戦記のお部屋(第十五分室)

中東、湾岸戦争、それから・・・

 

第三次中東戦争:イスラエルの奇襲攻撃ではじまったこの戦争は、初日に全エジプト空軍機が地上で破壊されてしまい、六日でカタがついたといわれています。シナイ半島はイスラエルのものに・・・いい加減、仲良くさらせや!

シャンペンスパイ ヴルフガング・ロッツ/ハヤカワ文庫

ドイツ系ユダヤ人なのを活かし、元ナチ将校の馬商人を名乗ってエジプトでスパイ活動した筆者の回想。

かれの情報で六日戦争は六日で終わったのかな?

サダト大統領の回想録では、ロッツに情報をうっかりもらしてしまったこのエジプトの空軍司令官(自殺しました)はかわいそうだが、まぬけだったと・・・

エジプト人がみんなお人よしのいい人に見えます。

でも筆者も悪い人ではなさそう。

イスラエル空軍

 

消耗戦争と、第四次中東戦争、その後:戦争とはいえない小競り合いのあとでのアラブ側のリベンジ。今度は奇襲される側にまわったイスラエルですが、どうやら持ち直し、逆襲し・・・このころのイスラエル軍が一番強かったのでは?

ターゲットは11人 ジョージ・ジョナス/新庄 哲夫 訳/新潮文庫

楽しいはずのスポーツの祭典の場を地獄に変えたミュンヘンオリンピック人質テロ。まことに人でなし行為です。

イスラエルは復讐を決意。ヨーロッパに散らばるテロ支援者たちを暗殺するためのチームを多数訓練して送り込むのでした。

筆者はその内のひとり。暗殺の手順を淡々と描写します。しかし、人として非情な殺人のくりかえしに耐えられなくなって・・・

ミュンヘン アーロン・J・クライン/富永和子訳/角川文庫 楽しいはずのスポーツの祭典の場を地獄に変えたミュンヘンオリンピック人質テロ。まことに人でなし行為です。

この本では、イスラエル通のジャーナリスト(かつイスラエル政府の偉い人?)が、その事件の詳しい経過から、ゴルダ・メイア首相の復讐の決意がテロリストの首謀者を安眠させない戦術としての暗殺に変異していく様子と、オリンピックテロの遺族のその後の行動とを調査して記しています。

GSG-9で対テロ優秀国の誉高い西ドイツですがミュンヘンでの対応はまことに無能で、腰抜けと言っていいかもしれません。よく対テロの本で「テロリストのいいなりになった国は日本だけ」みたいなことが書いてあるけど、「ドイツと日本だけ」のようです。人質もかわいそうだけど、ヘリの空軍パイロットもかわいそう。警察部隊は命の危険を理由に任務拒否できたのに彼らは・・・話題にもされない・・・この本でもドイツの対応はかなりコキ下ろされています。

スタッフの安全を第一に据えて確実に実行されていくイスラエルの暗殺工作も、成功を重ねるごとに傲りで気が緩んで計画がラフになってくるところは、多くの成功し続けた組織が大ゴケするときや、つかまらない連続犯罪者が犯行を重ねるうちにだんだん手口がいいかげんになってつかまるところと似ていておもしろい。

2000年も昔の領地を主張していきなり居座ってしまったイスラエルと、まんまと追いだされてしまったパレスチナ人。時間の経過とともに、その土地には、そこで生まれ育ったイスラエル人が大半を占めてゆき、かの地で生まれたパレスチナ人は減り、パレスチナ人の故郷としての返還という説得力が薄れていく・・・物を取られたら既成事実にならないうちに取り返さなくてはダメだという教訓が、いや、とられる前に毅然と打ち払う(軍事だけではだめで、経済力、外交力なども含んだ)実力がなくてはダメだという教訓がここにはあります。取られてから暴力に訴えてもあまり意味はないばかりか、無辜の人が巻き添えで死ぬ分有害です。そんな暴力で得をするのはその民族ではなく、それを利用して理を得たい人々のみ。これは遠い国の夢の国のお話ではなく、日本であっても将来我々がパレスチナ人になる危険(外国勢力に徐々に、なし崩しに土地を奪われ、気がつくと外国の土地になっているという)はそこら中にあるということです。そうなってからいくら叫んでも空しいだけっス。

狂信的に過激なことを叫んで、狂信者の支持を得てのしあがったテロリストの幹部が、自分の組織内の地位が安定して、過激なことを言う必要がなくなって(突き進むと破滅しますから)、現実路線への変更を述べたら狂信的な手下の過激派に殺されたという事件は、こうした革命集団の典型的な性格を良く現しているといえます。

