戦記のお部屋(第十四分室)

中東、インド・パキスタン、ヴェトナム、冷戦

 

第二次中東戦争(スエズ動乱):エジプトのナセル大統領は、スエズ運河の国有化を宣言。おこったのはイギリス、フランス。イスラエルもそそのかし、ナマイキなエジプト人メ!やっちまえ! などとウエストランド・ワイバーン艦攻などをもってこうとしたんですが、あまりに露骨なやり口だったので、アメリカにまでスカンされて・・・

 

インド・パキスタン戦争:インドは苦労の後、独立できましたが、その中のイスラム教徒たちは、さらにその独立から独立しようとして、国が小さくなるのを嫌ったインドと戦争に。まあ、お互いに食べ物のタブーが逆では、いっしょに暮らしたくはないでしょう。親ソのインドが小さくなることは歓迎だったアメリカは、パキスタンを支援。(ソ連がなくなった今は持て余し気味・・・)

ちがった空 ギャビン・ライアル/ハヤカワ文庫 カシミール反乱でインド国外へ逃亡したマハラジャの宝をめぐって、ギリシアでおんぼろダコタを飛ばす男と、インド貴族とがしのぎを削るハードボイルド。かっこい〜!

 

ヴェトナム:枕詞が「ドロ沼」のベトナム戦争。もしも、アメリカがちょっかい出さなかったら、どんな結果になったでしょうか・・・共産主義者が無血で天下を取ったとして、そのあとにくる大粛正を、日本の自称「文化人」達はちゃんと平和運動をもって止めようとしたでしょうか。文化人の平和とは、人が死なないということではなく、反米ということなんでしょうか。

まあ、アメリカが放置しておいても、ソ連の極東艦隊は非力だったので、世界情勢にはあまり差はなかったと思います。結局ベトナム人の血は流れるとしても・・・

地上最強のアメリカ陸軍特殊部隊 三島瑞穂/講談社+α文庫 家庭の事情でアメリカ陸軍に入隊した筆者の特殊部隊隊員としてのベトナム戦争の回想。ベトナム高地人を味方のゲリラ戦士にしたてて南ベトナム軍と戦う様子が興味深いです。前半は2001年のアフガニスタンに派遣された「後輩」たちの頼もしい姿を解説。
地獄のヘリ作戦 ミルズ

騎兵士官の筆者がOH-6を駆って駆け抜けたベトナムの上空。AH-1とペアになって行なう戦闘は迫力があり、常に味方を救出しようと最大限に努力する姿は(反対側でベトナム兵が物みたいに切り裂かれているという事実をさしひいても)感動的です。しかし彼も、次第に疲れてゆきます。

いい本だと思います。

戦車のキャタピラ(英語ではトラック)が外れるという描写を「トラック(貨物自動車)が倒れた」と訳したのは痛い・・・

デビル500応答せず

〔上・下)

スティーブン・クーンツ/講談社文庫

元イントルーダーパイロットの筆者によるベトナム青春物。

ナビゲーターのまったく唐突で不運な死からジレンマに陥り、悩むジェイク・グラフトン。

彼は自分に忠実に生き、道を見つけることはできるのか?

クライマックスのジェイクの叫ぶ言葉に奇妙な感動をおぼえてしまいます。かれらアメリカ人が戦争強いのは・・・

こういった小説では、必ずワンパターン的に悩む主人公というものが出てきますが、戦場に行った人たちは、必ず、死というものに直面し、聖書のイサク〔間違いで、ヤコブらしい・・・ごめんんなさい)のようにそれと取っ組み合い、どこかをへし折られてしまうものらしい。アメリカ人の取っ組み方は、アメリカ人らしさの出た取っ組み合い方なんでしょう。

大空戦 E・H・シムズ/石川好美/ソノラマ戦記文庫 インタビュー。ヤコブ・シュラー、ロビン・オールズ
イントルーダーズ(上・下) スティーブン・クーンツ/講談社文庫

