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到瓊浦途上 | ||
久坂玄瑞 |
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路到長崎意氣豪, 靑山絶處是鯨濤。 慨然放眼撫孤劍, 壓海蠻船百尺高。 |
路 は長崎に到 りて 意氣豪 たり,
青山 絶 ゆる處是 れ鯨濤 。
慨然 眼 を放 ちて孤劍 を撫 す,
海を壓 して蠻船 百尺 高し。
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◎ 私感註釈
※久坂玄瑞:天保十一年(1840年)~元治元年(1864年)。幕末の長州藩士。尊攘派の志士。名は通武。通称は義助。吉田松陰の門下生で、藩論を公武合体から尊皇攘夷へと 一変させた。その後、種々の武力で攘夷運動を実行した。後、禁門の変で、負傷して自刃。
※到瓊浦途上:(長崎の港湾のあった)瓊(たま)の浦(うら)に行く途中で(の作)。 ・瓊浦:瓊(たま)の浦(うら)。瓊浦(けいほ)。長崎の港湾のあった地帯の古称。現・長崎市恵美須町。 ・途上:目的地に行く途中。
※路到長崎意気豪:路は長崎に到る(途上だが)、いきごみは豪快である。 ・長崎:現・長崎。作者は安政三年(1856年)に長崎を訪れたが、その二年前の安政元年(1854年)に長崎港が開放され、前年の安政二年(1855年)には長崎海軍伝習所が開設されたばかりで、鎖国から開国に向かう日本の姿を目の当たりにしたことになる。 ・意気:気だて。気前。気性。気概。いきごみ。意志と勇気。 ・豪:優れる。秀でる。たけだけしい。豪快である。
※青山絶処是鯨濤:青い山々が途絶えたところが、大波(の海)である。 ・青山:青々と草木の茂った山。また、墓所とする山。墓所。また、隠棲するに相応しい青い木の茂った山。幕末・釋月性の『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有靑山。」とあり、南唐後主・李煜の『開元樂』に「心事數莖白髪,生涯一片靑山。空林有雪相待,古路無人獨還。」
とあり、南宋・林升の『題臨安邸』に「山外靑山樓外樓,西湖歌舞幾時休。暖風薫得遊人醉,直把杭州作
州。」
とあり、杜牧の『寄揚州韓綽判官』に「靑山隱隱水遙遙,秋盡江南草木凋。二十四橋明月夜,玉人何處敎吹簫?」
とあり、両宋・朱淑眞の『江城子』に「斜風細雨作春寒。對尊前,憶前歡,曾把梨花,寂寞涙闌干。芳草斷煙南浦路,和別涙,看靑山」
とあり、北宋・蘇軾の『澄邁驛通潮閣』「餘生欲老海南村,帝遣巫陽招我魂。杳杳天低鶻沒處,青山一髮是中原。」
とある。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・鯨濤:大きな波。=鯨波。
※慨然放眼撫孤剣:憤り嘆き、奮い起こして(港の光景に)目を向け、たったひとふりだけの剣を撫でていた。(そのわけは)。 ・慨然:憤り嘆くさま。悲しみ嘆くさま。また、心を奮い起こすさま。ここは、後者の意で使われるか。 ・放眼:目を向ける。見わたす。視界を開く。 ・撫:〔ぶ;fu3●〕なでる。さする。 ・孤剣:たったひとふりだけの剣。他の武器は身に帯びていないこと。
※圧海蛮船百尺高:(攘夷の対象である)海を圧するように巨大な外国の船(が見えるからなのだ)。 ・圧海:海を圧するように巨大な、の意。「圧」:上から圧力を加える。押さえつける。圧する。中唐・李賀の『雁門太守行』に「黑雲壓城城欲摧,甲光向日金鱗開。角聲滿天秋色裏,塞上燕支凝夜紫。半卷紅旗臨易水,霜重鼓寒聲不起。報君黄金臺上意,提攜玉龍爲君死。」とある。 ・蛮船:(貶める表現をこめての)外国の船。=南蛮船。 ・百尺:〔ひゃくせき;(bai3)chi3●●〕(人間の建造物として)極めて高いと謂う表現。(唐制:)100尺≒31メートル。東晋・陶淵明の『擬古九首』其四に「迢迢百尺樓,分明望四荒。暮作歸雲宅,朝爲飛鳥堂。山河滿目中,平原獨茫茫。古時功名士,慷慨爭此場。」
とあり、盛唐・王昌齡の『出塞行』に「烽火城西百尺樓,黄昏獨上海風秋。更吹羌笛關山月,無那金閨萬里愁。」
とあり、盛唐・李白の『贈韋侍御黄裳』に「太華生長松,亭亭凌霜雪。天與百尺高,豈爲微飆折。桃李賣陽艷,路人行且迷。春光掃地盡,碧葉成黄泥。願君學長松,慎勿作桃李。受屈不改心,然後知君子。」
とあり、唐・林寬の『歌風臺』に「蒿棘空存百尺基,酒酣曾唱大風詞。莫言馬上得天下,自古英雄盡解詩。」
とあり、清末~民国・黄興の『輓徐錫麟』に「登百尺樓,看大好河山,天若有情,應識四方思猛士;留一抔土,以爭光日月,人誰不死,獨將千古讓先生。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は、「豪濤高」で、平水韻下平四豪。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○●●●○●,
●●○○●●○。(韻)
平成27.7.14 7.15 7.16 7.17 |
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