アニメ遊館----ダシモノ目次
「Both Sides world」
「オトコサイセイ」「セレニーノ輪廻転生」「グラマラス.1」「 グラマラス.2」「セレニー」
「サイクルセレニ−」「ハートト翼男」「飛行機」「ガラスピエロ」「ミラーマン」「GRA-MA惑星群」
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第2部
6
帰還
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その日から、シュールは、自分の心を観察し始めた。瞑想システムをつかったり、無心になれる音楽を聞いたり、絵を観たりしたが、心は空にはならなかった。外には出られなかった。
このような手も足も出ない結論にシュールはなかばあきらめとともに、そのことはあまり考えないようになっていった。
一方、ウォーターは自分たちの仲間をバーチャル人間から肉体を持った人間にする計画を着実にねっていた。
そんなある日。
「ねえ、みんな、今日でウォーターがこの家に来て一年になるのよね。それでね、ささやかなパーティをしようと思うんだけどいいわね」セレニーのひと声で、数分後ににぎやかにパーティが始まった。
「そうか。ウォーター、君が来てもう一年になるのか、早いねぇ。ところで、研究の方は進んでいるのかい」ダダがニコニコしながら言った。
「ええっ、研究ってなんのこと、超生命体のこと?」ウォーターは、とぼけたふりをして答えた。
「もう、隠さなくていいんだよ。今朝のニュースで君たちバーチャルのことをやっていたよ。それで、俺たち人間も感動して君たちが肉体を持つということに協力しようということで盛り上がっていたよ」ダダの顔は、ますますにこやかになった。
「・・・そうでしたか。ありがとうございます」
ウォーターは、ダダの顔をしっかり見つめ、こみあげるものをおさえていた。
「ワーオ!最高!ウォーター、よかったなあ。俺、ほんとうに嬉しいよ。人間てこんなに心が広かったんだ。隠していることなかったんだ。ウォーターおめでとう」シュールは、飛び上がって喜んだ。
「シュール、君のお陰だ。ありがとう」ウォーターは、何度も、感謝の気持ちを素直にあらわした。
パーティは、もちろん五人にとって最高のものになった。
シュールは、ウォーターのしあわせを心から喜び。
他の四人も、互いの心を気づかった。
「わぁ、こんないい日は生れて始めてだよ。なんか太陽でも浴びて芝生の上を走り回りたい気分だ。ちょっと、外に出てくるよ。」
シュールは、無心だった。心は空であった。
彼は、玄関から外に出た。
暖かい日差しをからだじゅうに感た。
芝生のにおいがした。
地面に着いた足の感触がなんとも気持ち良かった。
シュールは、思い切り家を背にして、走った。
言葉でみんなに表現出来なかった何かがこみ上げてきた。
この喜びは何だろう。
ウォーターが晴れて人間に成れた事の喜び・・
それに、・・それに、
今、何かから解き放たれた開放感・・走り続けて息が切れて立ち止まって、何気なく後ろを振り返ってみた。
「・・・」
家が消えていた。
周りの風景はそのままなのに、家だけがなくなっていた。
「ダダ!ウォーター!セレニー!ポップ!」必死で叫んだ。家があったはずの所へ戻ってきたが、跡形もなく、芝生が勢い良く生い茂っていただけだった。
『ウォーターが言っていた世界なのかもしれない。気持ちを落ち着かせなければ。そうだ、怖がることはないんだ、心配するな、大丈夫だ』 懸命に心の動揺を抑えた。
『ウォーターがしたように、俺も真直ぐに歩いてみよう、何かが見えて来るはずだ』
あの、超生命体がよく現われた山並みとは反対の方に向かって、シュールは歩きだした。
夜になって星が瞬き、夜空は饒舌に輝きだしたが、シュールの心のなかは、深い静寂と広大な闇の世界で支配されていた。
寝ないで歩き続けた。
真っ暗な中を、ひたすら歩き続けた。
明け方になって、草むらの中で倒れるように、三、四時間寝たが、また歩き出した。
同じような地形が続いた。歩くにつれて角度がかわり景観が変化していった。
『この風景、どこかで見たようなきがするなあ』夜が明け、まわりが見え始めたときから、そんな気がしていた。
あの山の形。
あの丘のなだらかな曲線美。
『もしかして、あの丘を下ったところに、昔、自動車と呼ばれていた乗り物が走っていた道路、という記念物があるのではないだろうか』 ふと、そんなことが頭をよぎった。と、同時に、からだが熱く、どうきがはやくなった。
いっきに丘の上まで走った。
確かに、そこには、百年くらい前まで使われていた、高速道路がオブジェのように立っていた。
「ここは!僕が生れ育った生活区の西側だ!」
思わず叫んでいた。
『そうすると、ここを曲がった所で生活区の建物が見えるはずだけど・・』
祈るようなきもちで、建物の存在を期待した。
「あった!」全身に電流が走ったように喜びを肌で感じた。
シュールは、いちもくさんに生活区の建物まで走り、門をくぐった。
人が四、五人いた。見覚えのある顔である。
自分たち兄弟がいた部屋めざして走り続けた。
「シュール、そんなにあわててどうしたの」何処からかセレニーの声がした。
シュールは、立ち止まり、声の方に目をやった。
「あ、セレニー、セレニーだよね。」と言ったまま、その場で倒れてしまい、丸二日間眠り続けた。
目が覚めた後、数時間して気付いたことは、自分があの家の玄関を出たときから、ウォーターと同じように三才歳を重ねたことである。 カレンダーと自分のからだを見てわかったことだった。
「よく寝るわねえ。ちょっと見ないとおもったら、こんどは寝てばかり。どういう人、あんたって」セレニーももう子供ではなかった。
「そお?え、で、ちょっと見なかったって、どれくらい」
「どこへ行ってたの?二週間ぐらいみなかったけど」
「じゃあ、さぁ、その前俺何してた?」
「なにそれ、クイズ?あなたがしていたことを当てたらどうなるの」
「二週間前は、ここにいたんだ俺・・」
「何言ってんのバーチャルでよ。三年間の修養旅行に出てて帰るときに知らせるように、自分でセットしたんでしょ。あなたのイメージ映像がきたわよ」
「・・え、あ、そ、そうだっけか、あ、そうだ、そうだ」シュールは、そうなんだと思うようにした。
「ねえ、セレニー。もう一つ聞いていいかい。その三年の間にバーチャル人間が誕生した?」
「あそうそう、あれから一年近くになるわね。たいへんな騒ぎだったわ。感動的だったわね、新しい人たちへのちょっとした緊張感もあったんだけど、今となっては皆受け入れていて、良かったわ。でもシュールはどこで知ったの、あ、そうかバーチャルの中にいたんだものね」
「ああ、まぁね」
自分で三年前にバーチャルで修養旅行に出たという記憶はまったくなかった。
バーチャル人間の話のあとに、超生命体のことや、部屋に閉じ込められたことも聞いてみたが、これらに関してはまったくバカにされてしまった。
あの朝ダダや兄弟達に会いに行った時に、あの空間に閉じ込められてから。いや、もしかしたらその前からすでにこの体験は始まっていたのかもしれない。
この三年間での体験は一日一日すべて記憶の中に鮮明に残っていた。
はたして自分はどこにいたのか。
これは現実以外の出来ごとだったのだろうか。
シュールは、このあと、三年間の体験をだいじに鳥が卵を暖めるように心の奥にしまいこんだ。
そして、今までのように、何事もなかったかのように、生活区での毎日がくり返され、数年後にシュールは、立派に成人し、心のままに自由にこの宇宙空間へ旅立っていくのである。
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