Xin Qiji ci


  
辛棄疾詞

水龍吟
           登建康賞心亭

楚天千里淸秋,
水隨天去秋無際。
遙岑遠目,
獻愁供恨,
玉簪螺髻。
落日樓頭,
斷鴻聲裏,
江南遊子。
把呉鉤看了,
欄干拍徧,
無人會,登臨意。


休説鱸魚堪膾,
儘西風、季鷹歸未。
求田問舎,
怕應羞見,
劉郞才氣。
可惜流年,
憂愁風雨,
樹猶如此。
倩何人喚取紅巾翠袖,
搵英雄涙。



******

水龍吟
             
         登建康賞心亭

 
楚天  千里の清秋,
          したが                            きはま
水は 天に隨ひ去りて  秋は 際り無し。
      みね
遙けき岑を 遠目すれば,
うれひ    けん     うらみ
愁を獻じ 恨を供するは,
ぎょく しん    ら けい
玉簪 螺髻。
    
落日の樓頭に,
   
斷鴻の聲裏に,
  
江南の遊子。
       と          み   を
呉鉤を把って 看 了へ,
        う            あまね
欄干  拍つこと 徧けれど,
      
人の 會する無し,
                  こころ
登臨せる意を。



 い         や            ろぎょ         なます    た
説ふを休めよ  鱸魚は 膾に堪ふと,
          つ
西風 儘き、
 き  よう                   いま
季鷹  歸りしや 未だしや。
  
求田 問舎,
おそら     まさ    まみ
怕く 應に見ゆるを羞ずべし,
 
劉郞の才氣に。
流年を惜しむ()し,
 
風雨に 憂愁して,
    な       か
樹 猶ほ 此くの如し。

()ふ 何人(なんぴと)か、
紅巾(こうきん) 翠袖(すゐしう)を 喚び取りて,
ぬぐ
搵へかし  英雄の涙を。





      **********

私感註釈

※水龍吟:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。

※登建康賞心亭:建康(現・南京)の賞心亭に登って。 *賞心亭に登り、遙か北方を望めば、そこは漢民族の故地であり、現在は異民族・金の領土となったところが見える。剣を手に取って見、更に故郷の方を見れば、多くの思いがこみ上げてくる。その思いは、誰も分かってはくれまいが…。我が身の利益のために身を引くのではない。ただ、老いてきて体がついて行かないのだ…。 ・建康:現在の南京。呉以降東晋等各時代に都とされた。 ・賞心亭:建康城(城市)の西、下水門城上にある建物。風光明媚な所にあるといわれている。「賞心」とは、美しい景色を愛でることをいう。

※楚天千里淸秋:楚(華中、江南)の空は、遥かに晴れわたった秋で。 ・楚天:華中、江南の空。建康(南京)を含む長江、淮水(淮河)一帯は戦国時代の楚の国にあたる。 ・千里:遙かに広いさま。 ・淸秋:空気の清すがすがしい秋。陰暦・八月の称。

※水隨天去秋無際:(長江の)流れは、(地平線の彼方)天に接するようにして流れ去っていき、秋は際まりがない。 ・水隨天去:(長江の)川の流れが、遙か地平線の彼方、天に接するようにして流れ去っていく。 ・無際:際まりがない。李白の『送孟浩然之廣陵』に「故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡,惟見長江天際流。とある。

※遙岑遠目:遥(はる)かな峰を遠くを見遣(や)れば。 *本来は、遠目遙岑とすべき所。遠目遙岑だと、●●○○なので、遙岑遠目とし、○○●●で詞調を合わせた。 ・遙岑:はるかな峰。 ・遠目:遠くを見遣る。目は動詞として使っている。

※獻愁供恨:愁いや恨みを訴えてくる。

※玉簪螺髻:(青い山脈(やまなみ)は、)玉(ぎょく)のかんざしにホラ貝に(似せて束ねた)もとどり。 *青い山を譬えていう。惠洪に「落日遠山螺髻靑」とあり、遠くに見える山の姿が、婦人の髪に似ていることによる、山容の形容。またその山並み。 ・髻:〔けい;ji4●〕は、もとどり、たぶさ。髪を束ねたところ。 *「獻愁供恨,玉簪螺髻」で:(遠くの山を見遣れば)婦人の髪型のような山並みは、恨みを訴えてくる。ここも玉簪螺髻,獻愁供恨とすべき所を平仄の関係で変えている。

※落日樓頭:落日の楼頭(に)。夕映えの高殿の上(で)。

※斷鴻聲裏:群を失った雁の鳴き声に。 *この句は前の句と対になっており、「裏」の部分は、「落日樓
」の「頭」に対応している。 ・斷鴻:群を失った雁。趙秉文に「角聲寒水動,弓勢斷鴻驚」とある。鴻はこの用法では、大雁、ひしくい。北宋・柳永の『玉胡蝶』「斷鴻聲裏,立盡斜陽。」からきている。

