秋荒 | ||
一休 |
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秋荒長信美人吟, 徑路無媒上苑陰。 榮辱悲歡目前事, 君恩淺處草方深。 |
秋荒 長信 美人 吟ず,
徑路媒 無く上苑 陰す。
榮辱 悲歡 目前 の事,
君恩 淺き處 草方 に深し。
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◎ 私感註釈
※一休:室町中期の臨済宗の僧。一休宗純。應永元年(1394年)〜文明十三年(1481年)。諱は宗純。号して狂雲子。後小松天皇の落胤という。五山の禅林が頽廃していくのに対して、諸国を遍歴する。後に、勅をうけて大徳寺の住持となる。詩歌、書画に秀でるとともに、禅僧でありながら酒や女性を愛して、形式や規律を否定した反骨的で奔放な叛逆の人生を送った。無念の思いがあったのだろう、そのための奇行は、やがて伝説化されて、「一休咄(いつきうばなし)」が作りだされ、現在に至るも「一休さん」として、広く親しまれている。
※秋荒:秋の雑草が地を覆う。秋になって、後宮に繁った雑草(雑草=帝が来なくなった意)に感じることがあっての怨みの詩。 *作者が十三歳の時の作で、帝の寵愛を失った作者・一休の母親に代わって、寵愛を失った女の哀しさ(=春宮怨)を詠ったもの。
※秋荒長信美人吟:秋の雑草が生える(頃)、長信宮(=後宮)の宮女がうたっている(その内容とは……(=第二、三、四句))。 ・長信:「長信宮」のことで、漢代に、きさきが住んだところ。ここでは、後宮の意で使われている。 ・美人:「虞美人」の「-美人」のように、女官の名称。後宮の女性を謂う。ここでは、失寵の後宮の女性(=一休の母)を指す。 ・吟:(詩を)歌う。吟じる。吟詠する。
※径路無媒上苑陰:(帝が通っておいでになる)道筋には、(帝と宮女との)仲立ちをする案内人の姿が見えなくて(=帝がやって来なくて)、禁苑の緑は深まるばかりである。 ・径路:こみち。近道(ちかみち)。間道(かんどう)。晩唐・杜牧の『送隱者』に「無媒徑路草蕭蕭,自古雲林遠市朝。公道世間唯白髮,貴人頭上不曾饒。」とある。 ・媒:〔ばい;mei2○〕なこうど。(男女の)仲介。君主の側で、自分を仲介してくれる人。中に立って媒介する人。仲人。媒酌人。(屈原の)『楚辭・抽思』に「倡曰:有鳥自南兮,來集漢北。好姱佳麗兮,牉獨處此異域。既惸獨而不羣兮,又無良媒在其側。道卓遠而日忘兮,願自申而不得。」とある。 ・上苑:〔じゃうゑん;shang4yuan4●●〕天子の庭園。宮中の庭園。 ・陰:おおう。おおわれる。=蔭。(「陰」:〔いん;yin1○〕陽(日)のかげ。おおう。〔いん;yin4●〕おおう。 「蔭」〔いん;yin4●〕木かげ。おおう) 端的に謂えば、「蔭」は仄なので、ここでの韻脚には、なれない。
※栄辱悲歓目前事:名誉や恥辱、悲しさや嬉しさというものは(目に見えない物ではなくて、)実際に目の前に見て取れるものごとなのだ。(それは)。 ・栄辱:誉れと辱め。栄誉と恥辱。 ・悲歓:悲しみと喜び。 ・目前:目下。現在。また、当今。いまのところ。 ・事:できごと。ものごと。
※君恩浅処草方深:帝の恩寵が浅い(宮女の住む)所は、(帝のお成りが無いために、手入れがされずに)草が深く繁ったままになっているのだ。(このように実際に見て取れるのだ、と)。 *「君恩淺處草方深」は「君恩・淺處+草・方深」と、「句中の対」をなしている。 ・君恩:君主から受けた恩。君主のめぐみ。 ・方:ちょうど。まさに。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「吟陰深」で、平水韻下平十二侵。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
○●○○●○●,
○○●●●○○。(韻)
平成30.10.10 10.11 10.12 11. 2 |
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