戦記のお部屋(第三分室)

こんなに救いようのない状況の中にも、人を思いやることができる人はいるんだなあという、救いのようなものを見つけたときの、ホッとした感じ。心が温かくなります。

元気づけられるということ。これが戦記を読むぼくの理由かも。

日中戦争:昭和の陸軍は、暴走官僚の悪しき見本。その、ねじくれた独善の中に巻き込まれ、徴兵された壮丁たちも、その土壌の世論も、おかしなふうにねじくれて、これをリセットするには、アメリカの手を借りて、国土を灰じんに帰さなきゃならなかった。それでもなお、いまだにそのなごりはたくさん。陸軍だけにかぎらずね。

ただ、徴兵制が悪いことかといえば、韓国やイタリア(近々廃止・・・)なんかはうまくやってるみたいなので、ようは、ムリ、ごまかしのないシステムでやってけるかどうかであって、ナアナアな日本人にはそんな器用なことは無理なので、日本にはむいてない制度なのかな・・・クソエリート官僚に〔ゴーマンにも)人件費タダだと思われちゃメーワクだし。

アイテム 出版社 内容
兵隊やくざ〔正・続) 有馬頼義/光人社

「軍隊で物をいうのは、階級よりメンコの数」。

古参兵の主人公が、入営してきた無法者とともに痛快に暴れるシリーズ。とにかくおもしろい。

「こんなに本を読んで、どうするんです?」

「さあな、人間が憶病になったよ」

勝新太郎の顔がうかんでしまうくらいはまってます。

呉淞クリーク/野戦病院

日比野士朗/中公文庫 「呉淞」は「うーすん」と読むらしい。

第二次上海事変に投入された百一師団の加納部隊---歩兵第157連隊の一伍長から見た兵隊達のウースンクリーク渡河作戦。

戦前の発表なのに部隊名とか指揮官名とか伏せ字にされなかったみたい。ドイツ人の指導によって構築されたらしい中国軍の陣地は堅いです。強力だったというべきです。弾の雨降る中でたぶん大隊長らしい「宇野部隊長」は「前進だ、前進するんだ」しかいいません。それでいいのかな?

土と兵隊/麦と兵隊 火野葦平/新潮文庫

「土と兵隊」は、当時現役下士官だった著者がその体験をつづった杭州湾敵前上陸作戦従軍記。

「麦と兵隊」は、その後従軍記者として徐州作戦に参加したときの体験記。突出しすぎて逆に包囲され、緊張下にすごす一夜、ようやく救出されたときの「お父さん、お母さん、生きていました。生きました」という感動的なフレーズは、実体験したもののみが語ることのできる魂の声です。

この記が元で、「徐州、徐州と人馬は進む、徐州いよいかすみよいか・・・」の歌謡曲が生まれました。

飛燕対グラマン 田形竹尾/ 今日の話題社
僕の昭和史(1) 安岡章太郎/講談社文庫 昭和の子供だった著者の回想エッセイ。このひとの書くこと、ぼくはハナについて好きでないんだけれど、兵隊にとられて、(いやいやだけど)けれどちゃんとつとめあげたところは尊敬します。で、この本の中に出てくる戦友たちのエピソードが優しくて好き。
生きている兵隊 石川達三/中公文庫

南京攻略を目指す一個分隊の兵士たちの心理を描いた小説作品。目に付いた現地民間人を、虫の居所が悪いというだけで刺し殺したりする描写が戦後残虐日本軍の戦争犯罪の証拠として利用されたようです。じつのところ、どうなんでしょう・・・住民を並べて機関銃で・・・等というナンセンスな描写(重機関銃での皆殺しはかなりの数の銃をそろえなければ不可能で、そもそも弾薬が不足してその後の作戦に支障が出ます。十一年式軽機では、能力的に不可能。オラドゥールでドイツ軍がやったように、ひとつの建物に押し込めて火をつけるとかじゃないと・・・それでも全員はムリでした・・・映画みたいにうまくはゆきません。)はないだけに、妙なリアリティがあります。

兵隊たちの心理描写は、なにか、納得させられる凄みをもっています。発表が戦中だったので、当時の検閲による伏せ字部分がわかるようになっているのが資料的に○。

坂井三郎空戦記録 坂井三郎/講談社/講談社α文庫 世界的に有名な「大空のサムライ」のひな形になった坂井三郎氏の処女(?)作品。内容はかなり「サムライ」とかぶります。前半は、中国での九六戦や零戦11型に乗っての空戦記。
大空のサムライ 坂井三郎/講談社/光人社/講談社文庫

