・天縦俊彦: 生まれつき才能の優れている人。
・松籟: 松に吹く風の音。茶道の湯が沸く音にたとえる(和語的用法)。
・升堂: 学徳が高明正大の域に到ること。ここでは翁がすでに入室の域に達していたことを指す。
・名器: 捜集した茶道具を指す。
・雅俗: 逸翁の住居を旧美術館にしていた雅俗山荘を指す。
・珍陶異鋳: 陶鋳・珍異の互文。
・秀画優書: 書画・優秀の互文。
・窮真贋: 翁の卓越せる審美眼を指す。
2009,10,22日作。
参照:
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<餘澤>旧逸翁美術館へは数回訪れました。わたくしの思い違いでなければ、館の玄関の壁に「小磯良平画伯」の揮筆による、逸翁の大きなお姿の額がかかっていたことを覚えています。
今でも眼を閉じれば翁のお姿が髣髴として浮かんで参ります。
と同時に翁の雅号である逸翁と、邸宅の雅俗山荘と、ご自身の幽雅なお姿が渾然一体となって違和感がなく、翁の奥ゆかしい人柄が偲ばれます。
勿論、生前の逸翁を存じ上げませんが、次のようなことを仄聞したことがあります。
戦後間もない頃一人の娘さんが、雅俗山荘の前身である逸翁の邸宅に、女中として上がりました。
ほかにも女中さんがいるにも関わらず特にお気に召されて、逸翁が特別に外出される際には、鞄持ちとして方々にお供をしていたそうです。
結婚のお世話をしてくださる話もありましたが、純朴な田舎娘でしたので、両親が帰郷を勧めて同郷の人に嫁ぎました。
長男が生まれ、命名に翁のお名前を頂戴したいとお願いいたしました処、快諾してくださったことを誇らしく話していましたのは、今から50年も前の話です。
その娘さんと言うのは作者の荊妻の妹にあたります。