内憂外患迫吾州, 正是危急存亡秋。 唯爲邦君爲邦國, 降彈名姓又何愁。 |
内憂外患 吾が州に迫る,
正に是れ 危急 存亡の秋。
唯だ 邦君の爲 邦國の爲,
降彈 名姓 又 何ぞ 愁へん。
◎ 私感註釈 *****************
※高杉晉作:天保十年(1839)〜慶應三年(1867)。幕末の尊皇攘夷運動の志士。長州藩士。病歿。
※題焦心録後:焦慮する多くの事柄をまとめて書きつづった著作のできた後に作った詩。 ・題:(詩歌を)書き付ける。 ・焦心録:高杉晋作の著書。内憂外患に焦慮する多くの事柄をまとめて書きつづったもの。 ・後:のちに。
※内憂外患迫吾州:内からの心配と外からの災いといえる藩内の政争と対幕府関係の昏迷が、我が藩である長州に迫っている。 ・内憂外患:内からの心配と外からの災い。幕末の時期長州が置かれていた状況をいう。藩内の政争と対幕府関係の昏迷を謂う。『管子』に「妾人聞之,君外舍而不鼎饋,非有内憂,必有外患。今君外舍而不鼎饋,君非有内憂也,妾是以知君之將有行也。」と使われ出している。 ・迫:せまる。 ・吾州:長州をいう。
※正是危急存亡秋:まさしく滅びるか滅びないかが決まる大切な時である。 ・正是:ちょうど。 ・危急存亡:滅びるか滅びないかが決まる大切な時。諸葛亮の『前出師表』のものが有名。『昭明文選』『古文觀止』『文章軌範』に、諸葛武侯として「臣亮言。先帝創業未半而中道崩。今天下三分,益州疲弊,此誠危急存亡之秋也。…」から始まり、「…臣不勝受恩感激,今當遠離,臨表涕泣,不知所云。」で、終わる心のこもった名文である。『文章軌範』の外、『三國志卷三十五・蜀書五・諸葛亮傳第五』等に見える。なお、上掲の原文は『文章軌範』のものであり、僅かに異同がある。 ・秋:とき。
※唯爲邦君爲邦國:ただ君主のために、祖国のために。 ・唯爲:ただ……のため。 ・邦君:君主。藩主。 ・爲:〔ゐ;wei4●〕…のため。●になる。 ・邦國:国。国家。この時代の長州の置かれた位置をもって考えれば「藩」のこととも考えられるが「請君鼓舞我士氣,使我得成報國基。」や「皇國武威猶未盡,幾時壯士發義憤。報國共期學成日,君排夷ヘ我胡塵。」を見れば、やはり日本の国の意になる。
※降彈名姓又何愁:弾丸が雨注するところでおり、命も自分のことも、何も別にとりたてたてて、愁いてはいない。 ・降彈:弾丸が、雨の如く降り注ぐ。「弾丸」(名詞)の意は、●になる。蛇足になるが、「はじく」(動詞)の意は○。 ・名姓:通常、唐詩では、通常「名と姓」の意で使われる。中唐・劉長卿の「明日東歸變名姓,五湖煙水覓何人。」、晩唐・杜牧の『贈終南蘭若僧』「北闕南山是故ク,兩枝仙桂一時芳。休公キ不知名姓,始覺禪門氣味長。」などは、「名と姓」の意で使われる。ここでは、「名誉と生命」、或いは、「命も自分のことも」の意になる。 ・又何:何も別に。とりたてたてて、何も。反語を表す。 ・愁:うれえる。かなしむ。思い悩む。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「州秋愁」で、平水韻下平十一尤(秋州愁)。次の平仄はこの作品のもの。
●○●●●○○,(韻)
●●○●○○○。(韻)
○●○○●○●,
●●○●●○○。(韻)
平成16.3.13 3.14完 3.17補 平成25.1. 7 |
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