上記の作品をブラシアップしました。

ガダルカナル上空での負傷からの生還シーンを冒頭にもってくる秀逸な構成は、読む人をはじめから氏の語る回想の虜にしてしまいます。

こういった面でも、戦術家としての氏の優秀さがわかります。

で、前半は、中国での九六戦や零戦一一型に乗っての空戦記。

零戦の運命(上) 坂井三郎/

講談社α文庫

海軍の兵隊さんたちの生活に触れていて、興味深い部分があります。航空隊のみでなく、ふつうの水兵さんにも触れています。戦艦「霧島」についてもとっても興味深いことが書いてあったり。

海軍は怖いところです。

日本撃墜王 赤松 貞明/土曜通信社・今日の教養文庫・太平洋戦争実戦記(1)「日本撃墜王」所収

/今日の話題社・太平洋戦争ドキュメンタリー(1)「トラ トラ トラ われ奇襲に成功せり〜」所収

自称撃墜数350機を誇り、初陣ですでに飛行時間が3000時間超という海軍の超ベテラン戦闘機乗りが語る空中戦。

伝記ではアル中とかおっさんとか性格破たん者みたいに書かれがちな赤松氏ですが、文章をみるかぎり論理的思考のできる頭のいい人のようです。ケンカは嫌いと言ってるし・・・

単騎巴戦に執着するわが海軍にとって中国空軍は手ごわかったと書いてあります。氏の基本はあくまで一撃離脱で、敵を抑えつけて上で回れといっていたり、深追い禁止とか、空戦のモットーはあくまでその他生き残れたエース達と同じく安全第一なものであったようです。

日中戦争では南郷少佐の人柄についてほめています。

岡村基春氏ともめて、海軍やめかけたなどというエピソードもあって、おもしろい。

ひねりこみについての解説をしていて、これは「零戦の秘術」(加藤寛一郎・講談社α文庫)で坂井三郎氏が解説し加藤氏が解析されている事とほとんど同じで、かなりわかりやすい。加藤氏はこの本は読まれたのでしょうか・・・

帝国ホテル厨房物語 村上信夫/日経ビジネス人文庫 波乱万丈のフルコースを生きた偉大なシェフの自伝。

十歳で両親を亡くし、小僧さんからニコニコと働き続けて上を見て、名門帝国ホテルの厨房に入り陰ひなたなく努力してようやく認められたと思ったら軍隊へ。でも軍隊でもニコニコと惜しまずいじけず前向きに全力で努力するのでした。自ら志願して一線の歩兵砲手として。中国戦線でのめずらしいエピソードがいっぱい。

この人は努力家で健康で魅力的で、そういう意味で天才ですね。ちゃんとハメ外して遊ぶことも知ってるし。尊敬できる素晴らしい本です。

料理人に限らず、鍛練と研鑽で研ぎ澄まされた、宝石のような数々の才能も、官僚の面子のための一銭五厘の戦争の消耗財としてあっけなくすりつぶされてしまうということは、やはり昭和の国家の罪であると思った。

わたしの中の日本軍 山本七平/文春文庫 戦争中新聞に載った「百人斬り」報道で、自ら新聞記者に吹いたホラが元でやってもいない百人斬りをやったことにされて戦犯として処刑されてしまった砲兵隊副官の「ホラ」を論証するために自らの軍隊経験を回顧する本。兵隊心理や、日本人の嗜好などを鋭くつかんでいると思います。

日本刀については、津本陽の書いたものを読めばわかるように、刀身を痛めずに何人も斬ることのできる達人は日本にもそうはいません。江戸時代にもいなかったはずです。往時の剣豪はいちんちじゅう木剣を振る暇があったけど、陸軍軍人は官僚なので、そんな暇ありません。

筆者はさらに、内輪から見た日本陸軍の殺人能力の限界についても触れ、マスコミが南京大虐殺について発表するような殺人ノルマを達成する能力は、日本陸軍にはなかったと主張します。

ぼくも、その意見に賛成です。南京での一般市民虐殺はあったことはたしかでしょうが、マスコミの言うだけの数を殺戮したら弾丸不足に陥って以後の作戦はできなくなっていたでしょう。日本はとてつもなく貧乏だったのです。でも、無抵抗の市民を一人殺しても虐殺にはかわりありません。

