戦記のお部屋(第二分室)

 日清・日露の戦いから、ノモンハンまで。

日清戦争:日清談判破裂して〜。

アイテム 出版社 内容
参謀本部編纂・日清戦争 徳間文庫 まだ読んでません。一般にこのシリーズは「戦史」というより、「読み物」になっているので、どうなんでしょう。「参謀本部・編纂」なのにね。
坂の上の雲 司馬遼太郎/文芸春秋 維新後、初の国難、日清・日露の時代を生きた二人の兄妹、秋山好古(陸軍)、真幸(海軍)の人生に絡めて描く歴史小説。個人的には好古の方に好感をもちます。ただ、陸大の講義で「騎兵とは・・・」といってガラスをブチわってみせるのはどうかしら・・・あんまり凄くないんですけど・・・

正岡子規と児玉源太郎も、魅力的に書かれています。

参謀本部と陸軍大学校 黒野耐/講談社現代新書 昭和日本の国家的軍事的破綻の原因を、機能しない組織としての参謀本部と、役に立たなかったスタッフの育成システムという視点で解いた興味深い本。

参謀というものの本質を取り違えたうえに、その間違ったコンセプトで育てた偏狭な教養しか持たない性格の参謀を、将来の全体を見なければならない国家のリーダーに据えるという二重の間違い。これは恐ろしい。

山県有朋と西郷従道がプロシアから持ち帰った軍制を、本質は見ずに日本風の風土に都合よく解釈し、欠陥は維新という淘汰を生き延びた個々の個人の天才で乗り切った西南戦争、日清戦争と日露戦争。しかしその天才達が引退していってしまい、平凡な秀才ばかりがそのあとを襲うと、天才たちの自己顕示のために作られた、「平等」な、ポストばかり多いエゴ組織は機能しなくなってゆき・・・

日清戦争以前に統合参謀本部を作ろうとした動きがあったのに、海軍の「仕切られるのイヤ」という抵抗でつぶれたというのは非常に惜しいことでした。

閔妃暗殺 角田房子/新潮文庫 両班の勢道政治から王室の権力をとりもどすために策を弄した大院君と、彼の野望のために一孤児から彼の息子-高宗の妃に抜擢された才女-閔妃との国家経営を無視した権力闘争に日本人がからみ、混乱のうちに朝鮮の衰退が早まって、ついに朝鮮が日本に併合されるまでをけっこう冷静に描いています。

日清戦争の直後、閔妃は日本人の暴徒-「志士」にあこがれる日本の在野の過激分子によって虐殺されます。

この本で注目したいのは、日本政府は初めのうちは別に朝鮮をほしいとは思っておらず、欧米の商人のマネをしてあくどい商売をはじめた日本民間人への暴動などから「朝鮮ナマイキ」世論ができ、ここで「義」に勇んで立ちあがった自称「志士」の「愛国無罪」的行動をナアナアで政府が認めてずるずると引きずられて尻馬に乗っていると読み取れるところで、閔妃暗殺の実行メンバーには当時の反韓世論を煽った新聞屋が多数含まれているというところでしょう。当時の目立ちたがり屋たちにとって新聞はかっこうのプロパガンダの道具なのです。我々は日本の新聞の出自というものを認識してから新聞とつきあうべきです。

著者は彼らを「志士」とは認めないと書いていますが、志士とは大部分がこんな性格-スローガンを盾に暴れてのし上がりたい(たまに暴れたいだけのことも)野心家-のものであると思います。つまり平和時には通常ルートでは権力的に芽の出ない人物であり、だいたいが犯罪的アウトローか過激言動をする反政府的文化人になるという・・・明治維新の志士には特別優秀で冷静な野心家がいて、幕府が能無しすぎだったということでしょう。

「愛国無罪」ならなんでも許されるというカンチガイをしたこの手の「志士」たちと、それを「やさしく見守ってしりぬぐいする」政府の関係はこの後も2.26事件で昭和天皇が怒りを炸裂させた時を除いて太平洋戦争までつづきます。磯部浅一の天皇への逆ギレした手記にこの自称「志士」の「愛国無罪」の甘えの心理がよくでていますね。

未来のための過去への反省というものが、どのように行われるべきなのか考えさせられます。

 

ボーア戦争:オランダ人が乗っ取った南アフリカを今度はイギリス人が乗っ取ろうとして・・・独立戦争につづき従来型の「正規軍」の戦術がフィールドスキルをもとにした戦術にかなわないことがハッキリしてきた戦い。

伝統の、至近まで行進してぶっ放したあと突撃-銃剣という単発銃ベースの白兵的戦術が、連発銃をいかに有効に使うかという視点から立てられた比較的遠距離射撃ベースの戦術に追い越されたということでしょうか。

ボーア戦争
鬼将軍 C.S.フォレスター/高松二郎 訳/ハヤカワ文庫 ひとりの軍人の半生をえがく小説。騎兵連隊副官の少尉のデビューはちょっとした幸運からはじまって・・・

日露戦争:軍事で拮抗、外交で勝利。この勝利のおかげで、世界にはいまだに日本を好きでいてくれる国の人びとがいるのでした。今の日本見たら、ガックリきちゃわないかな・・・