※江南遊子:江南(半壁の地)の旅人(=作者・辛棄疾)は。 *辛棄疾は、金の領土となった山東省に生まれ、金との争闘を経、江南半壁に拠る南宋の地に到った経歴がある。ここの江南の旅人とは、辛棄疾自身のことである。 ・遊子:旅人。盛唐・李白の『送友人』に「靑山橫北郭,白水遶東城。此地一爲別,孤蓬萬里征。浮雲
遊子意,落日故人情。揮手自茲去,蕭蕭班馬鳴。」とある。

※把呉鉤看了:呉鉤(≒剣)を手に取り持って見つめて。 ・把:手に持つ。・呉鉤:刀剣、刀剣名。形は剣に似て、湾曲しているという。春秋時代、呉では武器として鉤をよく作っていたことから呉鉤と呼ばれた。呉王・闔閭が金鉤を国中に命じて作らせたところ、ある者が自分の子二人を殺し、その血で以て鉤を鍛え、呉王に献じたと云う(『玉堂閒話』)。唐詩の中で使われる場合は、単に刀剣という意味で使う。呉鈎とも書く。 ・了:(白話)終える。動詞等の後に付き、動作・行為の完了を表す。看了は「…を見終えて…」。口頭語では軽声になるが、詞では重読すべきところ。

※欄干拍徧:(窓辺の)手すり(に寄り添い、遠くを眺めやって想いに耽り、)をくり返しくり返し拍(う)った(が)。 ・欄干:高殿などの手すり。詞では、「欄干に寄り添い、遠くを眺めやり、想いに耽る」場面で出てくる常套句。 ・拍徧:打つことが遍きこと。徧=遍。欄干を拍つとは、感情が昂まったときの動作である。南唐後主・李煜の『玉樓春』に「
拍欄干情味切」とある。清末・秋瑾の『昭君怨』に「恨煞回天無力,只學子規啼血。愁恨感千端,拍危欄。   枉把欄干拍遍,難訴一腔幽怨。殘雨一聲聲,不堪聽!」とある。

※無人會,登臨意:だれも(わたしが)登臨する気持ち(=高殿に登って窓辺の欄干に寄り添い、遠くを眺めやって想いに耽ること)を理解するものがいない。北宋・柳永の『蝶戀花』に「佇倚危樓風細細,望極春愁,黯黯生天際。草色煙光殘照裏,
無言誰會憑欄意。   擬把疏狂圖一醉,對酒當歌,強樂還無味。衣帶漸寬終不悔,爲伊消得人憔悴。」 とあり、北宋・王禹偁の『點絳脣』に「雨恨雲愁,江南依舊稱佳麗。水村漁市,一縷孤煙細。天際征鴻,遙認行如綴。平生事,此時凝睇,
誰會憑欄意。」とある。 ・無人-:だれも…ない。 ・會:(白話)わかる。理解する。「無人會-」:(登臨する気持ちを)だれにも分かってもらえまい。(登臨する気持ちを)分かるものはいない。 ・登臨:高いところに登って眺めること。盛唐・杜甫の『登樓』「花近高樓傷客心,萬方多難此登臨。錦江春色來天地,玉壘浮雲變古今。北極朝廷終不改,西山寇盜莫相侵。可憐後主還祠廟,日暮聊爲梁甫吟。」や、後漢末・王粲の『登樓賦』の「登茲樓以四望兮,聊暇日以銷憂」からか。 ・意:こころ。思い。意図。

※休説鱸魚堪膾:(晋の張翰が退職する口実とした)「鱸魚(スズキ)は、膾(なます)に堪えられる食べ頃の状態になった」(からだろう)とは、言わないでほしい。=自分の都合で身を引いた。 ・休説:いうのを やめろ。…とは言わないでほしい。説(白話)は言う。休はやめる。勿謂や休言、休道、(別説)等と同じか近い。平仄や語感によって使い分ける。 ・鱸魚堪膾:鱸魚(スズキ)は、膾(なます)に堪えられる食べ頃の状態である。晋の張翰(字は季鷹)が、秋風に逢って、故郷の菜や鱸魚(スズキ)が膾(なます)に堪えられる状態になったということで、官を辞して、故郷へ帰った故事に基づく。『晉書・張翰傳』に「…翰因見秋風起,乃思呉中菰菜、蓴羮、鱸魚膾,曰:『人生貴得適志,何能羈宦數千里以要名爵乎!』遂命駕而歸。」と、その記述がある。

