アニメ遊館----ダシモノ目次
「Both Sides world」
「オトコサイセイ」「セレニーノ輪廻転生」「グラマラス.1」「 グラマラス.2」「セレニー」
「サイクルセレニ−」「ハートト翼男」「飛行機」「ガラスピエロ」「ミラーマン」「GRA-MA惑星群」
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第1部
5
四っの部屋
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数時間後。
「きれいな部屋」セレニーが呆然として言った。
まわりに、部屋が現われたように四人は感じた。そして、しっかりと両足で、その部屋の床に立っていた。
「広いね。こっちにも部屋があるよ」シュールが言った。
中央に広間と、部屋が四つ。情報映像システム、総合バーチャルシステム、それに、排泄洗浄システム。これは、トイレとバスの機能があり。排便した後、数分で全身を洗ってくれるというものである。
「ねえ、これ何?」セレニーが聞いた。
壁にモニタのようなものが映っていてキーボードが表示されていた。
「何だろう」ダダが近づいて来た。その上下には、球型の透明な容器があった。
「ここから何か出てくるかもね、やってみようか」シュールも駆けよってきて言った。
「おい、おい、気をつけろよ」ダダは注意をうながしながらも、気になるようすでシュールを見た。
「大丈夫だよ」シュールがキーボードに触れコンピュータと会話を始めた。
「これ、すごくわかりやすいシステムだよ」
『ここは食べ物を出すシステムです。食品名を言ってください。この下にある球体の中にご希望のものが出てきます。今後、私にご用のときは「パック」と声を出して名前を呼んでください。あなたがいる場所のいちばん近いモニターから私が返事をします。生活に必要なことは何でもいいつけてください』とコンピュータのパックが喋った。
「これは、最新型の生活システムだ。じゃあね、パック、アイスクリームを出してみてくれる」シュールはすかさず言った。
千年以上前から変わらずにあるこの食べ物は、この時代でも人気があった。
「わぁ、アイスが出てきた」球型のボールの中でコーンのカップに入ったアイスクリームが浮かんでいた。
この部屋には日常生活に必要なものごとに対応できるように壁のいたるところにコンピュータの映像装置や球型のボックスなどがあり、あらゆる要望に答えられるようになっていた。
彼らは、四っの部屋を一人づつ分けて恐る恐る、しかしなぜかワクワクした気待ちで生活を始めた。
「私、この部屋気にいっちゃったわ」
セレニーは自分のものになったその空間を、その日のうちにコンピュータのパックをさっそく呼び出して、女の子らしい淡いピンクに壁をセットしなおして流行のアイドルロボットまで映し出していた。
数日間はこの部屋のシステムのさまざまな機能を発見したりためしてみたりですぎていった。
「この玄関のドアと窓が気になるところだなぁ」
ダダがふとつぶやいた。
「そうね、なんの変哲もないドアなのに開けて外に出る気にもならないし、窓から見える山や川も奇麗なのに、そこへ行く気にならないものね。よくみんなでピクニックに出かけたり森に遊びに行ったりしたのにね」
セレニーは、四つか五つつのころ兄弟で近くの森にいつものように遊びに行った日のことを思い出した。昆虫をとったり小さな洞窟に入ったり、日の暮れるのも忘れ遊んだあの日。気がつくとまわりにだれもいなくなっていて薄暗くなっている森の中を、まっしぐらに駆けて帰ろうとした。
いつもはまわり道をして跳び越えた小さな水路が、近道をしたために幅が広くなっていた。跳び越えることが出来ずにそこに立ちすくんだまま泣いた。森は深く暗く闇が背中に染み込んできて身体をふるわせた。この世の誰からもみはなされたような恐ろしい孤独感を始めてそのときあじわった。もちろん大声で泣きわめいた声は、生活区のコンピュータがキャッチしてすぐに助けは来たのだが。
「そうだな、それにときおり窓の向こうに見えるあの空気の歪みが、なんだか生き物に見えたりするね」ダダが言った。