ところで、筆者は砲兵だったので、砲兵の内務についてかなりくわしく書いてくれています。大量発砲後の砲腔内はローレットから落ちた銅で銅メッキしたみたいだとか、モデリングの参考になるかも。

ある異常体験者の偏見 山本七平/文春文庫 戦争が終わり、反省をしたはずなのに、相変わらず(ベクトルが変わっただけで)なにかおかしい日本人の思考と行動と「行き方」を、考察。

戦後も戦中と同じく、じぶんでは信じてもいない金科玉条を盾に、トリックを混ぜて自己の言い条を押し通す人々が言論界で主導権をとり続けていることに危機感を持ち、自己の体験を例に色々と興味深い話を展開します。

雑誌に連載されたものなので、途中反論者からの手紙などが来たものを取り上げ、これをまた反論する形で考察の材料に使ったりしていますが、山本氏の方が一枚上手のようで、最後のほうでは反論者の反論は主軸と関係のない瑣末の方に流れていってしまっています。この新井氏の反論の流れ方にも、やはり上述のトリックを感じるのはぼくだけでしょうか?

予科練の空 本間猛/光人社文庫 巻末に横須賀時代の予科練の様子。クラスメートの想い出。

 

ハワイ作戦:よかったのか、悪かったのか・・・

開戦通告はなぜ遅れたか 斉藤充功/新潮新書 数字で日本の破滅を警告し過労死した在米の新庄健吉陸軍主計大佐の葬儀にまつわる陰謀の影を追うドキュメンタリー。

陰謀があったかどうかはともかく、やっぱり陸軍も海軍も外務省も内閣も、日本のえらいひとはダメダメです。この無能さは、十分日本人に対する犯罪行為と呼ばれるに値すると思う。

海底十一万浬 稲葉通宗

潜水艦艦長として大戦を生き抜いた著者の回想。

冒頭は真珠湾口での哨戒シーンです。燃料不足に悩みながらも空母サラトガに魚雷を命中させる運の強さ。著者は、この本の中で人の運、不運についておもしろいことを述べています。

太平洋海戦(1) 佐藤和正/光人社 太平洋戦争での海戦をひとつずつていねいに経過解説した力作。関係者へのインタビューからの興味深い引用も多い、いい本です。
海底戦記 山岡荘八 稲葉艦長の潜水艦にのせてもらった体験をもとに書き上げた小説。評価不能。
決戦特殊潜航艇 佐々木半九 今和泉喜次郎/ソノラマ戦記文庫 当時の指揮官が回想する海軍の秘密兵器、甲標的の戦記。猛訓練の末真珠湾へ。

甲標的のコンセプトはすばらしい。しかし、これは港湾奇襲ではなく、島嶼の局地防衛にもっと多く投入されるべき兵器ではなかったでしょうか。

この本では戦火は未確認だということになっていますが、最近雑誌に空中から空襲下の真珠湾を撮った写真に、甲標的のものと思われる雷跡が写っているということで、話題になりましたね。

還ってこない攻撃隊を待つ親潜水艦。彼らは帰還途中にミッドウエーの偵察をします。

この本を読んで思うことは、なんでこんなにこの若者たちは焦っていて、かつ頑なに還ることを考えたがらなかったのかということ。葉隠の読みすぎでしょうか。現代の我々は、もっと余裕を持って物ごとに当たるべきだと思いました。亡くなった勇士を言葉で飾ってあげることは易しいけど、死んじゃったらノウハウも残らない。

また、海軍省が不慮の事故により捕虜になってしまった艇長を、「なかったこと」にしてしまったことには納得がゆかないです。この本ではかばってあげてるので救いですが。

艦爆隊長の戦訓 阿部善朗/光人社文庫 海兵出の艦爆パイロットが回想する太平洋戦争とその反省。

赤城の第二次攻撃隊として真珠湾を空襲します。

海兵出の人の回想なので内輪ボメの内容を予想しておそるおそる読んでみたらまったく逆で、内輪についても容赦なく根本から掘り下げている点には好感が持て、戦争は避けつつ外交でなんとかならなかったのかという意見にはまったく同感でした。

