ミステリ&SF感想vol.225

2017.04.06
『ノッキンオン・ロックドドア』 『家庭用事件』 『二人のウィリング』 『セーラー服と黙示録』 『クララ殺し』



家庭用事件  似鳥 鶏
 2016年発表 (創元推理文庫473-07)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 某市立高校美術部の葉山君を中心とする“探偵団”の活躍を描いた〈市立高校シリーズ〉*1の、前作『昨日までは不思議の校舎』から三年ぶりに刊行された第六作にして、五つの“事件”(ただし警察が介入するほどではない)が描かれた第二短編集です。
 個人的ベストは、最後の「優しくないし健気でもない」

「不正指令電磁的なんとか」
 映研とパソ研の間で交わされる契約の立会人を頼まれた葉山君。それぞれの制作でヒロインに起用された柳瀬さんの取り合いになったのだが、映研の撮影が優先される旨の契約書が作成され、一件落着したはずだった。だが、なぜか契約書が正反対の内容になっていることが発覚して……。
 作中にも“まるでマジックだった”(36頁)とあるように、トリックは鮮やかではあるのですが、悪い意味でもマジック的というべきか、解明されるトリックの〈手段〉よりもトリックによる〈現象〉の方が面白いのが難しいところです。また、犯人の“不正指令電磁的なんとか”はさすがにやりすぎで、後味が微妙になっているのも残念。

「的を外れる矢のごとく」
 葉山君たちが弓道部部長の練習に協力した数日後、弓道場から的枠がいくつかなくなっているのが発覚した。雨上がりの土に残された犯人の足跡から、犯行日時を特定できたものの、弓道場への入り方を知っている部員と葉山君たち全員のアリバイが成立し、容疑者がいなくなることに……。
 まず冒頭、葉山君たちが協力する弓道部の練習がシュールで愉快*2。事件の方は、的紙を張るための木製の的枠が盗まれたというもので、犯人探しもさることながら、“一個千円くらい”(65頁)と高価なものでもない的枠が“なぜ盗まれたのか”が見どころ。また、事件の構図も面白いと思います。

「家庭用事件」
 自宅マンションで、夜勤で不在の母親に代わって夕食を作っていた葉山君だったが、突然ブレーカーが落ちてしまう。動転しながらも、何とか復旧させることができたのだが、よく考えてみるとそれほど多くの電気を使っていたはずはなく、ブレーカーが落ちた原因がわからない。一体なぜ……?
 葉山君の自宅が現場となった異色の事件。もちろん、理由もなくひとりでにブレーカーが落ちるはずはなく、“誰が/何のために”という謎が焦点となるわけですが、そこから掘り起こされる思いもよらない真相が強烈です。

「お届け先には不思議を添えて」
 OBの伝手で、映研が保存していたビデオテープをDVD化することになり、葉山君とミノも協力してテープを三つの箱に詰めて発送した。ところが、一部のテープが駄目になっていたということで一箱だけ送り返されてきた――かと思いきや、その中身のテープが別物にすり替わっていて……。
 詳しい状況を調べてていくにつれて、すり替えの機会がどんどん消滅して不可能性が高まる中で、解き明かされるトリックは鮮やか。そして、すり替えの背景となった事情からのひどい(?)オチには、やはり苦笑を禁じ得ません。しかしよく考えてみると、謎のために状況を作り込みすぎて、いささか不自然になっているのも否めないところですが……。

「優しくないし健気でもない」
 妹・亜理紗の友人の姉が、不可解な引ったくり事件に遭ったという。塾で夜遅くなった帰り道、後ろからバイクで近づいてきた犯人にバッグを奪われたが、防犯ブザーに驚いて逃げた犯人を追いかけてみると、バッグは置き去りにされた上に、なぜか中にぬいぐるみが入れられていたというのだ……。
 不可解な事件とはいえ――というよりも不可解な事件であるがゆえに、事件の真相は見当をつけやすくなっているきらいがありますが、謎解きの場面に用意されているサプライズは強烈。そしてそれが単なるサプライズにとどまらず、物語のテーマとしっかり結びついているのが秀逸です。

*1: 帯には“市立高校シリーズ6”とあります。本書の刊行に合わせて既刊の装丁も一新された(→「似鳥鶏〈市立高校〉シリーズ 人気イラストレーター・けーしんが描く新カバーで登場。主要登場人物紹介[2016年4月]|今月の本の話題|Webミステリーズ!」)のを機に、シリーズ名も確定したようです。
*2: とりわけ、“ばぼろべぼろばぼろべぼろぶー。”(57頁)の脱力感たるや(苦笑)。

2016.05.23読了  [似鳥 鶏]
【関連】 『理由あって冬に出る』 『さよならの次にくる〈卒業式編〉/〈新学期編〉』 『まもなく電車が出現します』 『いわゆる天使の文化祭』 『昨日までは不思議の校舎』



セーラー服と黙示録  古野まほろ
 2012年発表 (角川文庫 ふ31-1)ネタバレ感想

[紹介]
 日本帝国・三河湾に浮かぶ人工島に建設された、ヴァチカン直轄の全寮制ミッションスクールにして日本随一の探偵養成学校、聖アリスガワ女学校。卒業試験で学年首席と次席の座を勝ち取った二人の三年生が、合格すれば国家試験を免除されるという特別試験に臨むことになった。そして十二月二十四日の夜、特別試験のために校内の二つの大鐘楼にそれぞれこもった二人は、しかしその翌朝、大鐘楼尖塔の十字架に磔となった状態で発見されたのだ。奇怪な殺人事件に、三人の二年生――ホワイダニットに長けた葉月茉莉衣、ハウダニットを得意とする古野みづき、そしてフーダニットの才を秘めた島津今日子が、三位一体の探偵として事件の謎に挑む……。