アイテム 出版社 内容
参謀本部編纂・日露戦争 徳間文庫 まだ読んでません。
参謀本部と陸軍大学校 黒野耐/講談社現代新書
坂の上の雲 司馬遼太郎/文芸春秋

大陸を転戦する我が陸軍の戦いと、苦戦する乃木の軍、そしてシーレーン確保に苦労する海軍。

読むほどに引き込まれてしまいます。なんで大河ドラマにならないんだろう。

また、二人のロシアの指揮官、サムソノフとレンネンカンプは、後年、ちがった舞台でその名が有名に・・・・

司馬遼太郎氏がことあるごとに持ち上げる明治の人物群像ですが、たしかにそのバランス感覚は今の日本人よりも評価できるものの、その影に隠されたおおくの未来への危険な複線には目をつぶっているような気がします。手放しで褒めるべきではない。(戦争にかぎらず、その他の行政や慣習にもということですよ。)

日本を誤らせ、破滅させることになる子供たちを育てたのも、また、かれらなのです。無条件の崇拝は、危険。

太平洋に消えた勝機 佐藤晃/光文社ポケットブックス 「太平洋戦争」の敗因は、無駄に戦艦を持ちながら、無為に行き当たりばったりに戦争を遂行して勝手に負けた海軍の責任である!という、ぼくのツボをみごとにとらえた本。一部、アクの強い部分もあるけれど、ここに述べられた事柄と、その時系列がほとんど正しいならば、まさに正論であるでしょう。少なくとも、「一理ある!」と思わせられます。

反文化的で悪役で泥臭くて憲兵がいて日陰者の陸軍ファンとしては痛快だし。でも、何がなんでも全部陸軍のせいにして、栄光と悲劇の海軍にひたりたい人にはダメな本なんだろうな・・・

で、その2章では、ダメ海軍のルーツを日露戦争にさかのぼって検証し、結果、上記の史観に真っ向から異議を唱えています。で、ぼく的には、こっちの方がもっともらしく受け取れてしまう。

たしかに、バルチック艦隊の影におびえ、冷静に今彼らがどこまで来て、どのような状態にあるかという情報もとらずに、分析もせず、やれ早く早くとパニック状態のように第3軍をせっつく大本営と海軍の姿は、事実なら異様なことで、国家の戦略がスポーツ新聞並のお粗末さになってしまいます。この本の述べる側面を検証するために「坂の上の雲」を読み直してみたくなったです。

ただし、やはり乃木をはじめ第3軍のスタッフは無能であることは間違いないと思うけれど。昭和の陸軍の内輪でもボロクソだったそうだから。地方人に指さされると怒ったけれど。算術苦手のほうが出世できたみたいですね。

バルチック艦隊の最期 小学館少年少女文学全集・ソビエトロシア編

はるばる地球を半周し、苦難の航海の果てに破滅するまでのバルチック艦隊の運命を当時の政治状況を絡めてわかりやすく描いた力作。

日本海海戦では上村艦隊の独断も描かれています。「きゃっつら、逃げおるぞ!」

オスラビヤの砲術士官、レドキン大尉の言葉が印象的です。

「それにしても黄色いサルめ、うまく撃ちやがった、運だ、悪運だ!同じところに三発も当てやがった。砲塔わきの水線下にだ。皇帝の三頭立ての馬車が通れるくらいの大穴が空いて、そこから海水が滝のように入ってきやがった。あれじゃあ、天魔鬼神だって防げやしない・・・戦艦オスラビヤはそれで沈没。恐れ入りましたというほかない。」

むかし、横須賀の戦艦三笠の中で上映していた古い日本海海戦の映画のクライマックスで、沈んでゆく船の中で、水がじゃあじゃあ流れ込む中、打ちひしがれた格好で肩をくんで座ったロシアの水兵たちが、声を併せて国歌(?)を歌うシーンは、当時は子供だったのでなんとも思わなかったんだけど、今みたとしたら、多分泣く。あの映画は、なんて題名だったのかしら・・・

旅順 柘植久慶/PHP文庫 乃木第三軍による旅順攻略の過程を、ロシアの勇将コンドラチェンコ側からの視点をメインに描いています。著者は野戦史に造詣が深く、その題材の料理法は、ぼくは好きです。
日露戦争史 横手慎二/中公新書 日露戦争の成り行きを、関係各国の当時の情況から起こして簡潔に経緯を解説。冷静でわかりやすい解説に好感が持てます。

日露戦争は日本が強かったというよりロシア首脳が軍事、外交、政治すべてに脳なしすぎたという理由で日本はなんとかなったのだなあとおもった。そして、その、「相手が能無しすぎた」の「なんで能無しなのか」という部分を研究せずに「日本は強い」という伝統とプライドという感傷の部分だけ残してしまったところに、敵味方の「能無しだった部分」への「研究」が消えてしまったところに昭和の破滅の遠因のひとつがあるのだなとおもった。

明石工作 稲葉千晴/丸善ライブラリー 1900年代初頭のヨーロッパに蠢く反ロシア地下組織。それを利用して日露戦争の背後戦線にしようとする参謀本部その代表的人物である明石元二郎をフィンランドなどの研究者とすりあわせた著作。明石元二郎は本当に有能な謀略家であったのかという問いに、筆者はかなり否定的です。

日露戦争が薄氷の勝利であったことを糊塗するために日露戦後数多く作られた陸軍の宣伝のひとつに明石神話があったようです。そしてここでもあとを継いだ若者たちには神話を真実として伝えるという害悪が垣間見えます。

