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登岳陽樓
南宋 陳與義
| 洞庭之東江水西， 簾旌不動夕陽遲。 登臨呉蜀橫分地， 徙倚湖山欲暮時。 萬里來遊還望遠， 三年多難更憑危。 白頭弔古風霜裏， 老木蒼波無限悲。 |
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| 洞庭之東江水西， 簾旌不動夕陽遲。 登臨呉蜀橫分地， 徙倚湖山欲暮時。 萬里來遊還望遠， 三年多難更憑危。 白頭弔古風霜裏， 老木蒼波無限悲。 |
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岳陽樓に登る
洞庭の東 江水の西，
簾旌 動かず 夕陽 遲し。
登臨す 呉蜀 橫分の地，
徙倚す 湖山 暮れんと欲する時。
萬里 來遊して 還って遠くを望み，
三年 難 多く 更に危きに 憑る。
白頭 古を弔ふ 風霜の裏，
老木 蒼波 無限の悲しみ。
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◎ 私感訳註：
※陳與義：南宋の詩詞人。字は去非。号して簡斎、無住。洛陽の人。また、汝州葉県の人。ともに現・河南省。１０９０（元祐五年）～１１３８年？（紹興八年？）。政和三年に進士に及第するが、靖康の変に遭って南遷する。襄漢、湖湘へと移るが、召されて兵部侍郎となり、臨安に到着し、中書舎人に掌内制を兼ねた。
※登岳陽樓：岳陽楼に登る。岳陽楼に登って、（思いに耽る）。二首のうちの其の一。 ・岳陽樓・岳州（現・湖南省）の北部の洞庭湖畔の岳陽の街を囲む城壁の西門の楼。洞庭湖東北端に臨み、長江へ連なる水路の口にあたるところにある。岳陽城。杜甫の『登岳陽樓』「昔聞洞庭水，今上岳陽樓。呉楚東南拆，乾坤日夜浮。親朋無一字，老病有孤舟。戎馬關山北，憑軒涕泗流。」や、賈至の『岳陽樓重宴別王八員外貶長沙』「江路東連千里潮，青雲北望紫微遙。莫道巴陵湖水闊，長沙南畔更蕭條。」
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※洞庭之東江水西：洞庭湖の東の方で、長江の流れの西の方に（岳陽楼はあり）。 ・洞庭：洞庭湖。岳州（現・湖南省北東部）にある湖。北東部で長江と通じている。湖の東北岸に岳陽楼がある。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期（中国地図出版社）６３－６４ページ「南宋 荊湖南路 荊湖北路 京西南路」にある。 ・之：…の。「洞庭之東江水西」の句で、「洞庭」には「之」が附いて「洞庭之東」と表現されるのに対し、「江水」には「之」が附くことなく「江水西」と表現されるのは、「□□・□□＋□□□」という節奏に合わせるため。もしも「洞庭」と「江水」を入れ替えた表現にする場合は、「江水之西洞庭東」となる。このような意味からは、語調を整える働きをもしているとも謂える。 ・江水：長江の流れ。
※簾旌不動夕陽遲：（岳陽楼ののれん状の縦向けの旗のような）布は、（風がないために）動くことなく、夕陽はなかなか沈もうとしない。 ・簾旌：〔れんせい；lian2jing1○○〕カーテンの布。のれん。 ・遲：ぐずぐずとしている。動作がゆっくりとしているさまをいい、ここでは夕陽がなかなか沈まないさまをいう。暮れなずむ。
