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行行重行行,
與君生別離。
相去萬餘里,
各在天一涯。
道路阻且長,
會面安可知。
胡馬依北風,
越鳥巣南枝。
相去日已遠,
衣帶日已緩。
浮雲蔽白日,
遊子不顧返。
思君令人老,
歳月忽已晩。
棄捐勿復道,
努力加餐飯。
古詩十九首之一
行き行きて 重ねて 行き行き,
君と 生きながら 別離す。
相ひ去ること 萬餘里,
各ゝ(おのおの)天の 一涯に 在り。
道路 阻(けは)しく 且つ 長く,
會面 安(いづく)んぞ知る可(べ)けん。
胡馬は 北風に 依り,
越鳥は 南枝に 巣くふ。
相ひ去ること 日に 已(すで)に 遠く,
衣帶 日に 已に 緩(ゆる)し。
浮雲 白日を 蔽(おほ)ひ,
遊子 顧返せず。
君を 思へば 人をして 老いしめ,
歳月 忽(たちま)ち 已に晩(く)る。
棄捐せらるるも 復(ま)た 道(い)ふこと 勿(な)からん,
努力して 餐飯を 加へん。
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◎ 私感註釈
※行行重行行:(別れて)行って更にまた行って。 ・行行:行って更にまた行って。動作、行為が深まるようすを表現する。言葉のリズムからもこう表現している。現代語の用法とは異なる。陶淵明の『雜詩十二首』其七の「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」を基にしているだろう。また、漢魏の蔡文姫『胡笳十八拍』「我生之初尚無爲,我生之後漢祚衰。天不仁兮降亂離,地不仁兮使我逢此時。干戈日尋兮道路危,民卒流亡兮共哀悲。煙塵蔽野兮胡虜盛,志意乖兮節義虧。對殊俗兮非我宜,遭忍辱兮當告誰。笳一會兮琴一拍,心憤怨兮無人知。」 や、『悲憤詩』「漢季失權柄,董卓亂天常。志欲圖簒弑,先害ゥ賢良。逼迫遷舊邦,擁主以自彊。海内興義師,欲共討不。卓衆來東下,金甲耀日光。平土人脆弱,來兵皆胡羌。」にも似ている。 ・重:かさねて。
※與君生別離:あなたと生きながら別れた。 ・與:…と。 ・君:あなた。夫婦の者がつれあいを言うときの「あなた」。 ・生別離:生きながら別れること。生別。
※相去萬餘里:お互い離れ去ること、万里以上である。 ・相去:去っていく。後出。 ・萬餘里:極めて遥かな距離。
※各在天一涯:夫婦のおのおのが、天の一方のはてに居る。 ・各在:夫婦のおのおのが…に居る。 ・天一涯:天の一方のはて。烏孫公主 劉細君の『悲愁歌』に「吾家嫁我兮天一方,遠託異國兮烏孫王。穹盧爲室兮氈爲牆,以肉爲食兮酪爲漿。居常土思兮心内傷,願爲黄鵠兮歸故ク。」とある。・涯:〔yi2〕はし。普通、この字は〔ya2〕と読む。韻脚が「離涯知枝」で、それと揃えるための読みでもある…。
※道路阻且長:(二人の間の)道筋は、(山道が)けわしくて、長い。 ・道路:みち ・阻:けわしい。はばむ。へだつ。 ・且:〔A形容詞+且+B形容詞〕と形容詞二語の間に入り、「……であり……である」。かつ。 ・長:ながい。
※會面安可知:出会いは、どうして分かろうか。再会は、予期できようか。 ・會面:出会う。対面する。面会する。 ・安:どうして……することができようか。いづくんぞ……や。 ・可知:分かる。知ることができる。
※胡馬依北風:北方産の馬は、(故郷から吹いてくる)北風によりそい。この聯に基づいて、陶潜は、『歸園田居五首』其一「少無適俗韻,性本愛邱山。誤落塵網中,一去三十年。羈鳥戀舊林,池魚思故淵。」という句を作った。 ・胡馬:北方の夷狄の地産の馬。 ・依:よる。
※越鳥巣南枝:南から来る渡り鳥は、(故郷に近い)南よりの枝にすくい。 ・越鳥:南から来る渡り鳥。渡り鳥の中の夏鳥。 ・越=粤:現・広東。 ・巣:すくう。動詞としての働き。 ・南枝:南側の枝。
※相去日已遠:(男女双方が)別れて去っていった時から、時日は遥かに過ぎ去ってしまい。 ・相去:去っていく。遠ざかっていく。・相:お互いに。動作が相手に向かっている。 ・日:日々に。詩詞では、しばしば、「日」「年」「人」などで複数も表している。 ・已:すでに。とっくに。 ・遠:遠くなる。動詞の用法。