1905年の革命家たちはまだ未熟で、オフラーナの方が優秀であったようです。しかし、いくら出先が優秀でもロシア宮廷内の腐った足のひっぱりあいの弊害は深刻で、腐りきったロシア政府は残り十年くらいしか生きることができませんでした。

日露戦争 勝利のあとの誤算 黒岩比佐子/文春新書 ポーツマスでの講和に対して、「勝ったのに何も取れないとは何事か!」と政府の弱腰を批判して銃後の不平分子を煽り、ついに日比谷の暴動を巻き起こした日本の在野の文化人たちを、その双胴の顛末を当時の資料を引きつつ語ります。この本を読むと、明治人は偉大だなどという史観は幻想的イメージで、真っ向から信じることが危険であるという気がします。おもしろい本。

当時の新聞記者は政治家予備軍であったという記述はとてもおもしろい。その目で新聞を見ると、彼らは報道ではなく自己主張しているということに気がつきます。誰かの対談に明治時代は新聞を頭から信じるやつはバカだと思われたとかありましたけれど、そんな気がします。

銃後の都市人たちが現地のことなど理解しようとせずイメージにお躍らされるさまを、戦地の兵士たちはうんざりした感じで見ていた様子も書かれていて、これはいつの時代も一緒なのでしょうね。そして彼らは国へ帰ってきてからもこの銃後が描いた無責任なイメージを否定する事につながる真実を語ることを「空気」によって拒否されます。

「父や夫、子供をあんなに戦死させて、賠償も取れないとは何事か!」という議論への答えとして知識人が選んだ一番安易な回答が「講和反対」だったわけですが、もしも戦争が続いてジリ貧の大陸軍が大陸を駆逐されたときに、彼らは今度はさっきまで唱えた戦争継続のことなど消しさって、政府の戦争継続をののしったことでしょう。また、政府も、議論が「父や夫、子供をあんなに戦死させて、賠償も取れないような戦争を始めるとは何事か!」ともっていかれると戦争が勝ったことにならなくなり困るので、表面的には勝利のイメージを装えて文化人は無視すれば済んでしまうという安易なほうへ持ってったのかもしれませんね。

当時の在野の文化人たちも、やはりいまと同じくイメージだけで物を言い、当時日本の財政と大陸の日本軍がいかに危機的状況にあったのかまったく認識していた形跡はありません。仮に認識していたとしたなら、それはそのイメージを政府攻撃=大衆に媚びて自分が人気者になろうというゼスチャ=に使えるなら事実に目をつぶっても煽ってやろうという悪質なもので、たぶんその場合、自分ではそれがハッタリだと認識しているから、もしもそのイメージを使って自分が天下を取ってもたぶん戦争は続けないだろうと思われるのですが、そのイメージは新政権維持の「不磨の大典」になってしまうので、虚像であっても「不磨の大典」であり続けねばならず、その人のいる間はそれを自覚しているからこの本の桂太郎のようにうまくウソと現実を使い分けられるからいいようなものの、その後継者はそのイメージを真実として育てられる=信じていないと部下として使えない、使わない=ので、虚像を信じた純粋培養エリートが育てられるわけで、イメージをイメージと自覚して利用した「元老」が引退した後を継いだ「虚像エリート」は虚像に忠実に国を動かすことになる。これは恐ろしい。

桂太郎や明治政府の創設期の人々は、イメージを利用して天下を取り、イメージの裏で(権力闘争しつつ}自分にとっては現実的に動いた。しかし後継者にはイメージのみ信じるものを選ぶシステムをくくってしまった。これがアメリカとの戦争に育っていったわけなのでしょう。

「週刊ポスト」に連載された時はもうちょっと新聞に対して辛辣な記述があった記憶がある。ちょっと期待してたのにな。

第一次世界大戦:中学校の時、先生が、件のセルビア青年は良いことをしたような〔示唆:まあ、自身の反安保/反体制っぽいのがカッコよかった青春のナルシズムに重ねてのことでしょうが)ニュアンスでことの起こりを説明してくれましたが、90年代に、逆に支配する立場になったセルビア人(その他の自称「弱者」)がなにをやったかというと(最近の知識人間の風潮では、さらし首とかもアメリカの宣伝戦略ということにすり替えられつつあるようですが・・・なんでもアメリカのせいにしとけば面倒ないものね。)・・・

アイテム 出版社 内容
八月の砲声 バーバラ・W・タックマン/山室まりや 訳/筑摩書房/筑摩文庫(上・下) 誰もが短期間で決着すると予想していたヨーロッパの軍事衝突。それが第一次世界大戦に発展してしまいました。

この本は戦争前の英・仏・独・ロ・ベルギーを始めとする各国の国民や世論、指導者たちのあつれきと、そのために予想された戦争への予想-戦争計画からはじめて、開戦した1914年8月の一ヶ月目まで---陸ではフランスの攻勢頓挫、ドイツのベルギー攻略からマルヌの闘い、タンネンベルク森(これはフランソワ将軍の独断専行がおもしろい)、海ではスション提督による戦艦ゲーベンのトルコ行、ヘルゴラント・バイト湾海戦---を描いていますが、わかりやすく、バランスも良く、理性的ですばらしい。名著といえると思います。単行本の帯に「ケネディーも読んだ」とかいうコピーは目障りだったけども。

ヴィルヘルム二世治下のドイツ政府が、ビスマルク時代の政治の中の一手段としての軍隊というまことに常識的で健全な体制から、軍隊の手段のための政治といういびつな形に堕してしまっていたことがうかがえる点も興味深い。また、ドイツ軍人たちが普墺普仏の大勝利のプライドで(40年以上前の手柄で、自分たちがやったわけでもないのに)驕りきっている様もうかがえて興味深いです。そういう意味では腐ってたのかも。