※登臨呉蜀橫分地：（岳陽楼に）に登って、東の呉地方と西の蜀の地方とを横に区切っているここ（洞庭湖）に臨んでながめわたして。 ・登臨：高い所に登って、下をながめわたす。 ・呉蜀：東の国と西の国の意として使う。呉と蜀は少し離れすぎている。その間に楚がある。 ・呉：（春秋時代では）南部の長江下流にあった国名で、後にも江南に興った国名に呉が使われた。地域としては、現・江蘇省と浙江省の北半分。 ・蜀：現・四川省。 ・橫分地：横に区切っているところ。
※徙倚湖山欲暮時：各地の山河を（人生の）夕暮れ時になってさまよっている。または、祖国・南宋の没落の時になってさまよっている。または、湖や山が暮れようとする時に、（楼上で）立（た）ち徘徊（もとお）っている。前出・杜甫の『登岳陽樓』「親朋無一字，老病有孤舟。戎馬關山北，憑軒涕泗流。」のような雰囲気では、前者の意。作者はどの意味にもとれるようにかけている。 ・徙倚：〔しい；xi3yi3●●〕さまよう。たちもとおる。行ったり来たりする。隋～唐・王績の『野望』に「東皋薄暮望，徙倚欲何依。樹樹皆秋色，山山唯落暉。牧人驅犢返，獵馬帶禽歸。相顧無相識，長歌懷采薇。」
※萬里來遊還望遠：遙々（はるばる）と（遠くから）やって来て、（ここに）遊んでいるが、反対にまた、かえって遠くの（故郷の）方を眺めている。 *作者は靖康の変に遭って故郷から離れて南遷し、江南で過ごしたことを謂う。 ・萬里：長大な道程を謂う。遙々と。 ・來遊：来て遊ぶこと。遊びに来ること。 ・還：また。かえって。 ・望遠：遠くの方を眺める。
※三年多難更憑危：（金国が南侵して以降の）三年間は災難が多く、一層の命がけであった。また、三年間は災難が多く、一層高い所の窓辺に寄りかかって、思いに耽った。 ・三年：金国が南侵して、淮河以北が失われてより三年が経つ。（金・南宋の地図）。 ・多難：〔たなん；duo1nan4○●〕金国が南侵して、汴京（開封）を失い、宋の朝廷が南遷するという事態を指す。『宋史・本紀・第二十九』の最後の部分「（紹興十一年十一月己亥）與金國和議成，立盟書，約以淮水中流畫疆，割唐、鄧二州畀之，歳奉銀二十五萬兩、絹二十五萬匹，休兵息民，各守境土。詔川、陝宣撫司毋出兵生事，招納叛亡。」とある。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期（中国地図出版社）５２－５３ページ「金 南京路」、５４－５５ページ「金 山東東路 山東西路」、６２ページ「南宋 淮南東路 淮南西路」に明瞭に画かれている。 ・更：更にもう一階上に。王之渙の『登鸛鵲樓』「白日依山盡，黄河入海流。欲窮千里目，更上一層樓。」
※白頭弔古風霜裏：白髪頭の老人（＝作者）が風や霜のあるきびしく激しい環境の中にあって、昔に想いを馳せれば。 ・白頭：白髪頭。転じて、老人。ここでは作者自身のことをいう。 ・弔古：遺跡等で往事の人を祀つたり、昔に想いを馳せること。いにしえをしのぶ。必ずしも香を焚いたり、拝礼するとは限らず、懐古、覧古の意でもある。弔＝吊。南宋・陸游の『謝池春』に「壯歳從戎，曾是氣呑殘虜。陣雲高、狼烽夜舉。朱顏靑鬢，擁雕戈西戍。笑儒冠、自來多誤。 功名夢斷，卻泛扁舟呉楚。漫悲歌、傷懷弔古。煙波無際，望秦關何處。歎流年、又成虚度。」
※老木蒼波無限悲：老木の重なって生えているさまが（年経ったような）青黒い波となって、限りなく悲しい。 ・老木：年数のたった木。古木。老樹。 ・蒼波：（年老いたような）青黒い波。あおい波。蒼浪。碧浪。≒「滄波」「滄浪」。 ・無限：限りない。
◎ 構成について
| ２００８． １．１６ ２． ９完 ８．２１補 ２０１４．１１．４ |
