漢詩  感事
   
竟有危巣燕,
應憐故國駝

東侵憂未已,
西望計如何

儒士思投筆,
閨人欲負戈。
誰爲濟時彦,
相與挽頽波。

******


事感


(つひ)に 危巣の燕になれるに 有りて,
(まさ)に 憐むべし  故國の駝!
東侵の  憂ひ 未だ已まず,
西望の 計  如何?
儒士は  筆を投
(お)くを 思ひ,
閨人は  戈を負はんと欲
(す)
誰か 時を濟ふの彦
(ひと)と  爲らん,
相ひ與
(とも)に  頽波を 挽(もど)さん。


           **********
◎私感注釈

※感事:出来事に対して、心が動かされて。
※竟有:ついに…となった。
※危巣燕:非常に危険なことの比喩。「燕處焚巣」「燕巣幕上」「左伝」の「猶之燕巣於幕上」。
※竟有危巣燕:ついに危急存亡のときとなった。
※應憐:まさにあわれむべし。
※故國駝:祖国の朝廷。また、その荒廃ぶりをいう。「駝」は銅駝の意で、「晋書」「嘆銅駝在荊棘」からきている。秋瑾はこの語を「寶刀歌」の「帝城荊棘埋銅駝」や「日人石井君索和即用原韻」の「銅駝已陷悲囘首」等とよく使う。
※應憐故國駝:祖国の(朝廷の衰亡ぶりは)まさにあわれむべきである。
※東侵:ロシアの東方侵掠。当時、満州民族の故地滿洲は、ロシアの勢力下にあった。勿論秋瑾はその「警告我同胞」に「同俄國爭我們的東三省地方」といっている。
※憂未已:心配がまだおさまらない。
※東侵憂未已:ロシアの東方侵攻の心配がまだおさまらない。
※西望計:西洋化の計画。欧化策。中国の近代化。あるいは「西望長安」で、「不見家」で「不見佳」という次第で、「八方塞がり」か。
※如何:どのようであるか。どのようにするか。いかん。
※西望計如何:(祖国の)欧化策(の現状は)は、いかがなものであるか。
※儒士:学者。読書人。文人。
※投筆:筆を置く。筆を投ず。
※儒士思投筆:文人は筆を置き。文人も著作活動など、文雅なことは止めて(たたかいに参加)しようと。
※閨人:婦人。
※負戈:武器を執る。ほこを背負う。
※閨人欲負戈:婦人も武器を執る。婦人部屋の奥にいる婦人も武器を執って、戦いにに参加しようとする。
※誰爲:誰が…となるのか。
※濟時:時勢をすくう。世を救う。
※彦:優れた人物。
※誰爲濟時彦:誰が一体救世主となってくれるのか。
※相與:あいともに。一緒に。
※挽:挽回する。取り戻す。
※頽波:衰えた勢い。頽勢。
※相與挽頽波:誰と相共にこの頽勢を挽回するのか。



◎ 構成について

  
平声一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「駝何戈波」で、上平四支。この作品の平仄は次の通り。

   ●●○○●
   ○○●●○。
   ○○○●●,
   ○●●○○。

   ●●○○●
   ○○●●○。
   ○○○○●,
   ○●●○○。


2002.1.15
     1.16

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