また、ジョッフルのフランス軍の行き方を見ていると、我が帝国陸軍はまことにフランスの血が強い軍隊だったということがうかがえてこれもまた興味深い。腐り方も一緒だし、面倒なので参謀を祭り上げて任せっきりにしてナアナアで行って最後は精神論に逃げるとこも一緒かも。日本人はドイツに憧れはするものの、あの行き方は日本人にはマネする素質はなくて、フランス流の方が日本人の血に合ってるんでしょうね。認めたくないだろうけど。第一次大戦というと塹壕からの機関銃のにらみ合いというイメージが強かったのですが、ドイツにやっつけられるまでフランス兵が塹壕掘りをしたことがなかったというのは意外でした。あと、フランス軍は弱いけどフランス兵は勇敢。

イギリス大陸派遣軍がまったく冴えないのも興味深い。

ベルギーという国が、イギリスの大陸への足場として立国していたとは知りませんでした。中立を守りきれなかったベルギー。犠牲者のように書かれているものの、ああいった地勢にある国は中立なんかしてはいけないということが良くわかります。国民を守れないような政治・外交・軍事力で中立を名乗ることが罪であります。

航空偵察の活用について、フランス軍のみ描写されていますが、ドイツ軍は最初はそんなこと考えなかったのかな?

経過を追ったわかりやすい地図数点と巻末の人名索引もGOOD。

鬼将軍 C.S.フォレスター/高松二郎 訳/ハヤカワ文庫 イープルの闘いを舞台に、決断するひとりの将軍の物語。っていうか、独軍の浸透戦術と毒ガスが印象にあるだけで、覚えてない・・・これは高校生の時読んだ記憶による印象。

で、最近読み返してみたら全然ちがう内容でした。

ボーア戦争から帰ってきたカーズンは平和な期間を平和に過ごしましたが第一次大戦が始まると組織的幸運もあって中佐でありながら臨時の師団長に。

軍人というものが持ちがちな欠点をなんの先入観もなくさらりと書いているので読む側はこれをどうにでも都合よく受け取れてしまいます。我が帝国陸軍の軍人が読めば「損害なぞ気にしてたら戦はでけんのじゃ!」というふうにとれるし、私が読めば「抗命したフランス軍人は偉いし、勇気がある。それを処刑したフランス軍当局は本当の意味の戦犯じゃなかろうか。それをあざ笑うだけのイギリス軍人もなんだかなあ、ドイツ軍カッコええ!」とおもうし、ヒトラーが読めば「これだ!余の欲しかったのはこれなのだ!」とクライマックスの浸透戦術のとこしか読まないでしょう。

この当時のヨーロッパの野戦はおそろしい。たった数キロの戦線に数万人の死骸!

タンネンベルヒ大殲滅戦 原書房 シェリーフェンプランの一環として、東部戦線の早期決着を義務づけられたドイツ軍が名将ヒンデンブルクとルーデンドルフのコンビが、タンネンベルク森で達成した史上まれにみる大殲滅戦。先の日露戦争で、奉天駅での殴り合いを演じた二人、サムソノフとレンネンカンプが、ここでも重要な役割をはたします。しかも日露戦のころより出世して・・・だめな人を人情で出世させると、悲劇がおこるのは日本陸海軍も一緒。ドイツ軍も一緒。幹部にシビアな軍隊は強い。
一九一七年 ソルジェニーツイン/早川 下巻しか持ってない・・・読んでません・・・
兵士シュヴェイクの冒険 ヤロスラフ・ハシェク/岩波文庫 一見のんきでバカに見えるチェコ人兵士シュヴェイクの、ユーモア溢れるオーストリー・ハンガリー帝国軍兵士としてのサボタージュっぽいコント。もう、全編ドイツ人への陰湿な負け惜しみ的こき下ろしがいっぱいで、胸糞が悪くなりました。〔ファンの方、いらしたらごめんなさい・・・)

文庫の原作挿し絵を見ると、ドイツ軍ファンにはおなじみの山岳帽は、すでにこのころからあったということがわかります。

チェコでは人気?ハシェクは革命後のソ連にラブコールして報いられず粛正されました。純粋に夢見る人だったのね。

壊滅 エドウイン・ホイト/実松譲訳/フジ出版
ジュットランド沖海戦 光藤亘/ソノラマ文庫 イギリスの一水兵から見たユトランド海戦(正しい英式発音表記は「ジャットランド・バンク沖海戦」らしいです)を当時のイギリスの海洋小説をもとに日本人の作家がリライトした異色作。当時の英国海軍の水兵さんの日常(坂場で強制徴募したりはしてなかったらしい)や砲の散布界などの解説があって、いい本です。
鉄十字の翼/ドイツ空軍機全機発進せよ ジョン・キレン/早川/内藤一郎 訳/早川文庫 ドイツ空軍の始まりから45年の終わりまで。前半は空の騎士道盛んなころのドイツ空軍について。W.29とかの水上機にまで触れられてます。
撃墜王リヒトホーフェン S・M・ウラノフ/ソノラマ文庫 レッド・バロンが飛行機乗りになって、ナゾの多い戦死を遂げるまで。よく覚えてませんが、犬が出てきた。
大空戦 E・H・シムズ/石川好美/ソノラマ戦記文庫