真珠湾作戦は無用であったという意見は説得力があります。

当時の在米大使館員と外務省ボロクソ。これも同感。敗戦時もうまく責任から逃げちゃったから体質は今でも変わってないかもね。

本当の潜水艦の戦い方 中村秀樹/光人社文庫 ハワイ作戦の我が潜水艦作戦を解説、講評。

おもしろいです。

F/A-18の秘密 オア・ケリー/吉良忍 訳/ソノラマ文庫 空母による港湾奇襲というイギリス人のアイデアに、日米がどう対応したかで明暗がでたと書いてあります。

南雲忠一と彼にこの任務を任せた我が海軍をちくっと、かつやんわりと批判。

太平洋に消えた勝機 佐藤晃/光文社ポケットブックス 「統帥権」からみたハワイ攻撃批判。いわれてみれば、ごもっとも。結果オーライで突っ走って外交上不利になってりゃ世話ないわ。

で、ハルノートを突きつけられたときにはヒトカップ湾は既に空だった(しかも政府に無断だった)という指摘は、言われてみて初めて、おかしいと気がついたわたし・・・

宣戦布告前の奇襲は前々から検討されていたという話もあるけれど、それはそれで、国策無視、暴走する「悪玉海軍」という証拠かも。

この本おもしろい!

ただし、「編集方針」とかでそこら中に挿入された英単語は非常に煩わしく、そそっかしい人には著者への反感をさそいかねません。半分読むと慣れてくるけどね。

 

マレー作戦:用意周到、満を侍してマレーへ侵攻した我が陸軍でしたが・・・

マレー作戦 戦史刊行会/原書房 陸軍のマレー侵攻作戦を解説。っていうか、まだ読んでません・・・背表紙のアイコンがかっこいい。
人間の記録:マレー戦(上・下) 御田重宝

中国地方の部隊を追う著者のマレー作戦戦記。インタビューに興味深い証言がてんこもりです。

旅団単位で相互に超越前進する余裕があったのはあとにもさきにもこれっきり?

「極悪人」辻参謀はここでもろくなことをしていません。

マレー沖海戦 /ソノラマ文庫 イギリス東洋艦隊の主力「プリンス・オブ・ウエールズ」と「リパルス」を葬り去った海軍陸上攻撃機隊の活躍。主力は九六陸攻です。敵航空戦力が皆無だったために損害は少なくパーフェクトゲームを演じることができましたが、陸攻隊の華々しい活躍はこれが最初で最期。
太平洋海戦(1) 佐藤和正/光人社

プリンス・オブ・ウエールズが沈むとき、サー・トマス・フィリップ提督とリーチ艦長は「ノーサンキュー」といってフネと運命を共にしましたが、リパルスのテナント艦長は同じことをしようとして、「なにをいってる!」とばかりに回りの人たちにかつがれて海へ投げ込まれ、助かりました。同じ状況でも、当人や、周りの人たちの違いで、大きく人の運命は変わってしまうものですね。

ぼくはリパルスのスタッフの行動の方が好き。

撃沈戦記 /ソノラマ文庫 今は亡き月刊海軍雑誌「シーパワー」に連載されていた「撃沈!〜SINK!!〜」を一冊にまとめた本。その中に、マレー沖海戦の解説があります。けっこうスリリングです。フネには固有名がつくくらい人格に近い存在で、その人生には、さまざまな物語があります。関係ないけど、こないだ地中海で火事で沈んだアキレ・ラウロ号は、先の戦争をくぐり抜け、衝突事故やハイジャックなど波乱万丈の人生だったので、沈んだニュースを聞いたときは、ああ、お疲れさまなどと思ってしまった。ほかに長寿なフネといえば、ポルトガル海軍の「サグリシュII」で、こいつは戦前のドイツ海軍の練習帆船でした。彼女のきょうだいはルーマニアのいとこも含め、今も全員健在。
シンガポール /サンケイ出版 「イエスかノーか!」で有名なシンガポール要塞陥落までの経緯をイギリス人の目から解説。でもけっこう公正です。
あヽ隼戦闘隊 黒江保彦/光人社 独立飛行戦闘第47中隊の一員として、試作のキ-44を駆ってバッファローをやっつけまくります。キ-44の4号機は縁起の悪い機体だったらしい。
本当の潜水艦の戦い方 中村秀樹/光人社文庫 マレー作戦の我が潜水艦作戦を解説、講評。

フィリピン攻略戦:マレーとともに比島攻略戦も実施されました。陸軍最後の砲兵団射撃をやりました。これ以後、フィリピンはいたずらに物資の集積場と化し、破滅の時まで無駄に時間をすごしてゆくことに・・・

