秋風曲

秋風起兮百草黄,
秋風之性勁且剛,
能使羣花皆縮首,
助他秋菊傲秋霜。
秋菊枝枝本黄種,
重樓疊瓣風雲湧。
秋月如鏡照江明,
一派淸波敢搖動?
昨夜風風雨雨秋,
秋霜秋露盡含愁。
靑靑有葉畏搖落,
胡鳥悲鳴繞樹頭。
自是秋來最蕭瑟,
漢塞唐關秋思發。
塞外秋高馬正肥,
將軍怒索黄金甲。
金甲披來戰胡狗,
胡奴百萬囘頭走。
將軍大笑呼漢兒,
痛飮黄龍自由酒。

******


秋風の曲

           
秋風 起ちて  百草黄ばみ,
秋風之性  勁 且つ 剛,
能く 羣花をして  皆 首を縮め使むれば,
(そ)の秋菊を 助けて  秋霜に傲る。
秋菊 枝枝  本 黄種,
重樓 疊瓣  風雲 湧く。
秋月 鏡の如く  江を照して 明るく,
一派の 淸波  敢て搖動す?
昨夜 風風 雨雨の秋,
秋霜 秋露  盡く 愁ひを含む。
靑靑 葉の 搖落を 畏るる有りて,
胡鳥 悲く鳴き  樹頭を繞る。
自ら是 秋來  最も 蕭瑟,
漢塞 唐關  秋思 發す。
塞外 秋 高く  馬 正に肥ゆれば,
將軍 怒りて索むる  黄金の甲を。
金甲 披ひ來りて  胡狗と 戰へば,
胡奴 百萬  頭を囘らして走ぐ。
將軍 大笑して  漢兒を呼び,
痛飮す  黄龍 自由の酒を。
                   

           **********
◎ 私感注釈

※秋風:この詩には秋字が題以外に十二回使われており、秋字に対するこだわりが感じられる。「秋雨秋風愁人!」とも微妙に重なり合っている。リズミカルで、朗詠しやすい詩。

※秋風起兮百草黄:漢高祖・武帝・劉徹の樂府『秋風辭』に「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,橫中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」(史記)とある。

※秋風起兮百草黄:秋風が吹き始めて多くの草が枯れてきたが。 ・百草:いろいろの草。後出の「羣花」の項を参照。 ・黄:黄ばむ。この詩には、他にも「黄種」「黄金」「黄龍」と黄が多い。「黄」には、「中心=中華=漢、黄河、黄土」の意味が含まれている。中国のイメージカラーは現在は「紅」だが、伝統的には「黄」ではないか。「黄」は「金」に通じ、また、「皇」と同音で、吉祥字とまでいかなくとも、彼女好みの字だろう。

※秋風之性勁且剛:秋風の性質は強くて丈夫である。 ・性:さが。性質。 ・勁:つよい。後出の「剛」と似た意味。平仄で使い分ける。「勁」は「
」で、「剛」は「」になるところで使う。 ・且:かつ。「…(く)て…」に該当する。 ・剛:つよい。かたい。丈夫な前出「勁」を参照。

※能使羣花皆縮首:多くの花に首を縮めさせ。 ・能使:よく…をして。「…に…をさせることができる」の義。 ・羣花:たくさんの花。前出の「百草」とほぼ同義だが、「羣花」は「
○○」で、「百草」は」●●」になる。その韻式との関係によって、使い分ける。

※助他秋菊傲秋霜:霜に負けない秋の菊を助けている。 *「助他(秋菊 傲秋霜)」。 ・他:それ。あれ。(代詞)秋風を指そう。 ・傲秋霜:霜に負けない。困難に負けないことをいう。

※秋菊枝枝本黄種:秋菊はどの枝も本来は黄種(中華・黄色い色・黄色人種)の物である。 ・枝枝:どの枝も。 ・本:もと。本来は。 ・黄種:中華の物である、黄色い菊である、黄色人種(の物)であるという全てが収まっていよう。

