アニメ遊館----ダシモノ目次
「Both Sides world」
「オトコサイセイ」「セレニーノ輪廻転生」「グラマラス.1」「 グラマラス.2」「セレニー」
「サイクルセレニ-」「ハートト翼男」「飛行機」「ガラスピエロ」「ミラーマン」「GRA-MA惑星群」
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第1部
6
バーチャル人間
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「ポップ、海はどのキーだっけ」
シュールは楽しそうに言った。
「これだよこれ」
ポップもはしゃいでいた。
シュールは無邪気なポップが可愛いと思った。
「おまえ、よく海へ行ってるんだもんな」
「うん、シュール。海は僕にまかせてよ。どこの海にする?」ポップの目は兄の前でますます輝いた。
「じゃあ頼むよ。人が沢山いて・・そうだなぁ、俺くらいの歳か、もう少し上くらいなやつらだな。それで、街があって、山もあって、もちろん海がある所。どうだ?」
「そんなのカンタンさ、でもどうして?ただの海じゃだめなの」モニターを見ながらポップは言った。
「ああ、頭の中にそんな風景が浮かぶんだ。小さなビルが立ち並ぶのまで見えるようだよ」
シュールは、手でビルの形を作ってみたりしながら、おどけてみせた。
「へえ、おもしろいね、じゃ、いくよ」ピッピッピ、ピピ、軽やかにポップの指がモニターの上を踊った。
「ここじゃない?」
部屋が、一瞬にして海岸になった。
「ウーン、ちょっと違うなあ、砂浜はもっと白いんだ。それに、街並みも白っぽいビルが並んでいるんだ。何だかそこに行かなければという感じがしてならないんだ」
シュールの右手が、胸のあたりでいきばをうしなっていた。
「ふうん、じゃあここは」
ポップの唇がこころもち尖った。ピーッ、ピピッ。
「ここだよここ、やるねぇ」
ふたりのまわりにひろがった景色は、シュールの頭に浮かんだものとまったく同じであった。
シュールは、ポップの両肩をつかみ、笑顔をつくり、ありがとうを表現して走りだした。
「あっ、シュール、待ってよ。どこへ行くの?」ポップが後を追った。
「ポップ、俺はあのビルが並んでいる所あたりに行って見るよ、おまえどうする?」海とは逆のなだらかな山のふもとを指して、シュールが言った。
「僕、海で遊んでいるよ。せっかく海に来たのに」ポップは、肩をすぼめ、つまらなさそうな顔をした。
「じゃあ、これをはめていてくれ」シュールはポケットの中から何かを出してポップにわたした。
「ああ、テレパーだね。OK、じゃあね」
テレパーとは、通信機のことである。
ポップは指輪のようなテレパーを小指にはめ、海の方へ走って行った。シュールもそれを指にはめて、吸い込まれるように街に向かった。
自分と同じくらいの歳格好の少年が沢山たむろしている所まで来た。
数人の視線を感じる。
『なぜ俺は、こんなところに引かれて来たのだろう』と、シュールは伏せ目がちに彼等を見ながら思った。バーチャル人間とはいえ、目は鋭く生身の人間のように光り輝いている。だが、どうみても生き生きとした若者らしさはなかった。
「痛てっ、なにするんだよ」シュールの足にムチがからまった。そして倒されてしまった。
「おまえ、挨拶って言葉、知らねえのかよ」地面にうつぶせになったシュールの頭の上から声が聞こえた。
「挨拶ってなんだよ、俺は君たちのことなんか何も知らないんだから」声のする方に顔を向けたが、誰が言ったのかわからなかった。
「知らなきゃなおさらだ。俺たちのよそ者に対する挨拶ってものを教えてやらあ」
ズボッ。ムチを持ったスキンヘッドのひときわ体格のいい少年が、数人の中から飛び出してきてシュールの横腹に蹴りを入れた。
「ううっ」シュールは恐怖と痛みのために、海老のようにからだを丸めた。
「おい、それくらいでいい。こいつは物わかりがいいようだ」又、同じ声が聞こえて、数人の視線の中から一人の少年がシュールの前に出た。
事態を把握しようと、ことさらに動くのを避け倒れ込んだままの姿勢でシュールは目をその少年に向けた。
全身黒のスキンスーツ姿で大人っぽい利発そうな十三、四才の少年がそこに立っていた。
「起きろ、もう挨拶は終わった」シュールの目をしっかりと見ながらその少年は言った。
「どういうことなんだ、挨拶だの、終わったのって。俺はただここへ遊びに来ただけなんだ。君たちとは関係ないだろ。いきなりかかってきやがって」ゆっくりと立ち上がりながらシュールもその少年の目を見た。
「まあ、そんなに怒るな。あのスキンヘッドは俺たちの戦士なんだ。その辺の大人よりずっとパワーあるぜ」