空戦のエースたちへのインタビュー。一次大戦ではシェーネベック、アーサー・ゴールド・リー、ヨセフ・ヤコブズ、ロックフォード、ロバート・C・ケイツ、オステルカンプ。貴重です。

おもしろいことに、旋回中に横滑りをして相手の目をごまかす機動は第一次大戦でもう発見されていました。また、エースといわれる人で、生き残った人の大半は、すでに第一次大戦で一撃離脱戦法を用いていたのです。効率のいい空戦の原則は最初から変わらず、先に発見、奇襲攻撃、離脱なのでした。

撃墜王 スティーブン・クーンツ 編/高野裕美子 訳/講談社文庫 名作「デビル500応答せず」の著者が紹介する航空戦記のアンソロジー。著者がいうように、ここに集められた数々のエピソードは、飛行機の話ではなく、飛行機で戦った人々の物語です。すばらしい。

第一次大戦では初めて飛行船を撃墜するレギー・ウォーンフォードのエピソード、マッカデンの自伝、リッケンバッカーが映画撮影に協力する手記が紹介されています。

翻訳者は、もうすこしその筋の専門家のアドバイスを受ける必要があると思う。翻訳という仕事はむつかしいです。

宣戦布告 レン・ディトン/後藤安彦/早川文庫 戦争短編集。WW1物が2編ほどはいってます。ドイツ物とイギリス物。
エムデンの戦い R・K・ロックネル/難波清史/ソノラマ戦記文庫 ドイツで一番ゲンのいい名前を持つ巡洋艦「エムデン号」(初代)の冒険記。第一次大戦の魚雷の発射距離は300メートルだったりする・・・

ちなみに、ドイツの船で一番運の悪い名前はブリュッヒャー。次がシュペーね。

商船戦記 大内建二/光人社文庫 第一次、第二次の両世界大戦下の民間の船たちの物語。

物流をになう貨物船、人々の夢を運ぶ目的の客船たちも戦争は容赦なく巻き込んで運の悪い船は沈み、運のいい船もまた苦労をそのログに刻みます。

登場する第一次大戦の船は、ルシタニア号、ブリタニック号、常陸丸、恐ろしいカナダのハリファックス港のモンブラン号大爆発。

ヒトラーの戦艦 エドウイン・グレイ/都島惟男 訳/光人社文庫 冒頭に、誇り高い(?)ティルピッツの艦隊の一斉自沈の様が。
F/A-18の秘密 オア・ケリー/吉良忍 訳/ソノラマ文庫 80年代から21世紀まで米海軍/海兵隊航空隊の主力戦闘攻撃機を務めることになったF/A-18の開発ストーリー。

第一次世界大戦から誕生した航空戦というジャンルが、いかにアメリカ軍に採り入れられていったかを結構なページ数で解説しています。それは簡単な空母の発達史になり、それらがいかにF/A-18に生きているかにつながってゆきます。

ガリポリ アラン・ムーアヘッド//

 

ロシア革命:帝国陸軍もソビエトロシアも、寿命は75年。両方腐って崩れましたが、75年という周期は、社会になにか意味を持つ運命の数字なのでしょうか・・・

世界を揺るがした十日間 ジョン・リード/小笠原豊樹 訳/筑摩書房ノンフィクション全集#23
ボリスの冒険 A・ガイダール/講談社少年少女世界文学全集 「ぼく」少年ボリス・ゴリコフが、第一次大戦のさなかに起こった革命に「自ら」身を投じて一人前のボリシェビキになってゆく様を語ります。ボリシェビキの思想と彼らの行く先がどういうことになったかはともかく、冒険の連続で当時子供心にわくわくして読みました。

「アレは白軍じゃない、ドイツ軍だよ」

ガイダールは本名の性が「ゴリコフ」。実際に革命戦争を生き抜いたけど、第二次大戦早々に従軍記者として戦死しちゃいました。ちょっとかなしい。

三八式歩兵銃 加登川幸太郎 日本陸軍の歴史の中で、リンクがあるのはコルチャック。

 

軍縮:平和になれば、はっきり言って軍隊なんぞは金食い虫のお荷物です。最低限残して縮小は当然。それがまっとうな感覚。英米はその辺わかってるけど、日本とかの、あとからきたコンプレックス丸出しのわけわかんない二等国が空気読まないで軍拡してるので、交渉して軍縮しようといいました。日本のエリート軍事官僚たちにとっては失業の危機。苦し紛れに戦争起こして雇用を創製したり、右翼や単細胞の若手を煽ってテロさせたり、統帥権とかいう屁理屈をもちだして大騒ぎをはじめました。一種の労働争議かも。で、それら「失業しないための屁理屈」を真に受けた若手が偉くなると(っていうか、真に受けたやつしか出世させなかったというのが恐ろしいことで・・・)、労働争議のための屁理屈がいつの間にか誰も疑わない常識になって・・・ハタから見ればすごく異常なのに・・・テロが怖くて誰も逆らわないと・・・国が滅びます。
日本を滅ぼした国防方針 黒野耐/文春新書 「勝算も戦争終結の目算もないまま」英米中そして潜在的にソ連まで向こうに回した戦争を始めた理由を国防方針の変遷に求めたすばらしい本。これを読むと、これから我々はどのような発想で国際関係を乗り越えていくべきなのかが見えるような気がします。