※重樓疊瓣風雲湧:(菊の)花が群がって咲き、花卉が重なっているところには、風雲が湧き起こっており。 ・重樓:花が群がって咲き、花卉が重なっている様の形容。 *許渾の『咸陽城東樓』「一上高城萬里愁,蒹葭楊柳似汀洲。溪雲初起日沈閣,山雨欲來
風滿樓。鳥下綠蕪秦苑夕,蝉鳴黄葉漢宮秋。行人莫問當年事,故國東來渭水流。」を意識していたか。  ・疊瓣:花びらの重なっている様の形容。「重樓」とほぼ同義だが、「重樓」は○○」で、「疊瓣」は「●●」になる。これも前出の「羣花・百草」の場合と同じく、その韻式との関係によって、使い分ける。もしも「○○●●…」のところならば「重樓疊瓣…」とし、「●●○○…」のところならば「疊瓣重樓…」と表現する。 ・風雲:竜が風雲を得て天に昇るように、すぐれた人物が機会を得て世に出る喩え。事の起こりそうな天下の状勢。

※秋月如鏡照江明:秋の月は鏡の如く澄みわたって、川を照らして明るい。 ・秋月:秋の月。「春花」の対義語。 ・如鏡:鏡の如く澄み渡っていることの形容。

※一派淸波敢搖動:一派の清らかな波を敢(あえ)て揺り動かす(のは)。 ・一派:量詞。この意味の場合、現代語では“yi2pai4”とは言わずに“yi2mo4”と言う。 ・清波:きよらかな波。 ・敢:あえて。 ・揺動:ゆらぎうごく。ゆれうごく。

※昨夜風風雨雨秋:昨夜の風や雨だった。 ・風風雨雨秋:畳字で表している。畳字は、なめらかでリズミカルにするため、字数を合わせるため、また感じを和らげるため等の目的で使う。風が屡々吹き、雨が時々降る秋。畳字には要注意。品詞や位置で意味が変わることが普通。畳字の作品例には、李清照の『聲聲慢』(尋尋覓覓) や元の喬吉の散曲『越調 天淨沙』 即時(鶯鶯燕燕春春)などがある。『長恨歌』にも「…朝朝暮暮情」があるが、こちらは「朝な朝な…」と思う。

※秋霜秋露盡含愁:秋の霜や秋の露には、ことごとく愁いが含まれ。

※靑靑有葉畏搖落:青々とした葉も(秋になって)散ることを恐れている。 ・有葉畏揺落:葉が有り、その葉は散るのをおそれている。次のように分けられる。「有(葉・畏揺落)」漢・古樂府『長歌行』「青青園中葵,朝露待日晞。陽春布德澤,萬物生光輝。
常恐秋節至,焜黄華葉衰。百川東到海,何時復西歸。少壯不努力,老大徒傷悲。」がある。 

※胡鳥悲鳴繞樹頭:北の国からの渡り鳥は、樹上を廻って悲しく鳴いており。 ・胡鳥:北のえびすの国からの渡り鳥。 ・悲鳴:悲しく鳴く。 ・繞:めぐる。 ・樹頭:樹上。「頭」は端の義。

※自是秋來最蕭瑟:言うまでもなく、秋の訪れは最ももの寂しい。 ・自是:おのずから これ。杜牧の『歎花』「
自是尋春去校遲,不須惆悵怨芳時。狂風落盡深紅色,綠葉成陰子滿枝。」や、李煜の『相見歡』に「林花謝了春紅,太匆匆。無奈朝來寒雨晩來風。  臙脂涙,留人醉,幾時重。自是人生長恨水長東。」 とある。 ・蕭瑟:秋風が物寂しく吹く様。。

※漢塞唐關秋思發:漢代や唐代のとりでは、秋の物寂しい思いを出しており。 ・漢塞唐關:漢代や唐代の塞關。国境の関所。これは「塞關」(「
●○」)を韻式に合わせて分けている。「漢塞」は「●●」のところに「唐關」は○○」のところにと。もしも「○○●●…」のところならば「唐關漢塞…」とし、「●●○○…」のところならば「漢塞唐關…」と表現する。この「漢…、唐…」の関所は異民族の中原への進出を防ぐものだが、漢代や唐代の具体的な場所の考証は、この詠う内容にとっては、さほど重要ではない。朗唱したときの美しさから来ている。 ・秋思:秋の物寂しい思い