ベトナム後、平和になった空を相変わらずイントルーダーで飛ぶジェイク。

平和になっても艦隊航空はスリリングです。

海軍青春ものの傑作。

シャドー81 ルシアン・ネイハム/中野圭二/新潮文庫 作戦中に一機の最新鋭超音速VTOL戦闘機が行方不明に。

航空犯罪小説の傑作。いっちゃうとネタバレなのでこれ以上書けません。是非一読を。

宣戦布告 レン・ディトン/後藤安彦/ハヤカワ文庫 所収の短編「コーラの飲める基地」

兵站部隊のトレーラーの二人の兵士たちのおかしな運命。

日本はなぜ敗れるのか 山本七平/角川oneテーマ21 田原総一朗記者が、ヴェトナムから撤退してきた米兵に例の調子で突っ込みだけの質問をして、はかばかしい回答がないのに業を煮やす記事を引用して、「人が期待した通りの答え」--現場にいなければ理解できないことの否定--のみを求める報道記事のあてにならなさを静かな怒りをもってさらし者に。

田原総一朗って、昔からこの芸風しかないんですね。一見するどそうに見える質問して相手をとまどわせ、問題提起した気分で得意になる、自分に酔う・・・自称正義の味方・・・その実つっこみ入れる相手は権限のない木っ端役人とか疲れ切った帰還兵とか、反撃される恐れのない、立場の弱いものたちばっか。でもタイトルには「政府に物申す」とか、「強大なアメリカ軍への平和のインタビュー」とかでいかにも強大な権力に立ち向かってるように見せかけて・・・ずるいネと思った。田原ファンの方いらしたら申し訳ない。

 

冷戦:二人の荒くれ男が、お互いに撃鉄の起きた拳銃に指をかけたのを相手のひたいにあてがいながら口げんかしてる状態。足もとではつま先でお互いのすねをつつきあっています。みんなはらはら。

スターリンの死 ジョルジュ・ポルトリ//早川文庫 スターリンの晩年の恐怖に満ちたクレムリンの様子のドキュメンタリー。誰も信じられなくなったスターリンの疑心暗鬼と、それに対する恐怖からくる気違いじみたスターリンへの国を挙げてのお追従ぶりは、当時それについて「ソ連は進歩的な国。スターリンは社会主義の理想」とか寝ぼけていた人びとの神経を疑わせるに十分な自由のない国の証拠だとおもうのですが、我が国でそれについて語っても「軍国主義者」とかののしられなくなったのはつい最近のことですね。

スターリン礼賛をしていた日本の進歩的な人々は、彼が死ぬとフルシチョフの尻馬に乗って手のひらを返したように批判をはじめたことはおもしろいです。まるで、今まで先鋭的な皇軍万歳だった人が、敗戦後すぐに率先して奉安殿をたたきこわし、教科書に墨を塗った時と同様に。

アルバニアって、まだスターリン礼賛してるのかな?

スターリン・ジョーク 酔っぱらってフルシチョフはバカだと叫んだ男の犯したふたつの罪名は?ひとつは騒乱罪、もう一つは?・・・

自由に物を言うことを許されない歪んだ文化が生み出す小粋なジョークの数々は、他人事だから笑うことができるのでしょう。でもやっぱり抱腹絶倒のおもしろさです。共産主義の政治家達って、キャラたってるし、突っ込みどころが多いもんね。あと、ロシア人の文化的自虐ネタは好き。

F/A-18の秘密 オア・ケリー/吉良忍 訳/ソノラマ文庫 日本海軍という巨敵がいなくなって、次なる敵、ソ連と中国にはまともな海軍はありません。そこで海軍の規模縮小と「新興勢力」空軍の拡大にともない、官僚のなわばり抗争が!フォレスト・P・シャーマン大将は、軍縮におびえて統帥権までもちだした我が海軍の提督達と違って、理性的な人だったようです。教育の違いかな?