[感想]
 ヴァチカン直轄の探偵養成学校・聖アリスガワ女学校を舞台にした、作者のデビュー作『天帝のはしたなき果実』に始まる〈天帝シリーズ〉と微妙なつながりがあるらしい、しかし独立して楽しめる(と思われる)〈聖アリスガワシリーズ〉*1の第一作。主役となる女子高生探偵(候補生)をはじめとしたくせのあるキャラクターたちや独特の愉快な会話も印象的ですが、外界から切り離されてミステリに支配された世界の中にユニークな試みを盛り込んだ、ある種メタミステリ風といってもよさそうな内容は見ごたえ十分です。

 探偵養成学校を扱った作品は他にもあります*2が、本書では事件発生前に物語の半分近くを費やし、主人公・島津今日子の学園生活を通じて作り込まれた設定をしっかり説明してあるのが目を引くところで、とりわけ“カトリックと探偵”という異色の組み合わせを支える聖アリスガワ女学校の由来などは面白いと思います。加えて、探偵養成学校ならではのミステリ関連の科目が、授業風景やレポートの課題、論述式の試験問題など*3具体的な形で示されており、それ自体が非常に興味深い*4のはもちろんのこと、特殊な舞台に実在感を与えているところがよくできています。

 そのような“ミステリづくし”の世界にあっては、丸一日“密室”にこもる不可解な特別試験にもあまり違和感はありませんし、そこで不可能状況と遺体の装飾に麗々しく彩られた事件が起きるのはもはや必定。そして、ヴァチカン直轄でほぼ治外法権の舞台ゆえに警察が介入することもなく、簡単な実況見分を経てすぐさま“解決篇”へ突入する、あまりにもスピーディな展開はいっそ潔いというべきかもしれません。いずれにしても、葉月茉莉衣・古野みづき・島津今日子という三人の探偵役が、三人の“ワトソン役”(?)を相手に推理を披露する“解決篇”が、本書の最大の見どころであることは間違いないでしょう。

 巻末の円居挽氏による解説では、“複数の探偵役”のメリット/デメリットが述べられていますが、本書での三人の探偵役はホワイダニット/ハウダニット/フーダニット――三つの謎解きを分担する形になっているのが秀逸。作中にも、“帰納的推理によるハウダニット”“演繹的推理によるホワイダニット”“ロジックによるフーダニット”とあるように、三つの謎解きは手法を異にしている面がある*5ので、それぞれを担当する一芸に秀でた探偵役を登場させる、という趣向には思わず膝を打ちます。しかも本書では探偵役の“競演”ですらなく、探偵役と“ワトソン役”が三つの班に分かれて“完全独立”の謎解きを行う徹底ぶりがすごいところです。

 実のところ、事件の真相には(やむを得ず)見当をつけやすくなっている部分もあり、“意外な真相”を期待する向きには少々物足りなく感じられるかもしれません。が、作中に論述式の問題が再三登場することで強調されている(といってもいいでしょう)ように、本書の眼目は事件の真相以上にそれが“どのように解明されるか”にある*6のは明らか。そして本書の三つに分割された推理は、“犯人”をまったく考慮しない新鮮なホワイダニット*7、大胆にも最初に論点を列挙しつつそこからの“展開”が鮮やかなハウダニット、さらには終盤の思わぬ切り口が特に光るフーダニットと、それぞれに工夫が凝らされて三者三様の面白さを備えています*8

 島津今日子らにとっては重すぎる事件が決着を迎えた後、シリーズの背景となる“黙示録”に関する恐るべき秘密の一端が明かされ、その後の展開が大いに気になるところです。シリーズ第一作ということもあってか全体的にややあっさりした印象で、前述した事件の真相の扱いなど好みの分かれるところもあるかもしれませんが、意欲的な作品であることは確かです。よりパワーアップしたシリーズ次作『ぐるりよざ殺人事件』と併せておすすめです。

*1: シリーズ名は作者のツイートより。
*2: 本書と前後して、北山猛邦『猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数』や円居挽『シャーロック・ノート 学園裁判と密室の謎』があります。
*3: 例えば、“ジ・オニコベヴィレッジ・マーダケイス”(横溝正史『悪魔の手鞠唄』)を題材に、探偵の“防御率”など様々に論じる授業など。
 なお、『悪魔の手鞠唄』の直接的なネタバレはありませんが、ある程度内容に踏み込んでありますし、本書より先に読んでおく方が楽しめるのはもちろんです。
*4: ただし、いずれの問題/課題も非常に難しく、とても合格する自信がない……どころか、解答をひねり出すことさえ困難に感じられます(そこがまた面白いところでもあるのですが)。
*5: 拙文「ロジックに関する覚書#謎とロジックの対応」(で引用しているMAQさんの「物語と論理-5」)もご参照ください。
*6: 推理ドラマ〈安楽椅子探偵シリーズ〉で有栖川有栖が放った名言、“犯人だけ当てられても痛くもかゆくもない”(大意)を髣髴とさせます。
*7: (一部の?)ミッシングリンクもののようにホワイダニットから入る場合もありますが、犯行の動機は基本的に“犯人の物語”であるわけで、本書のようなホワイダニットはあまり例がないように思います。
*8: 加えて、三組の探偵役と“ワトソン役”による、そこはかとなく漫才めいた(?)やり取りも愉快です。

2016.06.18読了  [古野まほろ]
【関連】 『ぐるりよざ殺人事件』


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