※衣帶日已緩:(旅だった人を思いやるあまりに)衣服のオビは、日ごとに弛んできて。(心痛のため)日増しに痩せてきて。この句は、漢代の『古歌』「秋風蕭蕭愁殺人,出亦愁,入亦愁。座中何人,誰不懷憂。令我白頭。胡地多飆風,樹木何修修。離家日趨遠,衣帶日趨緩。」に基づく。後世、柳永は『蝶戀花』で「佇倚危樓風細細,望極春愁,黯黯生天際。草色煙光殘照裏,無言誰會憑欄意。擬把疏狂圖一醉,對酒當歌,強樂還無味。衣帶漸ェ終不悔,爲伊消得人憔悴。」と使う。 ・衣帶:衣服のオビ。 ・緩:緩やか(に なっていく)。
※浮雲蔽白日:空に浮いて漂っている雲は、白日を覆って、遠く離れて。 ・浮雲:空に浮いて漂っている雲。空に浮く雲のように、遠く離れていて、何の関係もないこと。あてにならないこと。小人の譬喩。この「浮雲」は、後出の「遊人」とともに、別離を表す情景で、しばしば使われる。後漢末〜三国・魏・徐幹の『室思』に「浮雲何洋洋,願因通我詞。飄飄不可寄,徙倚徒相思。人離皆復會,君獨無返期。自君之出矣,明鏡暗不治。思君如流水,有何窮已時。」とあり、顧況の「故櫪思疲馬,故巣思迷禽。浮雲蔽我ク,躑躅遊子吟。遊子悲久滯,浮雲鬱東岑。客堂無絲桐,落葉如秋霖。艱哉遠遊子,所以悲滯淫。一爲浮雲詞,憤塞誰能禁。」や盛唐・李白の『送友人』「青山北郭,白水遶東城。此地一爲別,孤蓬萬里征。浮雲遊子意,落日故人情。揮手自茲去,蕭蕭班馬鳴。」また、「浮雲終日行,遊子久不至。」「遊子欲言去,浮雲那得知。」と対にしても使われる。 ・蔽:さえぎる。覆う。 ・白日:昼間の太陽。
※遊子不顧返:旅立ったあの人は、振り返ることをしない。 ・遊子:旅人。ここでは、離れていった男性を指す。 ・顧返:振り返ってみる。ふり返る。
※思君令人老:あなたを思い続けていたら、(すっかり)わたしを老けさせてしまった。 ・思君:あなたを思い続ける。 ・令人老:人を老けさせる。人(=わたし)を老けさせる。前出『古歌』の「令我白頭。」(青字)に同じ。
※歳月忽已晩:年月は、たちまち経ってしまった。 ・歳月:年月の経過。 ・忽:たちまち。 ・已晩:とっくにくれてしまった。(時間が)経ってしまった。
※棄捐勿復道:(女性のつぶやきとして)、(嘆きはさらりと)打ち捨てて、もう(愚痴を)言うのはよそう。或いは、(女性のつぶやきとして)棄てられたしまったならば、特にもう言うことはない。魏・曹丕の『雜詩』「西北遊浮雲,亭亭如車蓋。惜哉時不遇,適與飄風會。吹我東南行,行行至呉會。呉會非我ク,安得久留滞。棄置勿復陳,客子常畏人。」とある。同義。遙か後世、晩唐の韋荘は、『思帝ク』で、「春日遊,杏花吹滿頭。陌上誰家年少、足風流。妾擬將身嫁與、一生休。 縱被無情棄,不能羞。」 と、後者の意で歌い上げている。この聯は女性のつぶやきになる。 ・棄捐:〔きえん;qi4juan1〕棄てる。すてられる。 ・勿:…なかれ。禁止を表す。この字を「な・け+ん」「な・から+ん」と、どちらに読んでも可。形容詞く活用。前者の方が古い形。 ・復:また。再び。 ・道:言う。
※努力加餐飯:しっかりと食事をとる。(今後は、自分一人でも)元気に生き抜こう。 ・努力:つとめて。しっかりと。がんばって。 ・加:ます。ふやす。 ・餐飯:食事。
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◎ 構成について
換韻。韻式は、「AAAABBBBB」。韻脚は「離涯知枝」(平水韻上平四支(枝離知)、「里」は、位置や声調が異なる。「遠緩返晩飯」(上声十三阮遠返晩飯 )。なお、「飯」は上声、去声の両韻。現代語では、去声。この作品の平仄は次の通り。
○○○○○,
○○○●○。(韻)
○●●○●,
●●○●○。(韻)
●●●●○,
●●○●○。(韻)
○●○●○,
●●●○○。(韻)
○●●●●,
○●●●○。(韻)
○○●●●,
○●●●●。(韻)
○○●○●,
●●●●●。(韻)
●○●●●,
●●○○●。(韻)
2003.10. 8 10. 9 10.10 10.12完 2004. 3. 1補 2015. 5.26 2019.11. 7 2020.11. 7 2021.10.25 |
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