ぼくは常々国の行き方って、誰が決めてたんだろ・・・と疑問だったのですが、この本を読んだら次のような考えにまとまりました。↓

日露戦争に勝利した時点で陸海軍には当面の敵がなくなったので、ここで健全な経営者は陸海軍を縮小することを考えるわけですが、手柄を立てたのに縮小されるということに陸海軍の人は納得がいかないわけで、実際師団一個つぶすと将官が三人、大佐が五人くらいをはじめ、エリート官僚がごっそり首になります。軍艦も戦艦二隻で少将二人と佐官多数がポストを失いますから、しゃれにならないと思ったのでしょう。しかし、それをそのままいわずに、国家の危機を煽るキャンペーンを張り、ドンブリ勘定の国防方針というもので雇用を創造しようとしたわけですね。陸軍には満州をロシアの復讐戦から守るという口実があるから比較的に軍縮のダメージを抑えられそうなのに、強力なロシア海軍を消滅させた我が海軍にはそれがない。しかも陸軍主導になったらおもしろくない。陸海軍は平等じゃなきゃ面子が・・・と、どうやってもかなわない国、アメリカを新たな仮想敵に選んだのでしょう。総力戦では勝てないので、本音では戦わないのを前提に。でも、タテマエはこれだけないとアメリカに勝てない、とわけの分からない理論で艦隊を維持しようとします。まさに、軍隊のポストを維持するためだけに国防方針が編まれ、だからまったく実用に耐えないにもかかわらず、それに沿い、破滅する。だいいち、平和時に国家予算の40%も軍事に使うのは異常でしょう。明治から昭和まで、軍事官僚には金銭感覚がマヒしてる部分がある。軍のために日本があるような錯覚をしている。その辺の異常さを誰も認めなかったところに破滅の一因があったと思うのですが、今の世の官僚達、それに政治家には金銭感覚あるでしょうか?ないですね。官僚のために国があるような錯覚に捕らわれてませんでしょうか?

スペイン市民戦争:現実派と理想派。地に足の付いたほうが勝ちました。文化人は理想がすきだけど、セザンヌの林檎は、食えない。

アイテム 出版社 内容
スペイン戦争 三野正洋/ソノラマ文庫

精力的な著作活動を繰り広げる作者による、データ本的なスペイン戦争解説。

ただ、兵器などの解説は、100%うのみにするべきではないかも・・・(特に飛行機、火砲)もちろん、そんな部分はほんの少しではありますが。

ヒトラーの戦艦 エドウイン・グレイ/都島惟男 訳/光人社文庫 装甲艦のスペインでの働きが3ページぶんほど。

 

張鼓峰事件:赤軍大粛正のさなか、朝鮮とソ連の国境で起きた軍事衝突。

担当したのは朝鮮軍と外務省。めずらしく政治が軍を従としています。「エリート(自称)」のマスターべション好きな関東軍がからまなかったところが事件拡大にいたらなかったカギかも。

もう一つのノモンハン

張鼓峰事件

1938年の日ソ紛争の考察

アルヴィン・D・クックス/岩崎博一・岩崎俊夫 訳/原書房

ノモンハン:日露戦争で死ぬ思いでやっとこ外交的に勝利できた先祖の七光りで夜郎自大になった陸軍官僚の終わりへの予言。戦争をしらない子供たちの暴走。

のほほんと腐りきっていた関東軍首脳部に較べ、張鼓峰事件で引き分けたのを理由に前任者が粛正されているのを目の当たりにしているジューコフは、いたってまじめでした。まるで、アリとキリギリスの童話のようです。アリの方がジューコフね。

アイテム 出版社 内容
無名戦士の記録・ノロ高地独断撤退 谷口勝久/旺史社 通称「長谷部支隊」とよばれる小松原兵団の左翼を守る部隊が、師団の拙劣な指揮から来る戦線崩壊によって包囲殲滅の危機に陥ったことから、独断で撤退をしてしまったという事件を、支隊の主力、梶川大隊の行動をメインに記録。巻末の当時の参謀によるレポートはだらだらとして分かりにくい。当時の優秀な人の条件は、簡潔な文ではなく、難しい言葉を大量に使った冗長なレポートが書けることだったらしい。このことについて阿川弘之さんにバカにされたのは陸軍ファンにとってはくやしい。フ〜ンだ!
ノロ高地 草葉栄

ノモンハン

(上・下)

五味川純平/文春文庫 戦前の無責任さにあふれた体制に暗い怒りを抱く著者が、ノモンハン事件を冷徹に描きます。さまざまな資料を当り、根底にある、静かな怒りをときどき表に現しつつ、板垣征四郎にはじまる陸軍エリート、低能な為政及び外務関係者をこき下ろす迫力は、終戦直前に著者自ら体験したことへの怒りを交え、共感を覚えます。〔軽々しく共感とかいうとおこられそう・・・)

人間の記録

ノモンハン戦

(侵攻編・壊滅編)

御田重宝/徳間文庫

中国地方の郷土部隊の戦史を研究する筆者の調査によるノモンハン戦。中国地方では、二十三師団が編成されるときに第五師団からも大勢人がいったので、体験者が多いらしい。山本七平さんの回想に出てくるノモンハン帰りの人も「・・・ですケン」という話し方で書いてあります。

インタビューによる、おおくの人たち〔現場)の声がつづられている点は貴重です。

また、このときに捕虜になった人々のさまざまな運命等にも触れられていて、こうした部分を読むと、五味川純平さんの怒りの一端が理解できるような気がしてきます。

「二十三師団は強かった」という筆者の声は、中途半端で間抜けな指導をして負け、あたら優秀な若者たちを無駄に死なせた陸軍首脳部ヘの怒りなのでしょうか・・・

ノモンハン事件 越智春海/図書出版社 筆者は元陸軍軍人。ノモンハン事件をプロの目で地形などを含めていろいろな資料に基づき解説。事件以前にあった重装甲車のおそまつな越境事件などのエピソードが耳新しかったです。関係者の戦闘指導っぷりを気持ち良くこき下ろしています。(でも、同じ教育受けたわけだし、同じ穴のムジナなのでは?)

