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       夏夜

                       江馬細香

雨晴庭上竹風多,
新月如眉繊影斜。
深夜貪涼窓不掩,
暗香和枕合歡花。





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夏の夜 
雨 晴るる 庭上に  竹風 多く,
新月 眉
(まゆ)の如く  繊影 斜めなり。
深夜 涼を 貪
(むさぼ)りて  窓 掩(おほ)はざれば,
暗香 枕に 和す  合歡
(ねむ)の花。

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◎ 私感註釈 =jpn124

※江馬細香:江戸末期の女流詩人。文人画家。天明七年(1787年)〜文久元年(1863年)。名は大保。号は湘夢。美濃大垣の人。蘭医江馬蘭齋の二女。美濃に来遊した頼山陽に漢詩文を学び、浦上春琴に画法を学ぶ。頼山陽は彼女に求婚するが、父、江馬蘭斎が許さなかったため、一生独身で過ごした。
江馬細香(右)と父の墓。伊勢丘人先生より平成23.3.27

※夏夜:夏の夜。この作品の雰囲気は南唐後主・李Uの『虞美人』「風回
小院庭蕪香C柳眼春相續。憑闌半日獨無言,依舊竹聲新月 似當年。   笙歌未散尊罍在,池面冰初解。燭明香暗畫樓深,滿鬢C霜殘雪 思難任。」 を漂わせている。

※雨晴庭上竹風多::雨上がりの庭先は、竹の間を吹き抜ける風が多く(、葉擦れの音をたてている)。 ・雨晴:雨が上がって晴れる。 ・庭上:庭先。 ・竹風:竹の間を吹き抜ける風。竹は揺らいで葉擦れの音をたてる。竹声の意でもある。

※新月如眉繊影斜:三日月はマユのような細い形をして、西空に沈もうとしている。(夕刻の情景)。 ・新月:ここでは、三日月のことになる。絶海中津の『赤間關』「風物眼前朝暮愁,寒潮頻拍赤城頭。怪巖奇石雲中寺,
新月斜陽海上舟。」 馮延巳の『鵲踏枝』「誰道閑情抛擲久,毎到春來,愁悵還依舊。日日花前常病酒,不辭鏡裡朱顏痩。   河畔青蕪堤上柳,爲問新愁,何事年年有?獨立小樓風滿袖,平林新月人歸後。」  ・如眉:マユのような。 ・繊影:細い月影。 ・斜:斜めになっている。西空に沈もうとしている。三日月の月齢では、宵の口の情景になる。

※深夜貪涼窓不掩:夜が更けても、涼を採るために窓を閉める気がない(ので)。 ・深夜:夜更け。真夜中。ここでは「深夜」となっており、承句の「新月…斜」は宵の口の情景になるから、時間が随分と流れたことになる。 ・貪涼:涼を採る。 ・不掩:窓を閉めようとない。窓を閉める気がない。意志の否定。

※暗香和枕合歡花:(窓を開けているので)秘やかに漂ってくる(ネムノキの花の)香りが、マクラ(の匂い)に和して、ネムノキの花(の匂いがする)。裏の意は、マクラに合歓(男女の歓び)の匂いが残っており、幽かに漂ってくる、になる。頼山陽を偲んでいるのを暗に出しているのだろう。 *「暗香」「枕」「合歡花」と、異性を感じさせることばである。 ・暗香:秘やかに漂ってくる香り。 ・和枕:マクラに和す。鬢付け油の香りが染み込んだマクラとネムノキの花の匂いが一緒になってくる。 ・合歓花:ネムノキの花。花は夕方に開く。マメ科の落葉高木。六〜七月、淡紅色の小さな花を著ける。




◎ 構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「多斜花」で、平水韻下平五歌(多)、六麻(花斜)。次の平仄はこの作品のもの。

●○○●●○○,(韻)
○●○○○●○。(韻)
○●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)

平成17.10.17
      10.18



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