰相棄背,當時美人猶怨悔。何況如今鸞鏡中,妾顏未改君心改。爲君熏衣裳,君聞蘭麝不馨香。爲君盛容飾,君看金翠無顏色。行路難,難重陳。人生莫作婦人身,百年苦樂由他人。行路難,難於山,險於水,不獨人間夫與妻,近代君臣亦如此。君不見左納言,右納史。朝承恩,暮賜死。行路難,不在水,不在山。只在人情反覆間。」とある。 ・碧:〔へき;bi4●〕あお。みどり。あおみどり。盛唐・杜甫『絶句』に「江碧鳥逾白,山花欲然。今春看又過,何日是歸年。」とある。
※客子往来船是家:(「南船北馬」の言葉通り)旅人(たびびと)が行き来するには、船が家となっている。*「南船北馬」:中国の南方は川が多いので船に乗り、北方は山野が多いので馬に乗って旅行するのが常であることをいう。 ・客子:〔かくし;ke4zi3●●〕旅人(たびびと)。他郷に滞在している人。=客旅(かくりょ)。 ・往来:行き来する。行ったり来たりする。また、交際する。ここは、前者の意。 ・船是家:船が家である。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。
※忽見画図疑是夢:突然に(南方の瀟湘の)絵を見て夢かと思った。 ・忽:〔こつ;hu1●〕突然。たちまち。にわかに。 ・画図:絵画。また、絵をかく。ここは、前者の意。 ・疑是夢:まるで夢かと疑う。疑うことには夢かと。疑うらくは是れ夢かと。 ・疑是-:疑うことには。まるで…かと疑う。「疑是〔山陰夜中雪〕」「疑是〔武陵春碧流〕」「疑是+〔……〕」という具合に、「疑是」の後に見紛うものをいう。 ・是:名詞(句)の後に附く。それ故、「疑是經冬雪未銷」は、「『疑』ふことには『經冬雪未銷』である」になり、「疑」の部分の読みは名詞化して、伝統的に「『疑ふ』らく」としている。漢語語法に合致した正確な読みである。盛唐・李白の『靜夜思』に「床前明月光,疑是地上霜。舉頭望明月,低頭思故ク。」とあり、 (明・李攀龍の『唐詩選』では、「牀前看月光,疑是地上霜。舉頭望山月,低頭思故ク。」)とあり、盛唐・李白の『望廬山瀑布』に「日照香爐生紫煙,遙看瀑布挂前川。飛流直下三千尺,疑是銀河落九天。」とあり、中唐・張謂の『早梅』に「一樹寒梅白玉條,迥臨林村傍谿橋。不知近水花先發,疑是經冬雪未銷。」とある。
※而今鞍馬老風沙:(その理由は、)今、(北方に住んでおり、)馬上での生活(が主となり、北方特有のゴビ砂漠から吹いてくる)風と砂ぼこり(の中)で老いてきている。 ・而今:いま。この節。現今。明・王陽明の『睡起偶成』に「四十餘年睡夢中,而今醒眼始朦朧。不知日已過卓午,起向高樓撞曉鐘。」とある。 ・鞍馬:鞍を置いた馬。馬上での生活を謂う。 ・老:老いる。動詞。 ・風沙:〔ふうさ;feng1sha1○○〕風が巻き起こす砂。砂煙。風と砂ぼこり。また、砂あらし。ここは、前者の意。
◎ 構成について
2015.3. 9 3.10完 11.11補 |