比島侵攻作戦 朝雲新聞社 まだ読んでません
大空のサムライ 坂井三郎/光人社ほか

台南から長駆フィリピンの米軍に航空撃滅戦を仕掛ける命がけの作戦を細かに描写しています。米陸軍がこういった長距離作戦能力をもつのはP-51が手に入ってからだということを考えると、日本海軍航空隊のパイロットたちの偉業に頭が下がりますが、これで慢心した指導部が怠慢にもなんの策もなくラバウル〜ガダルカナルという無謀な長距離侵攻を連日実施し、これが当然のこととして受け入れられ無駄に消耗を重ねてしまう下地となったのです。

「うまくいったからといって、同じ戦法を繰り返してはならない」(これはこの本からの引用ではありません)

日本軍初のB-17との戦い(しかも撃墜)や、戦友たちの想い出など、やはりこの本は名作です。

たしかに、後世のちょっとマニア間に名のしれたくらいのジャーナリストのインタビューなんか必要ないかも。

蒼空の河 穴吹智/光人社 陸軍のエース、飛行戦闘第五十九戦隊の穴吹氏の回想。九七戦を駆ってフィリピンへ。陸軍のフィリピンでの活躍がわかります。派手さでは零戦にはかなわないけど・・・
太平洋航空戦史(だったっけ・・・) マーチン・ケーディン ぼろぼろだった在フィリピンの米陸軍航空隊が苦し紛れに榛名型戦艦「平沼」を撃沈!(人名の日本戦艦)等と寝ぼけるシーンの記憶あり・・・
人間の記録:バターン戦(上・下) 御田重宝

日本軍破竹の進撃に、バターン半島に逃げ込んだ米植民地軍を、砲兵団を編成して火力優位の元、降伏させるまで。帝国陸軍の75年の歴史の中で、大砲兵火力の集中運用というリッチな戦い方があったのは、日露戦争とノモンハン(これは大敗北)を除けば、あとにも先にもこれ一回切り。その面で痛快かも。

戦後、問題になった「バターン 死の行進」ですが、これは当時40キロを背負って一日数十キロ歩くのが当たり前だった日本の常識と、お茶をのみにいくのにも自動車が当たり前なアメリカとの完全な常識のギャップが産んだ悲劇です。

相手の文化についても、よく研究しなければ戦争はしちゃいけません。もっとも、アメちゃんやソ連みたいに力づくでネジフせるだけの体力があれば話は別。それでもアメリカは少なくとも第二次大戦一杯までは相手の文化を研究していたようです。

「バターンで行進するアメリカ敗残兵に、現地人達は水や食物、そして花などを与えた。われわれが敗残の身になったとき、かれらは石をもってわれわれを追った。これは文化の敗北でもあった。くやしかった。」というような意味のことを、山本七平氏は語っています。ごもっとも。

 

石油を求めて:日本は国民のためではなく石油のため、極端にいえば軍艦の使う石油のために太平洋戦争を始めました。軍縮条約であれだけ騒いで確保した軍艦がタダのハルクと化してしまうのだから恐ろしかったんでしょうね。でもやっぱりそれは本末転倒で、日本のエリートのおつむの程度の低さが悲しいですね。しょせん倒産のない役人は商売人に比べたらひ弱かつおつむが幼稚で頼りにならないという認識は当時の政治家や国民たちにはなかったんでしょう。言葉の上だけなら「町(商)人の文化」とかのイメージに酔いたがるのにね。

こういった役人の、国民のためでなく役所のメンツのためにする行政ということは軍隊が滅びてしまった今も未だに生き残っていて、たとえば「シビリアンコントロール」の「シビリアン」は軍服を着ていない役人のことだと思っちゃってたりするところや、国民の選んだ国会に馬鹿にしきった態度をとれる屑次官などにみることができ、こういった「公僕」からは程遠い役人は役所の面子のためには平気で国民を見殺しにするでしょう。民主主義には程遠い。

太平洋海戦(1) 佐藤和正/光人社
海軍病院船はなぜ沈められたか 三神國隆/芙蓉書房/光人社文庫 オランダの東インド航路の客船だったオプテンノール(末尾のtって読まないの?)号がたどった数奇な運命。

病院船としてスラバヤ沖にいるところをスラバヤ沖海戦で勝ちに乗るわが海軍に拿捕され、そのまま日本の海軍病院船にされてしまうというなかなかイモーラルなエピソード。軽い気持ちでやっちゃったのでしょうけれどそのしりぬぐいが大変だったそうな。