ノモンハン

1〜4

アルビン・D・クックス/朝日文庫

アメリカ人の筆者が日本、ソビエトの両資料をもとに調査したノモンハン事件。

日本の資料ではひたすら空気のようにふがいない存在だった第一戦車団の九五式戦車が、じつはBTくらいの相手になら互角に渡り合えたことなど、外国人の冷静な目から見た記述は自虐的日本戦車解説に慣れたわたしたちには新鮮で貴重かもしれません。(すくなくとも、BTの装甲は日本の37ミリ砲弾をはじき返すことはできなかったようです。このことは、速射砲の兵の証言でも明らかです。)

ぼく的に評価はかなり高い力作。

静かなノモンハン 伊藤圭一/講談社文庫/講談社文芸文庫

北海道第七師団のノモンハン事変経験者三名の体験を描いたドキュメンタリー。ただ淡々と体験のみがつづられています。しかし、筆者の気持ちは不思議に伝わってくるという静かで悲しい作品です。

講談社文庫版は表紙のカバーデザインが悲しくていい感じ。

講談社文芸文庫版には著者と司馬遼太郎氏の対談がでてます。全体にいい感じの対談ですが、戦場体験者と未体験者の心理のギャップが読み取れるところも興味深い。この心理のちがいは戦記を読み解くうえで、非常に重要なことなのです。・・・と思う・・・

八月の砲声 津本陽/講談社
ノモンハンの夏 半藤一利/文春文庫

内容的には、「ノモンハン事件のあった年の夏」といった内容。どちらかというと、日本国内の政治がメイン。

昭和初期に暴走していたのは陸軍のみならず、外務省、更には国民総出の暴走だったということが分かります。(なにやら、こないだのITバブル提灯行列とダブるような・・・)で、戦争責任を陸軍と内務省に押しつけて自分は被害者面した人たちのおかげで、日本はいまだにいびつです。(真の被害者を主張できるのは当時の子供たちだけだったのかもしれません)

ところで、この本の中に、米内光正が「海軍のフネは米国と闘うようにはできていない」うんぬんという下りを立派な発言のように書いてあるのは納得いかない。仮想敵を米国とした戦術に合致するように設計したとかきいたんですが?

で、それでかなわないと思ったのだとして、米国と闘わないのを前提の海軍が、なぜに軍縮に反対したのか!なぜに対米英八割などと騒いだのか!「やっても無力だとわかっているそのことを、なぜ、やらせた。」(山本七平)という言葉がうかんできてしまいました。(うけとり方を変えれば、軍縮で艦隊を削減されたことへの提督からの皮肉にもとれますが。)海軍も陸軍も、国民も、等しく常識感覚が小児的でお粗末だったからこそ、あの敗戦という奈落があったことを認識すべきで、等しく非難されて問題点があらいだされ、みんなの生活に活かされてこそ、後世のわれわれが正しい道をゆけるはずなのです。

誰かが著しく悪かった。でも、悪くない人もいた。おわり。という言い方は、なっとくできません。(ていいながら、どっかで自分もやってたりする・・・)

あヽ隼戦闘隊 黒江保彦/光人社 大戦の空を生き抜き、空自のえらい人になった筆者の回想。初陣はノモンハンです。最初から最期まで交代も無しに闘いつづける部隊がだんだん疲れてくるさまがよくわかります。予備とかいう発想はなかったようです。〔無いソデは振れないという方が当たってるかも。でも、ソデもないのに戦争しちゃいけない。)
飛燕対グラマン 田形竹尾/ 今日の話題社 陸軍のベテラン下士官操縦者の典型的な自伝。九二戦時代からのベテランです。陸軍航空の内務がよく描かれています。戦前はソ連空軍の将校の派遣があったという情報は初めて知った。

ノモンハン事件直前の事故で空への復帰に努力する著者ですが、同期の古郡曹長の活躍について触れています。のちに22戦隊でも三味線持って活躍するあの人です。

ノモンハンの空 鈴木五郎/光人社文庫 黎明の陸軍航空を、当時の世相と併せて、ひとりの青年を主人公に描いた小説。写真と地図が楽しい。
一九三九年のハルハ河畔における赤軍の戦闘行動 エス・エヌ・シーシキーン/田中克彦 編訳/岩波現代文庫

(「ノモンハンの戦い」所収)

1946年時点でのソ連軍のノモンハン事件に対する一般認識が読める論文全訳。貴重。

著者はノモンハンに行ったわけではなく、論文は「赤軍総司令部戦史局の所蔵する報告資料と作戦記録にもとづいて書かれ」ています。ので、地勢における記述にも、ソ連軍側の岸の方が低かったなどというヒロイズムのために創り上げられた味方の劣勢があるのは興味深い。また、ジューコフの名前が全く出てこないことも興味深い。