新たに起きた新局面、局地戦争への緊急展開という任務のために空母は生き残ります。

そして新ジャンルであるジェット機を空母で運用するための試行錯誤も始まります。斜め甲板とか、イギリスのアイデアだって知らんかったよ・・・トホホ・・・

さらに朝鮮、ヴェトナム戦争を経て70年代、ソ連に新たな戦術、低空侵攻するツポレフ22Mからの巡航ミサイル攻撃からどう艦隊を守るかというテーマに、取り残された当時の花形F-14に代わる小型迎撃機の必要から産みだされたのがF-18なのでした。

F−14が以外に扱いにくい飛行機であったとみられる記述が多数あって、興味深い。

ダーク・ブルー ズディニエク・スヴィエラーク/山田清機 編訳/角川文庫 イギリスに渡ってまで祖国のために戦ったチェコ人パイロット達は、戦後の共産党体制の中で粛正され、収容所暮らしを強いられます。(体制にとって、気に入らなきゃ外国に逃げてまで闘うというような人物は、「危険」であります。一回噛みついた犬はまた噛みつく可能性が高い。たとえ本人がどう考えていたにせよ。)そんな1人が回想するバトルオブブリテン。

それはともかく、著者の脚本した映画「コーリャ 愛のプラハ」は、卑怯にも子供をだしに使ってぼくを涙まみれにしてくれた温かい名作。一度みてみてくださいね。

存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ/千野栄一/集英社文庫 タイトルの魔術的な響きに魅かれて手に取った本。でもぼくの知能ではよくわかんなかった。ちょっとあったかい話。たぶん、原題を直訳すると、もっと普通の言葉になるのでしょう。コピーライターが得たぼくからの勝利。

いわゆるプラハの春に挫折する前後のチェコスロバキアを舞台に、チェコの内と外を流れてゆく男女と犬を描く事で、人間の中の「重さ」と「軽さ」、日本語でも使うあの比喩、「重い」、「軽い」ということを表現しようと試みた文学作品ととらえたぼくは軽い人間でしょうか。

こうした、つねに近隣の国々によって運命を左右されやすい国の作品というものは、つねに自らを被害者として印象づけ、大国のエゴイズムを貶めることで給湯室のOL的なうっぷん晴らしに堕するものが多いのですが、この作品ではそういったこともなく、起きた出来事は全て登場人物を描くための事件として淡々と織り込まれています。ソ連軍のプラハ侵攻に対する人々の冷めた無抵抗が、結局はなににもならず、逆に狡猾なロシア人とその無邪気で有能と思えない傀儡によってよけい自らの誇りを傷つけることになったという描写には、ぼくは、軍事的に抵抗したらもっと悲惨なことになったろうという反感、それ以前に、なぜ解放後すぐに共産主義者を野放しにさせてしまったのかという反感、共産主義を選んだのはお前らだろうという反感(その意図で書いているわけではない作者に対してではなくチェコ人に対して)を覚えましたが、いちばんいいのは攻め込む気を起こさせないことで、ここで重要なのはバランス感覚のある外交と効率のいい防衛力なのではないでしょうか。

20世紀のチェコスロバキアの無邪気すぎるといっていい政治は、理想好き平和好きといえば耳当たりは良いのですが、無邪気すぎて複雑怪奇な欧州の化かし合い国際関係を生き延びるバイタリティには欠けているといわざるを得ません。(工業製品とかはすばらしいのにね。文系為政者がダメな人揃いなのだろうか)これらの、自国民にたいして犯罪的な無邪気さ(軽さ)は日本にも言えることですが。我が国は幸い島国なのでした。

訳の中に頻繁に登場する「メタファー」という頭良さげでカッコいい言葉、「暗喩」とかのほうがわかりやすいのに、ニュアンスがちがうのかなあ。あと、女性のあそこを「デルタ」とよぶのはちょっと抵抗があるんだけど、「ペニス」と対になる適当な響きの言葉が見つかりませんね。なんか、みんなえぐくて。って、ぼくだけ?