冷泉彰彦というひとのあとがきはおもしろい。

原題は「殴り返す(Striking Bach):ミュンヘンの虐殺とイスラエルのきつい回答」なのにスピルバーグ人気にあやかっての「ミュンヘン」は下品だろうと思ったけどそうしないと売れないんだろうと思った。

イスラエル空軍
あの原子炉を叩け! ダン・マッキノン イラクが秘密裏に建造しようとした原子力発電所。完成すれば核兵器製造も夢じゃありません。イスラエルにとってみれば大ピンチ!そこで空軍による爆撃が試みられることに。

ぼくはイスラエルは好きでもきらいでもないけど、この作戦自体はまあしょうがないと思います。2000年前に何もしなかったから滅びちゃったんだし。

でもイスラエルロビーのアメリカ人はきらい。

で、この本もおもしろいけど著者の過剰なイスラエルへの思い入れははっきり言ってイライラしました。そんなに好きならイスラエルに住めっての!

 

フォークランド紛争:第一次大戦のシュペー提督最期の地、フォークランド諸島。南米の最南端、南極に近い、アルゼンチン側のいう「マルビナス諸島」は、イギリスが手放さない海外拠点のひとつですが、国内の不景気からくる不満をワールドカップでもおっぱらえなかったガルチエリ政権が、国民の目をそらすために採った手段がこの島じまを取り返すという作戦。なんで独裁組織って、統治に困ると外を攻めようとするのかな?

「鉄の女」サッチャー首相はただちに全力でアルゼンチン軍を追っ払うことを決意しました。こういった決断力は称えられるべきで、わたしはサッチャーのファンであったり。

意外と強かったアルゼンチン軍と、もっと強かったイギリス軍。

空戦フォークランド アルフレッド・プライス+ジェフ・エセル/江畑謙介訳/原書房 戦闘の余韻もさめやらぬ一年半後の1983年に、当時戦闘に参加した、イギリス陸海空軍と海兵隊、アルゼンチン空海軍、そしてフォークランドの地元のひとびとにインタビューして書かれた素晴らしい本。空中作戦を主軸に書かれていますが、全体の経緯がよくわかる。

当時イギリス側の報道でしか内容の伝わらなかったこのあっけない結末の戦いですが、この本でアルゼンチンの航空隊も非常に有能かつ勇敢、かつ戦友に対して友愛の精神と行動をもって戦ったことがわかりますし、イギリスの対空兵器が当時の軍事ジャーナリズムのいうほど優秀ではなかったのもわかります。

また、登場し活躍する航空機はハリアー、シーハリアーやスカイホーク、エタンダール、ミラージュ、ダガーといった花形だけにとどまらず、バルカンとヴィクターコンビの綱渡りのような長距離爆撃作戦やニムロッドの超長距離偵察行、ワスプ、スカウト、シーキング、チヌーク、リンクスといったヘリの弾雨と悪天候の下の活動や、プカラ、マッキ339、ターボメンタ、フレンドシップ、リアジェット、ネプチューン、キャンベラ、ピューマ、アグスタ109、C/KC-130、B707といったアルゼンチン側の地道な任務の機体にも公平に触れられていて素晴らしい。アルゼンチン軍航空は輸送や観測、救難捜索といった地道な任務もおろそかにせず、それらの機体のクルーは任務を丁寧に勇敢にこなしていたことが分かり敬意がわきます。

でも、アルゼンチンの攻撃隊は空戦訓練をしたことがなかったので一方的にやられちゃったらしい。

この紛争の教訓の、どちら側のものが日本に役立つかといえば、それはアルゼンチン側のものであろうという巻末の訳者あとがきもじつにすばらしい。

暗闇の戦士たち マーティン・C・アステロギ/平賀秀明訳/朝日文庫
本当の潜水艦の戦い方 中村秀樹/光人社文庫 我が海上自衛隊の有事における法制上の問題の解説の最に、フォークランド紛争での潜水艦運用と国際法についてちらっと。

湾岸戦争:ペルシャ湾の小国、クェートは、誤解を恐れずいえば、裕福だが緩みきっていました。一方、ハングリーなイラクのフセイン大統領はこのスキを見逃さず・・・中東の秩序に変化がでることを嫌った国々は、団結してイラクをクェートから排除することを決意。う〜〜ん、もとはといえば、スキだらけのクエートが悪いような・・・今では反省して、クエート軍は訓練を怠らず、国防費を惜しまず、精強になったそうな。日本もクエートみたいにならないよう、バランスのいい国防政策をとってほしいものです。高いだけで弾のないオモチャ武器ばっか買ってないでさ・・・恥ずかしいよ。

 

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