※儘西風、季鷹歸未:ことごとく秋風となって、張季鷹(=張翰)は、(故事通り:「秋風が立ったので、国へ帰る」と言ったように)帰郷したのだろうか。=自分の都合で身を引いた。 ・儘:ほとんど。ぎりぎりで。ことごとく。 ・西風:秋風。張季鷹が秋風が立ったので、国へ帰ると言ったことに基づく。 ・季鷹:前出、晋の張翰の字。 ・歸未:帰郷したのだろうか。 ・-未:…かどうか。…や いまだしや。語気助詞で、文末に来て、疑問を表す。

※求田問舎:土地を求め、家屋を求めて(遠大な志がない)(なのだろうか)。=自分の利益のために活動した。*土地や家屋の財産を殖やすことばかりを考えて、遠大な志がないこと。『三國志・魏書・巻七・臧洪傳』中の「陳登傳」に、「(許)汜曰:『昔遭亂過下(下:地名),見元龍。元龍無客主之意,久不相與語,自上大牀臥,使客臥下牀。』(劉)備曰:『君有國士之名,今天下大亂,帝主(「帝」ではない)失所,望君憂國忘家,有救世之意,而君
求田問舎,言無可釆,…』」とある。

※怕應羞見:恐らく(そのような利己的でちっぽけな人間では、劉備のような才気ある者に)会うのを恥じるにちがいない。=わたしはそれらのような利己的な人間ではない。 ・怕:恐らく。 ・應:まさに…べし。きっと…にちがいない。 ・羞見:あうのを恥じ入る意。

※劉郞才氣:蜀の国の劉備のような才気ある者(に)。

※可惜流年:過ぎ行く歳月が惜しい。=わたし(=辛棄疾)は、年を取ったのが残念である。 ・可惜:(古・現代語)残念である。惜しい。残念ながら。 ・流年:(白話)過ぎ行く年月。光陰、歳月。

※憂愁風雨:風雨(=難局)を憂えて。 *風雨は、困難な事象を指す。

※樹猶如此:樹木でさえも このように立派に(大きく)なるのに。(それなのに、我が身は、こんなに老いさらばえて!)『晉書・巻九十八・列伝第六十八・桓温伝』の「(桓)温自江陵(江陵:地名)北伐,行經金城(金城:地名),見少爲琅邪(琅邪:地名)時所種柳皆已十圍,慨然曰:『
木猶如此,人何以堪!』攀枝執條,泫然流涕。」が出典。晋書では、この後、遙か中原を眺めやり、「慨然曰:『遂使神州陸沈,百年丘墟,王夷甫諸人不得不任其責!』」と、深い嘆きに陥る。

※倩何人、喚取紅巾翠袖,どなたか、おねがいだから麗しい女性を連れてきてほしい。 ・倩:こう。たのむ。おねがいする。 ・何人:なんぴとか。だれか。 ・喚取:呼んでくる。召し連れる。 ・紅巾翠袖:赤いきぬに、みどりのそでで、少女の服装。女性をいう。ここを盈盈翠袖とする方が古いか。盈盈(現代語)は、女性の動作、姿態、動作があでやかで優雅なさま。盈盈翠袖で麗しい女性、となる。ここでは、歌姫であろうといわれる。

※搵英雄涙:悲憤の余り涙している英雄(=わたし)の涙を拭って(ほしい)。 ・搵:(現代語)ふきとる。ぬぐう。悲憤の余り涙している英雄の涙を拭ってほしい。慰めてほしいということ。 ・英雄涙:悲憤と失意にくれている英雄のさまをいう。=自分。






◎ 構成について

  水龍吟
           双調。102字 仄韻一韻到底。韻式は「aaaa aaaaa」。

   ●○○,
   ●○○●。(韻)
   ○●●,
   ○●●,
   ●。(韻)
   ●○○,
   ○●●,
   ●。(韻)
   ●●,
   
   ○○●
   ○○●。(韻)


   ●○○●。(押韻)
   ●●○+○○●。(韻)
   ●,
   ●。(韻)
   ●○○,
    ●,
   ○○●。(韻)
   ●○○+●●○○●●,
   ●○○●。(韻)

となる。 脚韻は、「際髻子意 膾未氣此涙」で、第三部主として去声で一部上声。韻式は「aaaa aaaaa」。辛棄疾の『水龍吟』(擧頭西北浮雲) とは換頭の押韻が少し異なる。こちらが正格。詞中、対になるところがあるが、辛棄疾の他の『水龍吟』(擧頭西北浮雲)や、元好問の『水龍吟』(少年射虎名豪)その他を見ても、同様でもあれば異なる場合もある。

                                           

***********************
2000.11.30
     12. 1
     12. 2土
     12. 3日
     12. 4
     12. 6完
2001. 6.13補
      9.30
     10.11
2002. 9. 9
2007. 3.20
2017. 4.21
      4.22
      4.23

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