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九日送別 | |
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唐・王之渙 |
薊庭蕭瑟故人稀,
何處登高且送歸。
今日暫同芳菊酒,
明朝應作斷蓬飛。
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九日 送別
薊庭 蕭瑟 として 故人稀 なり,
何 れの處か 高きに登りて且 く 歸るを送らん。
今日 暫 く芳菊 の酒を同じうし,
明朝 應 に斷蓬 と作 って 飛ぶべし。
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◎ 私感註釈
※王之渙:盛唐の詩人。并州の人。若い頃、地方の小官に任じられた。王昌齢、高適ら著名な詩人たちと親交があった。嗣聖五年(688年)~天寶元年(742年)。
※九日送別:九月九日の重陽節に、別れて行く人を送る。 ・九日:九月九日の重陽節を謂う。(陰暦九月九日は陽暦の十月中旬)菊の節句。「九月九日」が陽の数字(奇数)の最大の「九」が重なることから「重陽」という。重九。九日登高節は、高いところに登り、遙か離れた地にいる親族を偲ぶ節。王維の『九月九日憶山東兄弟』「獨在異鄕爲異客,毎逢佳節倍思親。遙知兄弟登高處,插茱萸少一人。」や、唐・王勃の『蜀中九日』に「九月九日望鄕臺,他席他鄕送客杯。人情已厭南中苦,鴻雁那從北地來。」
とあり、後世、南唐後主・李煜の『謝新恩』「冉冉秋光留不住,滿階紅葉暮。又是過重陽,臺
登臨處,茱萸香墮。 紫菊氣,飄庭戸,晩煙籠細雨。
新雁咽寒聲,愁恨年年長相似。」
や両宋・李清照の『醉花陰』「薄霧濃雲愁永晝,瑞腦消金獣。佳節又重陽,玉枕紗廚,半夜涼初透。 東籬把酒黄昏後,有暗香盈袖。莫道不消魂,簾捲西風,人比黄花痩。」
や、現代では毛沢東の『采桑子』「重陽 一九二九年十月」「人生易老天難老,歳歳重陽。今又重陽,戰地黄花分外香。 一年一度秋風勁,不似春光。勝似春光,寥廓江天萬里霜。」
がある。 ・送別:別れて行く人を見送って、共に行くこと。見送ること。
大きな地図で見る薊県:地図中央の「蓟县」と書かれたところ
※薊庭蕭瑟故人稀:(ここ)薊州一帯は旧知の人も、少なく(なり)。 ・薊庭:〔けいてい;Ji4ting2●○〕薊の領域。 ・薊:〔けい;Ji4●〕薊州。現・(広義の)北京市(16区2県の北京直轄市)。春秋戦国時代の燕の首都。なお、北京市市街(狭義の北京市で、北京市区:旧城区・新城区)の東100キロメートルのところ(現・北京・天津間にあり、)に天津市に属する県名・薊県(けいけん;Ji4xian4)がある。(薊州は広義の北京市と天津市半ばで幽州の東。狭義の薊州は、現・薊県。)『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)48-49ページ「唐 河北道南部」にある。 ・庭:領域。「庭」は北庭、辺庭、侵庭と謂う場合の「庭」に同じ。 ・蕭瑟:〔せうしつ;xiao1se4○●〕秋風が音をたてて寂しく吹くさま。荒れ果てているさま。物寂しい。宋・劉克莊の『賀新郞』「北望神州路,試平章 這場公事,怎生分付?記得太行山百萬,曾入宗爺駕馭。今把作握蛇騎虎。加去京東豪傑喜,想投戈、下拜真吾父。談笑裡,定齊魯。兩河蕭瑟惟狐兔,問當年 祖生去後,有人來否?多少新亭揮泪客,誰夢中原塊土?算事業須由人做。」とある。 ・故人:古くからの友人。古い知り合い。昔馴染み。盛唐・王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨?輕塵,客舎靑靑柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」
とある。 ・稀:まれである。少ない。
※何処登高且送帰:(重陽の日である今日、)どこかの高い所に登って、しばらく、(少ない知人であるあなたが)帰京(/帰郷)していくのを見送ろう。 ・何処:どこ。 ・登高:高きに登る。九月九日の重陽の日の風習で
、
高い山
や高い所に登り
、
家族を思い偲び
、
菊酒を飲んで厄災を
払う習わし
。 ・且:しばらく。しばし。短時間を謂う。 ・送帰:帰郷/帰京するのを見送る。現代・毛沢東は『卜算子・詠梅』讀陸游詠梅詞,反其意而用之で「風雨送春歸,飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰,犹有花枝俏。 俏也不爭春,只把春來報。待到山花爛漫時,她在叢中笑。」
とする。
※今日暫同芳菊酒:今日は、ひとまず菊酒を共にしようではないか。 ・暫:〔ざん;zan4●〕ひとまず。しばらく。 ・芳菊酒:かぐわしい菊酒。これを飲んで厄災を払う。
※明朝応作断蓬飛:明日(から)は、きっと漂泊・流浪の身となるのだから。 ・応:…なければならない。…べきである。まさに…べし。 ・作:〔さく;zuo4●〕(…と)なる。蛇足になるが、似た意味で「爲」があるが、「作」は●とすべきところで使い、「爲」は○とすべきところで使う。例えば「○○●●……」の場合は「明朝應作………」とし、「●●○○……」の場合は「明日應爲………」とする。 ・断蓬:根から離れて風に吹かれて飛び流離うヨモギの一種で、風に吹かれて流離うさまを謂う。この「蓬」は、クリスマスリースのようになって、風に吹かれて地上を転がる根無し草。デラシネ。「轉蓬」「飛蓬」のこと。映画『黄土地』にその転蓬、飛蓬の様子が描写されている。曹植の『吁嗟篇』に「吁嗟此轉蓬,居世何獨然。長去本根逝,宿夜無休閑。東西經七陌,南北越九阡。卒遇回風起,吹我入雲間。自謂終天路,忽然下沈泉。驚飆接我出,故歸彼中田。當南而更北,謂東而反西。宕宕當何依,忽亡而復存。飄周八澤,連翩歴五山。流轉無恆處,誰知吾苦艱。願爲中林草,秋隨野火燔。糜滅豈不痛,願與根
連。」
とあり、李白の『送友人』に「青山橫北郭,白水遶東城。此地一爲別,孤蓬萬里征。浮雲遊子意,落日故人情。揮手自茲去,蕭蕭班馬鳴。」
とある。後世、南唐・李煜の『浣溪沙』「轉燭飄蓬一夢歸,欲尋陳跡悵人非,天敎心願與身違。 待月池臺空逝水,蔭花樓閣漫斜暉,登臨不惜更沾衣。」
や南宋・陸游『貧甚戲作絶句』其六に「行遍天涯等斷蓬,作詩博得一生窮。可憐老境蕭蕭夢,常在荒山破驛中。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「稀歸飛」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
2012.3.31 |
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