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寒食汜上作 | |
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唐・王維 |
廣武城邊逢暮春,
汶陽歸客涙沾巾。
落花寂寂啼山鳥,
楊柳靑靑渡水人。
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寒食 汜上 の作
廣武 城邊 暮春 に逢 ひ,
汶陽 の歸客 涙 巾 を沾 す。
落花寂寂 山 に啼 く鳥,
楊柳 青青 水 を渡る人。
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◎ 私感註釈
※王維:盛唐の詩人。701年(長安元年)?~761年(上元二年)。字は摩詰。太原祁県(現・山西省祁県東南)の人。進士となり、右拾遺…尚書右丞等を歴任。晩年は仏教に傾倒した。
※寒食汜上作:寒食節(=現・四月上旬)に、汜水(しすい)のほとりにて(詩を)作る。作者は汜水(しすい)の水運を利用して、済州(汶陽)の任地から都へ帰る途上、広武城を通過した際の詩作。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)12-13ページ「北宋 京畿路 京西南路 京西北路」に、開封の西100kmのところに滎陽(現・河南省滎陽)があり、その東北に廣武山があり、それらの西を汜水(しすい)が流れている。 ・寒食:〔かんしょく/かんじき;han2shi2○●〕寒食節を謂う。清明節の前日。冬至から百五日目にあたる日の前後三日間(陽暦の四月三、四日頃)は、火をたくことが禁じられ、冷たいものを食べる。春秋時代・介之推が山で焼け死んだのを晋の文公が悲しみ、その日に火をたくことを禁じたことによる。盛唐・杜甫に『小寒食舟中作』 「佳辰強飯食猶寒,隱几蕭條帶鶡冠。春水船如天上坐,老年花似霧中看。娟娟戲蝶過閒幔,片片輕鷗下急湍。雲白山青萬餘里,愁看直北是長安。」や唐・韓翃に『寒食』「春城無處不飛花,寒食東風御柳斜。日暮漢宮傳蝋燭,輕煙散入五侯家。」
がある。 ・汜上:汜水(しすゐ)のほとり。 ・汜:〔し;Si4●〕河南省にある川の名。汜水(しすい)は後出・広武城を流れる。 ・…上:ほとり。場所を指す。この用例には、金・完顏亮の『呉山』「萬里車書盡混同,江南豈有別疆封。提兵百萬西湖上,立馬呉山第一峰。」
や盛唐・岑參の『與高適薛據同登慈恩寺浮圖』「塔勢如湧出,孤高聳天宮。登臨出世界,磴道盤虚空。突兀壓神州,崢嶸如鬼工。四角礙白日,七層摩蒼穹。下窺指高鳥,俯聽聞驚風。連山若波濤,奔走似朝東。靑松夾馳道,宮觀何玲瓏。秋色從西來,蒼然滿關中。五陵北原上,萬古靑濛濛。淨理了可悟,勝因夙所宗。誓將挂冠去,覺道資無窮。」
や中唐・白居易の『送春』「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」
や中唐・張籍の『征婦怨』「九月匈奴殺邊將,漢軍全沒遼水上。萬里無人收白骨,家家城下招魂葬。婦人依倚子與夫,同居貧賤心亦舒。夫死戰場子在腹,妾身雖存如晝燭。」
や北宋・蘇軾の『淮上早發』「澹月傾雲畫角哀,小風吹水碧鱗開。此生定向江湖老,默數淮中十往來。」
や元・楊維楨の『西湖竹枝歌』「蘇小門前花滿株,蘇公堤上女當壚。南官北使須到此,江南西湖天下無。」
がある。現代でも張寒暉の『松花江上』「我的家在東北松花江上,那裡有森林煤鑛,還有那滿山遍野的大豆高粱。我的家在東北松花江上,那裡有我的同胞,還有衰老的爹娘。」
がある。
※広武城辺逢暮春:広武城のあたりで、春の暮れに出くわす(ことになって)。 ・広武:古城名。現・河南省滎陽の東北の廣武山上に東西二箇所ある。楚漢争覇で、西楚の覇王・項羽と漢王・劉邦が対陣したところ。楚漢争覇の最後の段階で、項羽は東城を占領し、劉邦は西城を占領した。山の名で、現・河南省成皋県の北東にある。河南省にある民国の県名で、後、成皋県。 ・逢:(偶然に)であう、出くわす意の「あう」。なお、「会」は:(日にちを決めて意図的に)面会する、会見する意の「あう」。 ・暮春: 春の終わり。春の暮れ。
※汶陽帰客涙沾巾:汶陽(≒任地の済州)から帰って来た者(=作者)の涙は、ハンカチを湿(しめ)らせていた。 ・汶陽:〔ぶんやう;wen4yang2●○〕春秋時代の魯の地方。漢代に汶陽県を置いた。今の山東省寧陽県地方。ここでは任地の済州のこと。汶水(ぶんすい)(=現・大汶河)の北側。「陽」:川の北側。また、山では南側。 ・帰客:ここでは、作者自身のことになる。 ・沾:ぬれる。湿(しめ)る。うるおす。 ・巾:ハンカチ状の布。
※落花寂寂啼山鳥:散っていく花はもの寂しげで、もの寂しげに山に啼(な)く鳥。(そしてわたしの心も泣いている)。 ・寂寂:もの寂しいさま。ひっそりとしたさま。 *「落花寂寂啼山鳥」の句では、「落花寂寂」であり、「寂寂啼」である。作者の心が「寂寂」であるため、周囲の状況(落花/啼鳥)までが「寂寂」となることを表現している。) ・啼:なく。(鳥やけものが)鳴く。また、(人が声を出して)泣く。ここでは「鳥がなく」時に一般的に使われる「鳴」を使わずに、「啼」を使っているが、「啼」には「人が声に出して泣く」意もある。作者は、「啼」を使うことで「鳥もなき、わたしの心もないている」ということを表現している。 ・啼山鳥:「啼山鳥」の意は、「落花寂寂啼山鳥,楊柳青青渡水人」の聯が対句として表現されているため、「啼山鳥」と「渡水人」も対として解釈するのが妥当。「渡水人」は「川を渡る人」と解し、「啼山鳥」は「山に啼(な)く鳥」と解するのが自然。
※楊柳青青渡水人:ヤナギは青々として、川を渡る人。 ・楊柳:〔やうりう;yang2liu3○●〕ヤナギの総称。 ・楊:カワヤナギ、ネコヤナギ。 ・柳:シダレヤナギ。 ・青青:青々とした。漢~?の『古詩十九首之二』に「青青河畔草,鬱鬱園中柳。盈盈樓上女,皎皎當窗牖。娥娥紅粉妝,纖纖出素手。昔爲倡家女,今爲蕩子婦。蕩子行不歸,空牀難獨守」とある。 ・渡水:川を渡る。明・高啓の『尋胡隱君』に「渡水復渡水,看花還看花。春風江上路,不覺到君家。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「春巾人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2016.3.21 3.22 3.23 3.24 |
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