陳与義春寒　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Chen Yuyi

春寒
	南宋・陳與義

二月巴陵日日風，
春寒未了怯園公。
海棠不惜臙脂色，
獨立濛濛細雨中。

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春寒(しゅんかん)

二月(じげつ)の巴陵(はりょう)　　日日風(かぜふ)き，
春寒(しゅんかん)　未(いま)だ了(をは)らざるに　　園公(ゑんこう) 怯(お)づ。
海棠(かいだう)　惜(を)しまず　　臙脂(えんじ )色を，
獨(ひと)り立つ　　濛濛(もうもう)たる　細雨(さいう )の中に。

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◎　私感註釈

※陳与義：南宋の詩詞人。字は去非。号して簡斎、無住、園公。洛陽の人。また、汝州葉県の人。ともに現・河南省。１０９０（元祐五年）～１１３８年？（紹興八年？）。政和三年に進士に及第するが、靖康の変に遭って南遷する。襄漢、湖湘へと移るが、召されて兵部侍郎となり、臨安に到着し、中書舎人に掌内制を兼ねた。

※春寒：早春の寒さ。北宋・秦觀の『踏莎行』に「霧失樓臺，月迷津渡，桃源望斷無尋處。可堪孤館閉春寒，杜鵑聲裏斜陽暮。　　　驛寄梅花，魚傳尺素，砌成此恨無重數。郴江幸自繞郴山，爲誰流下瀟湘去。」とある。

※二月巴陵日日風：仲春・二月（＝陽暦三月）の巴陵（はりょう＝岳陽）では、毎日風が吹いており。　・二月：〔じげつ・にぐゎつ；er4yu4●●〕陰暦の二月。仲春。現在の（二月下旬～）三月（～四月上旬）頃に該る。　・巴陵：〔はりょう；Ba1ling2○○〕現・湖南省岳陽市。また、山の名。ここは、前者の意。漢昌郡、巴陵県、巴州、岳州。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５７－５８ページ「唐江南西道」、『中国歴史地図集』第六冊　宋・遼・金時期６３－６４ページ「南宋　荊湖南路荊湖北路京西南路」の洞庭湖東畔に、岳州、巴陵とある。盛唐・張説の『送梁六自洞庭山作』に「巴陵一望洞庭秋，日見孤峰水上浮。聞道神仙不可接，心隨湖水共悠悠。」とある。なお、そこには岳陽樓がある。唐・賈至の『岳陽樓重宴別王八員外貶長沙』「江路東連千里潮，青雲北望紫微遙。莫道巴陵湖水闊，長沙南畔更蕭條。」や、盛唐・杜甫の『登岳陽樓』の「昔聞洞庭水，今上岳陽樓。呉楚東南，乾坤日夜浮。親朋無一字，老病有孤舟。戎馬關山北，憑軒涕泗流。」や、南宋・陳與義の『登岳陽樓』「洞庭之東江水西，簾旌不動夕陽遲。登臨呉蜀橫分地，徙倚湖山欲暮時。萬里來遊還望遠，三年多難更憑危。白頭吊古風霜裏，老木蒼波無限悲。」があり、また、北宋の范仲淹（范希文）の『岳陽樓記』がある。　・日日：毎日。　・風：かぜふく。かぜがふく。動詞。北宋・道潛の『臨平道中』に「風蒲獵獵弄輕柔，欲立蜻蜓不自由。五月臨平山下路，藕花無數滿汀洲。」とある。

※春寒未了怯園公：早春の寒さがまだ終わっていないので、園公（＝わたし）は、おびえている。　・未了：まだ終わっていない。未解決である。　・怯：〔けふ；qie4●〕おびえる。気の弱い。胆の小さい。おどおどしている。おびゆ。おず。　・園公：作者自身のこと。作者・陳与義の号。「借居小園，遂自號園公。」との自注ありと。

※海棠不惜臙脂色：カイドウは濃い紅色を惜しむことなく。　・海棠：カイドウ。薔薇科の落葉灌木。桜に似た淡紅色の花を春先につける。また、美人の比喩。北宋・秦觀の『春日四首』其一に「幅巾投曉入西園，春動林塘物物鮮。却憩小亭纔日出，海棠花發麝香眠。」とある。　・不惜：惜しまない。また、いとわない。ここは、前者の意。　・臙脂（色）：〔えんじ；yan1zhi0○○〕濃い紅色。えんじ色。べに。燕支山（現・甘肅省中北部）が紅花の産地であったことに因む。

※独立濛濛細雨中：煙るようにしとしとと降る雨の中を、（カイドウが）ひとりで立っている。　・濛濛：雨がけむってふり、薄暗いさま。白居易の『寒食臥病』に「病逢佳節長歎息，春雨濛濛楡柳色。羸坐全非舊日容，扶行半是他人力。」や唐末・韋荘の『定西番』「芳草叢生縷結，花。雨濛濛，曉庭中。」や、北宋・蘇軾の七絶『飮湖上初晴後雨』に「水光瀲晴方好，山色空濛雨亦奇。欲把西湖比西子，淡粧濃抹總相宜。」とある。　・細雨：しとしとと降る雨。中唐・張志和の『漁歌子』に「西塞山前白鷺飛，桃花流水魚肥。靑笠，綠蓑衣，斜風細雨不須歸。」とある。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「風公中」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
○○●●●○○。（韻）
●○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）