渚にて ネヴィル・シュート/創元文庫 50年代の「近未来」SF。困ったことに、すでに北半球は核戦争で滅びちゃってます。ぽつんと残されたオーストラリアにも、北半球からの汚染物質による死が、避けられない死が、忍び寄ってきています。残された人びとのやり切れない日常。とっても悲しいお話です。
スパイキャッチャー ピーター・ライト/朝日文庫

50年〜60年代にかけての英国カウンターインテリジェンス部門の技術的な闘い。

フィルビー事件後、5人いるうちの最後のひとりといわれる情報部内の「モグラ」を洗い出すことに情熱を傾けるお話。

暗号作成器が作りだした暗号を解読するのに、暗号を打つ現場に盗聴器を仕掛けてタイプのキーの打音をもとに元の文章を洗い出しちゃおうなんてウラワザは、あったまい〜〜〜!としか言い様がありません。

冷戦時のスパイ小説

水面下で知恵を使い、しのぎを削る冒険野郎どもの活躍は、カッコよくて、絵になります。

やっぱり、悪役はKGBじゃなきゃ!このジャンルも、冷戦後はすっかりつまらなくなっちゃった。

GRU スヴォーロフ 亡命将校(匿名)が暴露するソ連軍参謀本部情報管理本部の内幕。当時はとってもむちゅうになって読みました。

どこまでが本当だったのでしょう。

KGB フリーマントル/新潮選書 「チャーリー・マフィン」シリーズ生みの親がまとめたKGB。

これも、どこからどこまでが本当だったのでしょうか・・・

「V局」とかの組織名がとってもカッコよかった。

撃墜 柳田邦夫 1983年9月。アラスカから韓国を目指していた大韓航空機が大きく進路をそれソ連の防空或へ侵入、あわてたPVOに撃墜されるという大惨事が起きました。

大韓航空機はなぜ航路をそれたのか?「マッハの恐怖」の著者が、同じ切り口で取材したリポートです。

消えたブラックボックス
目標は撃墜された
ボイスレコーダー8年目の真実 大韓航空機撃墜から8年、ソ連はなくなり、ロシアのマスコミもこの事件の真相を調査しました。ソ連海軍が有りったけの潜水技師を潜水病の危険も顧みず潜らせ、ありったけの証拠を回収しようとしたことや、撃墜したパイロットへのインタビューなど、向こう側からの情報がたくさんです。
敵対水域 86年に大西洋で起きたソ連原潜の火災沈没事故の記録。ソ連側から見た貴重なドキュメンタリー。ソ連の兵隊もまっとうな人間であり、けっしてトム・クランシーの描くようなクズ人間ではないことがよくわかるすばらしい本です。 

この事件当時、高校生だったんですが、ニュースで見て「露助、バカでー、蒸し焼き!」とか言ってた自分のほうがばか者でした・・・

K-19 駐ソ海軍武官の経験を持つアメリカ人によるソ連海軍原潜事故史。

K-19だけではなく、91年の「マイク」級、2000年の「クルスク」の事故にも触れています。「敵対水域」みたいなのを期待すると地味ですが、ハリウッド映画を予想して手にもとらなかったぼくは反省。まじめな本です。

酔っぱらうことで放射線障害の初期症状を緩和できるという話は興味深かったです。遅らせられるというだけですけれど。

殺人艦K-19は、恐ろしいことに最近まで現役でした。

ところで、この本だけ読むとソ連の潜水艦は役立たずにしか思えませんが、「世界の艦船」2002年11月号から連載されていた「ソ連/ロシア原潜建造史」(アンドレイ・V・ポルトフ)(最近別冊ででました)を読むと、評価のバランスは保てるとおもいます。っていうか、この連載の方がおもしれえっす。おっかない事故の詳細もこっちの方がくわしく載っています。

本当の潜水艦の戦い方 中村秀樹/光人社文庫 冷戦期における海上自衛隊のドクトリンを解説。

これが逆情報ではないなら、国防上冷汗ものです。

面倒くさいけれど、日本国が存在する以上避けては通れない国防問題はやはりきっちりと現実に即した法律を立てて、その存在を規定すべきです。でないと税金がもったいない。

 

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