送薛大赴安陸 | |
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唐・王昌齡 |
津頭雲雨暗湘山,
遷客離憂楚地顏。
遙送扁舟安陸郡,
天邊何處穆陵關。
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薛大 の安陸 に赴 くを送る
津頭 の雲雨 湘山 暗く,
遷客 離憂 楚地 の顏 。
遙かに送る扁舟 安陸 郡,
天邊 何 れの處か穆陵關 。
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◎ 私感註釈
※王昌齢:盛唐期の詩人。700年?(嗣聖年間)〜755年?(天寶年間)。字は少伯。京兆の人。七言絶句に秀で、辺塞詩で有名。
※送薛大赴安陸:薛(せつ)家の長男が(現・湖北省の)安陸に赴(おもむ)くのを見送って(の詩)。 *この詩、作者・王昌齢が自己の境遇と似た『楚辭』作者の一である屈原を意識したため、『楚辭』を使い、その各章に基づいて作られた。 ・送:見送る。送別する。 ・薛大:薛家の長男。「薛」〔せつ;xue1●〕は姓で、「大」は排行の第一番め。長男。人物については不詳。 ・赴:おもむく。 ・安陸:現・湖北省の安陸県。岳陽の北北東200キロメートル、武漢の北西100キロメートルのところ。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)52−53ページ「唐 山南東道 山南西道」、『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期27−28ページ「北宋 荊湖南路 荊湖東路」にある。
※津頭雲雨暗湘山:わたし場のほとりの雲と雨は、(湘君の墓所である)君山を(蔽(おお)って)暗くして。 ・津頭:〔しんとう;jin1tou2/0○○〕わたし場のほとり。港のほとり。わたし場。 ・-頭:(…の)ほとり。名詞形を表す接尾字。名詞などの後に附いて名詞を作る。 ・雲雨:雲と雨。また、男女の交情をいう。楚の襄王が巫山で夢に神女と契ったことをいう。神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという故事からきている。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの(か))があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。「巫山之夢」。婉約の詩詞によく使われる「契り」をいう。ここは、前者の意。 ・暗:暗くする。くらす。動詞。 ・湘山:〔しゃうざん;Xiang1shan1○○〕(湘君の墓所である)君山のこと。洞庭湖中の西北岸の山(小島)の名。君山は、岳陽市の南西15キロメートルの洞庭湖の中にある小島。洞府山とも称した。岳陽楼の対岸(西側)にある小山、。現・湖南省岳陽市の西南にある。洞庭山。その名の由来は「湘君の墓所」の意で、屈原は、舜の妃の「娥皇」「女英」のことを『九歌』で、「湘君」「湘夫人」とうたった。『楚辭・九歌・湘夫人』に「帝子降兮北渚,目眇眇兮愁予。嫋嫋兮秋風,洞庭波兮木葉下。」とあり、南宋・戴復古は『柳梢・岳陽樓』で「袖劍飛吟,洞庭草,秋水深深。萬頃波光,岳陽樓上,一快披襟。 不須攜酒登臨。問有酒、何人共斟?變盡人間,君山一點,自古如今。」盛唐・王昌齡の『送別魏三』に「醉別江樓橘柚香,江風引雨入船涼。憶君遙在湘山月,愁聽清猿夢裏長。」とある。
※遷客離憂楚地顔:遠方に流された人(≒『楚辭』の屈原であり、作者・王昌齢)がうれいにあって、(『楚辭』『漁父』で屈原によって詠われた)楚の国の(屈原のように)顔色が憔悴してしまった。 ・遷客:〔せんかく;qian1ke4○●〕罪によって遠方に流された人。ここでは、作者・王昌齢自身を指すが、『楚辭』の屈原の意も含んでいる。 ・離憂:うれいにあう。心配ごとに出あう。うれいにかかる。=離騷。『楚辭』の『離騒』、を謂う。『楚辭』『九歌』『山鬼』末尾に「雷填填兮雨冥冥,猨啾啾兮狖夜鳴。風颯颯兮木蕭蕭,思公子兮徒離憂。」とある。 ・楚地顏:楚の国の顔色の意。『楚辭』の『漁父』に「屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:『子非三閭大夫與?何故至於斯?』屈原曰:『舉世皆濁我獨C,衆人皆醉我獨醒,是以見放。』漁父曰: 『聖人不凝滯於物,而能與世推移。世人皆濁,何不淈其泥而揚其波?衆人皆醉,何不餔其糟而歠其釃?何故深思高舉,自令放爲?』屈原曰:『吾聞之:新沐者必彈冠,新浴者必振衣。安能以身之察察,受物之汶汶者乎?寧赴湘流,葬於江魚之腹中,安能以皓皓之白,而蒙世俗之塵埃乎?』漁父莞爾而笑,鼓竡ァ去。乃歌曰:『滄浪之水C兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。』遂去,不復與言。」とある。
※遥送扁舟安陸郡:(あなた(=薛大)の乗った)小舟が安陸郡に(行くのを)遥かに見送るが。 ・扁舟:〔へんしう;pian1zhou1○○〕小舟。(人生の)孤独な旅路をもいう。同義で、盛唐・李白の『宣州謝脁樓餞別校書叔雲』に「棄我去者 昨日之日不可留,亂我心者 今日之日多煩憂。長風萬里送秋雁,對此可以酣高樓。蓬莱文章建安骨,中間小謝又清發。倶懷逸興壯思飛,欲上青天覽明月。抽刀斷水水更流,舉杯銷愁愁更愁。人生在世不稱意,明朝散髮弄扁舟。」とある。
※天辺何処穆陵関:天の涯のどの辺が(目的地である安陸の県境となる)穆陵関なのだろうか。 ・天邊:大空の涯。=天空。天涯。遠く離れた土地。同時代の盛唐・王維の『田園樂七首』之五に「山下孤煙遠村,天邊獨樹高原。一瓢顏回陋巷,五柳先生對門。」とある。 ・何處:どこ。いづこ。 ・穆陵關:安陸県の東北にあった関の名(と謂われるが、確認出来ていない)。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「山顏關」で、平水韻上平十五刪。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
○○○●●○○。(韻)
2012.12.28 12.29 12.30 12.31完 2014. 5.27補 |
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