うどんぶらり

 

小さい時の距離感は今と比べると片手程も違った。今なら町内の街並みを1分程で歩き抜けてしまうが、当時は隣の町内に近い我が家へは数分掛かった。その頃、母方のお爺さんが斐伊川の対岸から、年に何度か家へ来られた。車は高額であり、何処の家にも無かったので、バスや歩いて時間をかけて来られたのであろう。

年齢は今の私と同じ還暦を過ぎたあたりだっただろうか、歯が悪いからと余りご飯を食べられるところを見た事がなく、母が“久家”からうどんを取って、それを食べて頂いていた。時には僕たち兄弟も食べる事ができた。

太いうどんで、かまぼこやとろろ等が入っていて出汁はうす色だった。勿論嫌いな鶏肉だけは残して、きれいに平らげた。お爺さんもそのうどんが好きだったので、わが家へ来る楽しみの一つだったかもしれない。

お爺さんが亡くなってから、“久家”のうどんを食べる機会は少なくなった。

     

富士吉田の旅

  20年前、車のセールをしている時に懇意にして頂いた方がいた。そこは山々に囲まれた、車が無いと街に出るのに何時間もかかるような場所だった。当然車は必需品で、その集落には何人かのお客様がいらっしゃった。その中で特に気があった方に良く相手をして頂いた。

 1年も通っただろうか。お子様が免許をとられたので、車を買って頂いた。その納車の日に「晩ご飯を食べて行きなさい」と言われて、うどんを頂いた。これが自分には初めての 、温かい汁につけて食べるうどんだった。素朴な出汁に具材も僅かだった。 大家族でうどんは山盛りになり、少しくっついては

いたが、納車の喜びもかさなって、凄くおいしかった。

  東京に来て、うどんは立ち食いうどんが殆どで、お腹がすいたら銀座のわき道にあった店で食べていた。 ただ、有楽町の地下街で女房と初めて食べた讃岐うどんの麺には驚いた。

 蕎麦は美味しいと思った事がなく、うどんだけ食べた。でも、うどんが好きか?と聞かれたら、嫌いではない程度だった。ラーメンの方がずーっと好きだった。そんな自分が何故”うどんを食べ歩いている”のだろうか。讃岐の不思議なうどんにはまってしまったのは仕方ないが、それ以外にも惹きつけるものがあるのかもしれない。

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