戦闘の下地となる日ソ双方の政治的経緯ですが、この本ではかなり関東軍を政治的に買いかぶっているようです。実際の関東軍はもっと行き当たりばったりで、なし崩しで、首脳部のみ内輪にナアナアで、プライドのみ高いダメ官僚集団であったようです。

井置部隊のフイ高地の防御はソ連側からみて、非常に堅かったようで、後に独断撤退の「罪」で自決させられる井置中佐は惜しい人物であったようです。自決させられるべき「戦犯」は、ぼくとしては板垣(天皇の師団を「一個師団くらい」と軽々しく熱かったので統帥権侵犯)、植田(軍司令官の職掌を放棄し無能な部下のいいなりになって陛下の国軍を危機にさらした。)、小松原(無能、陛下から預かった師団を無為に壊滅させ、親輔した陛下の権威を傷付けた)その司令部首脳(無能)、辻(無能)とかでしょうか。

訳者は向こうの発音に凝りたかったらしく、地名が我々の読み慣れた名称と全くことなるので読むのに苦労しました。参考までに、↓

ホロンボイル→ホロンバイル ハイラースティーン河→ホルステン河 ウズール・ノール→ウジュル水 バヤン・ツァガーン山→バイツァンガン高地 タムツァク→タムスク など。

あと、日本軍の部隊名称は「第二十三騎兵連隊」ではなく、「騎兵第二十三連隊」と兵科を前に出して記述してほしかったです。

付属の地形図は細いけど小さいのが残念。1ページ丸々とってても良かったかも。

ハルハ河の回想 コンスタンチーン・エム・シーモノフ/田中克彦 編訳/岩波現代文庫

(「ノモンハンの戦い」所収)

ノモンハン事件最末期に戦場を訪れた詩人の回想。

日本軍が壊滅して掃討戦の段階になってから現地に着いたのでほとんど戦闘シーンはない変わりに、司令部でのジューコフの様子や、停戦交渉の現場の様子、停戦の宴の様子、戦場清掃をする日本兵と、それを監視するソ連軍のシステム、捕虜交換の様子などが細かく描写されています。「ナガーン」はナガン・リボルバーのことね。

よくほかの本にも出てくる、日本人の見せる「わざと」らしい微笑は、「自分には教育があって、特別に教養ある階層に属している」という表現であろうという読みは鋭いかも。著者は日本に住んだことがあるようで、日本の農民は自然で純朴であって人間的だとも言っています。

小松原が腹を切らせられず、逆に叙勲したのは、この本が言うような、日本軍が攻勢終末点を定めない傾向のある軍隊だから、自分がそうだからソ連もそうだと思った結果ソ連軍の停止を小松原の危機対処の手柄にした、というわけではないと思う。

ぼくに言わせれば、天皇の親輔した師団長が無能で腹を切ったということになると、無能なものを親輔した天皇の責任になって、そうなると天皇に責任を負わせた陸軍の責任になって、それをライバルの海軍に御前で攻撃されると面倒くさいからナアナアで誤魔化したわけで、そんな姑息なことしか考えられないほど傲り、腐っていたわけなのでしょう。

ノモンハン空戦記 ア・ベ・ボロジェイキン/林克也・太田多耕 訳/弘文堂フロンティアブックス 1961年に出たボロジェイキンの回想の翻訳ですが、最初の一章は地味な訓練とかでつまらないからと割愛されてます。がっくし。

政治将校パイロットとして7月から唯一の機関砲つきのイー16装備の中隊で日本の戦闘機と戦いますが、敵の日本人のテクニックをほめる一方、飛行機のもろさが指摘されている点が興味深い。5月には練度不足で日本の相手にならなかったと書いていますが、8月には圧倒してしまったようで、自信にあふれる記述になっています。自然に対する描写に、著者の人柄が偲ばれます。

この本が書かれた時代的にスターリンとジューコフのことを良く書いていないのはおもしろい。

あと、イ-153が戦場に来たての時はその乗員の士気が高かったのに、後の方ではあまりいい評判ではなくなってるところなども興味深い。

出てくる飛行機はイ-16、153、九五戦(九六戦と書かれている)、九七戦、軽爆、エスベー、テーベーなど。

解説・ノモンハン戦史 林克也/弘文堂フロンティアブックス

(「ノモンハン空戦記」所収)

まとまったものとしては初めて書かれたと自負する、ノモンハン戦の解説。

ちょっと感情的に日本軍を批判。張鼓峰で平和を愛するソ連軍を日本軍が挑発したように錯覚させる書き方をしてるけど、良く読めば先に越境占拠したのはソ連軍だとわかるし・・・ちょっといやな作為。

日ソ互いに中堅の軍人がリストラ逃れもしくは粛正逃れの手柄ほしさに小手調べしたくてウズウズしてたのが真相かと。

で、それを政治でコントロールできたのがソ連で、できなかったのが我が軍と・・・

流れはわかりやすく、自負するだけのことはあるかも。

 

冬戦争:ナポレオン戦争のどさくさで、民族意識に目覚め、第一次大戦のどさくさでやっと独立できたフィンランド。しかし、それもつかの間、東からボルシェビキの魔の手が・・・軍事、外交、予算共にどこかの極東の官僚主主義島国とは比較にならないバランスのよい政治を誇るフィンランド。この国もサバイバル国家です。

北欧空戦史 中山雅洋/ソノラマ戦記文庫

 

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