※塞外秋高馬正肥:万里の長城の外側では、秋空は澄み渡り、匈奴の軍馬も肥え太って、中原進出の絶好の機会となった。 ・塞外:国境付近。辺土。万里の長城の外側。 ・秋高馬正肥:秋は、匈奴の軍馬も肥え太り、中原進出の絶好の機会となったこと。杜審言に「雲静妖星落,秋高塞馬肥」があり、前記の意味。「天高く 馬 肥える秋」だが、この語句は、日本での使用法とは全く異なる

※將軍怒索黄金甲:(漢の)将軍は、激しくいそいで黄金の鎧(よろい)をさがして。 ・將軍:胡を征伐する漢族の将軍。 ・索:さがす。もとめる。 ・黄金甲:黄金の鎧(よろい)。

※金甲披來戰胡狗:金の鎧(よろい)を着て異民族めと戦す。 ・披來:よろいを着る。 ・披:身につける。まとう。 ・來戰:戦い出す。 ・胡狗:(西方の)えびすの犬畜生。罵語。異民族を貶めた言い方。

※胡奴百萬囘頭走:異民族の百万は、後ろを向いて逃げていった。 ・胡奴:えびすのやっこ。罵語。異民族を貶めた言い方。 ・百萬:大勢の形容。 ・囘頭:後ろを向く。 ・走:にげる。ここでは、「はしる」の意味はない。逃げるときは走るから、同じとも言えるが…。蛇足だが、「駆」も「はしる」の意味があるが、こちらは、「おいかける」の意味を含む。

※將軍大笑呼漢兒:将軍は豪快に笑って漢の戦士を呼んで。 ・漢兒:古くは漢民族の男子。好漢。強い男子。後、男。漢武帝が匈奴を征伐すること二十余年となり、漢兵と聞けば畏れない者はなく、漢児と称した(詢芻録)。ここでは一番原形の漢兵の意。

※痛飮黄龍自由酒:(ともに、敵の本拠地の)黄龍府を陥落させて自由にした(祝いの)酒を酌み交わそう。 ・痛飲:痛飲する。大いに飲む。 ・黄龍:地名。黄龍府のこと。滿洲民族の首都で、現・長春の北50キロメートル程のところにあった。渤海国の都。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)8-9ページ「遼 東京道」にある。また、これに倣った金の都の名。転じて、敵の都市。ここは岳飛の「直搗黄龍,與諸君痛飮耳。」に基づくもので、敵の本拠地に衝いて出ること。 ・痛飲黄龍自由酒:敵の本拠地である黄龍府を直接に衝いて、中華漢民族自由の酒を大いに飲む。





◎ 構成について
 近体詩・排律ではない。この作品の平仄は次の通り。

○○●○●●○,(平声韻)
○○○●●●○,(平声韻)
○●○○○●●,
●○○●●○○。(平声韻)
○●○○●○●,(上声韻)
○○●●○○●。(上声韻)
○●○●●○○,
●●○○●○●?(上声韻)
●●○○●●○,(平声韻)
○○○●●○○。(平声韻)
○○●●●○●,
○●○○●●○。(平声韻)
●●○○●○●,(入声韻)
●●○○○○●。(入声韻)
●●○○●●○,
○●●○○●。(入声韻)
○●○○●○●,(上声韻)
○○●●○○●。(上声韻)
○●●○●○,
●●○○●○●。(上声韻)


両韻:上記の部分は「將」。名詞句の前に付き「…を もって…」の意味の場合や、動詞句の前に付き「まさに…んとす」と読む使用法の場合は、平声。軍人の「大將」等の「將」は去声。
  但し、現代語では、軍人関係はやはり去声でも、「將軍」という単語の「將」のみ、例外として平声。他は古語と同じ。


韻脚:「黄剛霜」(平声)、「種湧動」(上声)、「秋愁頭」(平声)、「瑟發甲」(入声)、「狗走酒」(上声)と換韻をしている。上記「動」は、集韻(また詩韻)では、上声。但し、明代の正韻や現代語では去声。
  
                    
2000.4.13
     4.14
     4.15
     4.16
     4.18
2001.5.30
2003.3.8BM

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