子規聲切月輪斜, 起望諸陵憶流家。 婦女尋芳渾不解, 鬢雲爭插杜鵑花。 |
鵑 を聞く
子規 聲 切 にして月輪 斜めに,
起きて諸陵 を望めば流家 を憶 ふ。
婦女芳 を尋 ねて渾 く解せず,
鬢雲 に爭 ひて插 す杜鵑花 を。
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◎ 私感訳註:
※潘音:元朝の人。南宋・咸淳六年/元・至元七年(1270年)〜元・至正十五年(1355年)。字は声甫。浙江天台の人。十歳の時(1279年)に南宋が滅び、終生仕えることがなかった。
※聞鵑:ホトトギス(の「帰っておいで」と鳴く声が)聞こえる。 *唐・杜牧の『泊秦淮』に「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家。商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」とあるのに同じ思いで、「亡国の恨みを、若い女性は理解しないで、花見にうつつを抜かしている」という嘆きの詩。 ・聞:(受動的に)聞こえる。耳に入る。なお、(意識的に/注意して/きこうとして)きく意では、多く「聽」を用いる。 ・鵑:ホトトギス。杜鵑:〔とけん;du4juan1●○〕のこと。後出・子規のこと。=杜宇。蜀魂。なお「不如帰」は「帰ったほうがいい」の意で、「子規」は「子帰」で、「あなたは帰りなさい」の意)。その啼き声は「不如帰去」とも。家を長期に亘って空け、旅路にある者にとっては、ホトトギスの啼き声が「不如帰去」(ふじょききょ、プールーグィチュ、bùlú guīqù=「帰った方がいいよ」)と言っているように聞こえる。夏の季節を表す鳥である。また、蜀王(望帝)の霊の化した鳥で、蜀の人は蜀の王を思うという。幽冥界との往復をする鳥でもある。盛唐・李白『宣城見杜鵑花』に「蜀國曾聞子規鳥,宣城還見杜鵑花。一叫一廻腸一斷,三春三月憶三巴。」とあり、唐・無名氏の『雜詩』に「近寒食雨草萋萋,著麥苗風柳映堤。等是有家歸未得,杜鵑休向耳邊啼。」とあり、盛唐・李白の『聞王昌齡左遷龍標遙有此寄』に「楊花落盡子規啼,聞道龍標過五溪。我寄愁心與明月,隨風直到夜郎西。」とあり、中唐・武元衡の『望夫石』に「佳人望夫處,苔蘚封孤石。萬里水連天,巴山暮雲碧。湘妃涙竹下成林,子規夜啼江水深。」とあり、南宋・陸游の『鵲橋仙・夜聞杜鵑』「茅檐人靜,蓬窗燈暗,春晩連江風雨。林鶯巣燕總無聲,但月夜、常啼杜宇。 催成C涙,驚殘孤夢,又揀深枝飛去。故山猶自不堪聽,況半世、飄然羈旅。」とあり、清末・秋瑾の『昭君怨』に「恨煞回天無力,只學子規啼血。愁恨感千端,拍危欄。 枉把欄干拍遍,難訴一腔幽怨。殘雨一聲聲,不堪聽!」とある。
※子規聲切月輪斜:ホトトギスの鳴き声がしきりで、満月が沈み(かかって)いる(夜明けに)。 ・子規:ホトトギス。杜鵑:〔とけん;du4juan1●○〕のこと。=杜宇。蜀魂。「子規」〔しき;zi3gui1●○〕は「子帰」〔しき;zi3gui1●○〕で、「あなたは帰りなさい」の意)。 ・切:思い迫るさま。胸に迫るように悲しいさま。=「切切」。しきりに。ふかく。ねんごろ。後世、日本の武田信玄は『旅館聽鵑』で「空山克雨晴辰,殘月杜鵑呼夢頻。旅一聲歸思切,天涯瞻戀蜀城春。」と詠う。 ・月輪:円形の月。 ・斜:月(や日)が斜めになって沈みかけていることを謂う。なお、満月が沈む時刻は夜明け前で、午前六時前後頃。
※起望諸陵憶流家:起き上がって、(前王朝の南宋皇帝の)御陵群を見れば、(南宋の遺民である)流浪の民を思い出す。 ・諸陵:もろもろの御陵。ここでは前王朝の南宋皇帝の御陵群を指す。 ・憶:思いやる。思い出す。 ・流家:流浪の民。流氓。ここでは、南宋の遺民のことになる。
※婦女尋芳渾不解:(なのに、今時の)女性は花見をして、(そのような亡国の嘆を)まったく理解しない(で)。 ・尋芳:花見をする。花を探し求める。なお、現在では、花柳の巷に遊ぶ意も付与された。 ・渾:まったく。すっかり。すべて。 ・不解:理解しない。分からない。
※鬢雲争挿杜鵑花:(何の憂いもなく、)ふさふさした美しい耳際の髪に、競ってツツジの花を挿している。 ・鬢雲:ふさふさした美しい耳際の髪。≒雲鬢。この句は「○○●●●○○」とすべきところで、「雲鬢」は○●なので、「鬢雲」(●○)とした。 ・争:きそって。 ・挿:挿(さす)す。 ・杜鵑花:ツツジ。杜鵑花(ツツジ)とは、「杜鵑(ホトトギス)の花」(鳴いて血を吐くホトトギスのように赤い花)の意。前出・盛唐・李白の『宣城見杜鵑花』に「蜀國曾聞子規鳥,宣城還見杜鵑花。一叫一廻腸一斷,三春三月憶三巴。」とある。
◎ 構成について
2017.3.22 3.23 3.24 3.25 |