文章が散文調で入りづらかったけどいい本かも。

インド洋作戦:イギリス海軍を東半球から追いだしてしまいました。他の東洋人にはできなかったことなので、これはこれで、快挙・・・

艦爆隊長の戦訓 阿部善朗/光人社文庫 赤城で待機。

ミッドウエーの惨敗の予言ともいうべき南雲司令部の優柔不断っぷりを静かな怒りをもって描写しています。

海軍首脳部は250キロ爆弾は巡洋艦以上には効かないと思っていたという記述が印象的。

 

日本の潜水艦作戦:日本海軍の潜水艦への認識は(あれほどドイツびいきだったにもかかわらず)、最後まで「艦隊前衛の可潜水雷艇」で、島嶼戦をやっているのに魚雷一本で陸兵を何個連隊も海上で殲滅しようなどという効率のいい発想はなく、交通破壊などは邪道と考え、錦絵のような大物狙いを夢みて終わりました。でも、それをやるには日本の潜水艦はいかにも低性能だったので、沈めた大物は空母が2、大巡1、軽巡1・・・だったっけ?

引き換えに沈んだ潜水艦は百二十数隻。この能率の悪さ!あきらかに使い方をまちがっているというべきです。

しかし、一線のドン亀たちの戦記はそんな残酷な実績にもかかわらずその必死さ、けなげさでぼくの胸を打ち、極限にある人間達のこころを知るための、ひとつの窓となってくれます。

本当の潜水艦の戦い方 中村秀樹/光人社文庫 元海上自衛官(潜水艦艦長)が解説・講評する我が国の潜水艦作戦史。

潜水艦という兵器の特性を解説しつつ、我が帝国海軍の潜水艦への認識と運用をわかりやすく解説しています。輸送や甲標的、回天にも触れてある。

この手の本によく見られる内輪ボメが一切なく、内輪にシビアな、前向きな講評は好感が持てます。

また、地図と作戦年表などの付図も非常にわかりやすく、いい本です。

鉄の棺 齋藤寛/光人社文庫 乗り組みの軍医がその内部から見た伊号五十六(いそろく)潜水艦の闘い。最初は比島沖海戦で50時間爆雷で制圧され、次に回天を積んで港湾襲撃にいかされます。

軍医という比較的自由のある眼から見た潜水艦の生活の描写は活き活きとしてすばらしい。医者という職業からか、軍人、兵隊、呉の商売女達など、人間の観察が公平で愛情をもってされていて好感を持てます。爆雷攻撃下の死のプレッシャーの中での様々な人々の行動の描写も迫力をもって手に汗握ります。そして、爆雷制圧から抜けだしたときにみなの心に芽生えた「これは、勝てないんじゃないか」という心の重しからくるみなの態度の変化の描写。そして最後に爆発する怒り。名作です。

興味深いのは軍医としての観察で、ドイツにならって食事に油分(バター)を多くとらせたら兵隊が食が細ったというところと、気温37度下で汗が出尽くすと痙攣を起こすのは塩分不足ではないかという着目で、前者については、ウチの父親は陸自の演習のあとはバター半ポンドぺろりと食えたっていってるからたぶん身体をそんなに使ってないのに過カロリーだったのだろうなと思ったのと、塩分不足についてはちょうどテレビで熱中症には塩分不足が原因の一つだから水と塩分っていってるのをみたときだったので、すごいなとおもいました。ビルマの陸軍でも塩分不足で引きつけってのはあったみたいで、戦争末期に中国の内陸に行かされる新兵はみんな岩塩を持たされたそうです。塩分は重要なのですね。

「潜校の歌」について、「あいつを歌うと、歌ってるうちに悲壮美の中に引きずり込まれちゃうんだ。不思議な歌だよ」というせりふに、なにか先の戦争の日本人の心理が見えた気がしました。

ところで、この本からすると日本の潜水艦は会敵潜航中も大声で号令とか復唱とか報告とかかけてるみたいなんですが、だから見つかっちゃうのでは?っていうか、バカ映画の「ローレライ」で、会敵時に艦内で怒鳴ってるのはリアルだったんだ・・・トホホ・・・「Uボート」じゃ怒鳴ってなかったのに・・・ソロモンでは何度もいってかえってきたベテラン艦長に新参の艦長が誰も情報を聞きに来なかったというし、わが海軍は職人化しすぎていて、戦いのTipsというものの共有に欠けていたんじゃないんでしょうか。

まえがきが幸田文でびっくり。

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