薄笑いを浮かべながらその少年は、視線をシュールの手足や頭にやりながら言った。
「そんなこと聞いてないよ」少年の視線に対する不快感と、はやくこの場から抜け出したいといういらだちを込めてシュールは言った。
「分かった、話しが早くていいや。じゃあここへ来てもらった訳でも話そうか」
少年の、シュールの全身を見る目がひときわ鋭くなった。
「来てもらった?どういうことだ、それは。俺は弟と一緒に自分でここに来たいと思って来ただけだ。おまえの指図なんか受けていないよ」少年のすること、話すことがいちいち不愉快であった。
「そうかなぁ、君がここに来る前に、どうしても海に行きたくならなかったか?」少年の顔が、薄笑いの顔にもどった。
「そんなこと、誰にだってあることさ。ただ海が見たかっただけだよ」
シュールは、もう、しっかりと起き上がり、まわりの状態も冷静に見えていた。
少年は、薄笑いの中にも真剣なまなざしをうかべながら言葉を続けた。
「それに、君はここへ来る前にここの風景が鮮明に頭に浮かばなかったか?どうだ。そして引かれるように、ここの海に来てしまった。そうだろ」
「・・・・・」シュールの目は、少年の顔を見たまま静止し唇も動くのをやめてしまっていた。
『ここへ来る前に、俺は、この海の風景が見えていたんだ。他の海ではなく、ここの海に来たかったんだ。名前も場所も知らない、一度も来たことのない海。なぜ、まさかこいつが言うように・・』
「理解したようだな。君ならすぐに分かるとだろうとは思ったがね」
容赦なく、少年の声がシュールの心に割り込んでくるような気がした。
「でも、どうやってそんなこと出来たんだ?き、君たち、バーチャルだろ。俺たちの科学よりも進歩しているとでもいうのか?君たちは、僕たち人間が創ったものなんだよ」シュールは少しうろたえていた。
「そう、君の言うとおり。俺たちは、バーチャルで、人間が三百年前に創造したものだ。創ってくれたことに感謝しなければね。それ以来、人間は、俺たちバーチャルの世界をますますリアルに作り変えていった。そして、君たち人間の気付かないところで「何か」が起こり、俺たちは単なる映像ロボットから、一人一人が意思を持つ生命として生れ変わって行ったんだ。肉体を持たない生命としてな」少年の視線が遠くに走った。
「・・・・そ、そんなことになっていたのか」
シュールは、全身の力が抜けていくのを感じながら、あらためて少年の顔を見た。
この少年の痛みのようなものが、伝わってきた。
状況は違うにせよ、何か自分の晴れない心の姿が、この少年に映り出されているような気がした。
「驚くのはまだ早いぜ。それよりも俺が君をここへ呼んだのは、君は俺のこれからやろうとしていることを理解出来るからだ。君の思考及び能力は、すべて把握してある。君とは仲間になれると確信が持てた。そこで、君に頼みがあるんだ。どうだきけるか」少年が言った。
「分かった、少しずつ見えてくるのが何だか嬉しいような気がする。俺はシュール。たぶん知ってはいるだろうけどね」悪意もなさそうだし真剣さも伝わってきていた。話している内容は驚くべきことで、もっと知りたい。
とりあえずは友だちになろうとシュールは思った。
「俺は、ウォーター。君たち人間は、あまりに何も知らなさすぎる。君の今の人間の世界に対する疑問が、俺たちを会わせるきっかけを作った。もう逃げることはない。俺が実態を教えてやろう。おい、スキン。ビークをよこせ」
(ビークとはバイクが訛った言葉で、一メートルほど浮きながら走る二、三人掛けの乗り物)
シュールに、不安や未知のことがらに対する恐怖感がないわけでわなかったが、このウォーターという少年に対して、徐々にわきおこる不思議な親近感と新しい事実の虜になっていた。
「後ろに乗るんだ。俺たちの研究室を見せてやろう」
ウォーターはビークの前に乗り、モニターに行き場所をセットしながら、シュールに言った。
シュールは、黙って後ろに乗った。
山の方に向かってビークは走った。
途中、ウォーターは、これから行く研究所に何やら短い連絡を取っていた。十分くらい乗っていただろうか。山が、間近に迫って来ていた。やがて木の影で見えなかった真っ暗な洞窟に吸い込まれるように入って行った。
洞窟は、奥の方へ進むにつれて明るくなり、まわりの土壁もいつの間にか樹脂系の素材とおもわれる円筒状の通路に変わっていた。
流れるようにビークは進んだ。
ずいぶん深いと感じた。
急に速度が落ち、右にカーブした。
数メートル先に半透明で明るく輝くドアが現れた。
その前で、静かに止まった。
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