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第1部
3
パニック
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「ダダ!どこにいる!どうしたんだ、何がおこったんだ」シュールが、四方から悲鳴のとびかう中で叫んだ。
「ここだ!俺はここだ!セレニーとポップたちはどこだ!なんてことだ」たおれてきた誰かの手をかきわけながら、ダダが大声で答えた。
「ここにいるよ!セレニーも一緒だよ」必死で、半泣きの声は、ポップだ。
「おまえたち、三人とも、離れないでしっかりつながっていろよ!」パニック状態の中でお互いを確認しながら、ダダは現状を理解しようと懸命になっていた。
この四人の兄弟は、
長男ダダが、17才。
長女セレニーが、13才。
次男シュールが、12才。
三男ポップが、10才。
時代は、西暦2314年。
場所は太陽系、地球、北半球の古都トウキョウ。
国家という政治的な形はすでになくなっていた。
「ダダ、僕たちこれからどうなるの」
いつもは無邪気なポップの顔から、血の気が引いていた。周囲には突然の出来ごとに我を忘れて泣叫ぶ者やぼう然と立ちすくむ者、あるいは空中に舞っている者たちがひしめきあっていて、人間以外は何も存在していなかった。
地面すらない。背景は白く、浮いているのかそうでないのかも実感できない状態である。
「そんなことわからないよ、とにかく落ち着いて、むやみに動きまわらないことだ」
小さい弟の心の動揺がダダの心に共鳴し、ひときわ強い言葉がとびだしていた。それをさっしてかポップは。
「大丈夫だよ・・でもさっきからだんだん人数が少なくなってきているような気がするけど」と、媚びるような、甘えるような、弱々しい声で言った。
「そうなんだ、おまえも気がついたか。消えたんだ、俺たちの仲間が、だんだん消えていってるんだ」
ダダは、ポップの手を心配するな、と言うかわりに力強くにぎった。
「私も見たわ。友だちが消えるときに、空気が歪んだの。あんなの今まで見たことないわ。透明な化け物でもいるの!」
セレニーは、恐怖と怒りがいりまじり声が震えヒステリック叫んでいた。
「たぶん、俺たちには理解できない怪物だろう」
あきらめと、なすすべもないイライラとで、ダダの言葉が無責任に宙を舞った。
「理解できないもの?なにのんきなこといってんのよ。今は、すべてが理解できないわ!私たちは、もうおしまいよ!」
ダダの言葉に、ますますセレニーはヒステリックになった。
「俺たちがここに閉じ込められたように、きっと、またどこかに他の場所に移されているんだよ。転送だよ」
シュールもダダと同じように、なげやりに大人ぶっている。
「転送?誰が?何のために?人を自由に転送するシステムをどこかで開発したとでもいうのか。そんなバカな・・そんなことが現実にやられたらとんでもない!でも、今おこっていることは、もっともっと恐ろしいことなのかもしれない」
シュールの大人ぶった落ち着きが、今度はダダをイライラさせた。
「ダダ、これは人間のしわざじゃないよ。あの仲間が消えて、空気が歪むときに、それが何か大きな生き物のように俺にも見えたんだけど」
12才にしては早熟で、生活区のコンピュータのデータにも、思考能力をたかく評価されているシュールが今度は真顔で言った。
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