窓の外の青空の中にあのときとはちがって穏やかに、ちょうど入道雲のような状態で姿をあらわす透明なもの。不定型に形を変えこちらをながめているようにもみえる。
「そうそう、なんか笑っているようにも見えて、恐怖感なんかぜんぜんないのよね。なんか守られてるって感じもする。それに、窓の外へ行かなくても、バーチャルでどこへでも好きな所へ行くこともできるしね」セレニーは、自分の心の変化に気付きながらも、なんの違和感もなく現実を受け入れていた。
「だけど、ダダ、俺たちここに閉じ込められているんじゃないの。そう考えるとあまりいい気分にもなれないんだけど」シュールが言葉をはさんだ。
「シュールは、考えるタイプなんだよな」ダダが軽く話しをそらそうとした。
それでもシュールは、「そんなことないよ。ただ、このまえコンピュータで・人間・のことを調べたら『君たちが人間です。君たちは幸福です』と、どんな調べ方をしても最後にはその言葉で終わってしまうんだ。幸せの押し付けのようで、なんだかいやだよ。バーチャルで見る動物の方がずうっと自由で幸せなように見えるけど」と言葉を続けた。
「何言ってるの、シュール。私はなんだかここが一番安全な所のように少しずつ思えてきたわ。だってバーチャルで見たでしょう。他の動物たちは弱肉強食、お互いに食べあっているのよ。それに、外の人間だと食べるために仕事をしなければいけないのよ」セレニーも、ダダと同じようにあまり考えたくない話題のようで。ほとんど説得力のないことを喋っていた。
「そうだな、セレニーの言うとおりだ。ここは俺たちの生きるためのものはなんでもそろっている。あの窓の向こう側に見えるあの大きな空気の歪み、いや、歪みじゃなくてまるで生き物のようなあの生命体こそ、俺たちの神様のようにおもえてきたよ。たぶん、あれを信じていれば安心なんだよ」心にもない言葉が、ダダの口から出ていた。 が、その言葉に、自分でも驚きながらも、ほかに何の考えもないことに気付き満足してしまっていた。
「そうかなぁ、俺には何か違うような気がするんだけど。それに・・・バーチャルの人間じゃなくて、もっと他の人間たちにも会ってみたいと思うよ」
シュールが言った。
「何のために?情報システムで見ただろう。人間同士でも一部の大人は感情だけで殺しあったり、私欲の追究で無駄な争いをしているんだぞ。そんな所へ行ったってしょうがないだろ。ま、あの生活区のみんなは、たぶん俺たちと同じように、何処かでしあわせになっているよ。そう暗く考えないでもっと楽しいことを考えろ。なっ」
ダダが、たしなめるように言った。
確かにこの時代の人類は、人間の自由、人間らしさ、本当の幸せ、というものを究極までに追及していた。
その結果。国もなく、家族という枠もなく、すべてが個人の意識にまかせられて動いていた。動物の世界が何の法律もなく、自然の本能に任せて種族を受け継いでいる姿に、人類は悟ったようなのだ。
数百年前には、人類は、国家や家族を形成していてさまざまな外敵から身を守っていたが、科学がここまで進歩してしまうと、その必要も薄れた。逆に、組織でいることのほうが不自由で、時には危険なことすら起った。
この科学の進歩と意識の向上が、国や組織の維持を困難にし廃止に追いやったために、今までのような大きな戦争はなくなっていた。
個人的な、感情のもつれからおこる殺人事件などは、あいかわらずなくなりはしなかったのだが。ともあれ、人間は、科学の発達のお陰で個人の自由な生き方を手にいれたようだ。
また、家族という単位は消えたものの、なぜか子供の頃の兄弟愛は人間の歴史の中で一番強い時期にあった。
大人の世界と子供の世界に分け、コンピュータによる子供の教育を始めて二十年目。この制度に変えてから、凶悪な犯罪者が生活区の出身者のなかからはひとりも出ていなかった。
そうした理由からも、ダダとセレニーは、あの生活区からの延長であるように錯覚してしまった今の生活を、次元の高いことのように感じてきているようなのだ。
「ダダたちは、それで平気なんだ。なにも気にならないんだ。僕だけなのかなあ」
シュールも、もしかすると平気でいられることなのかもしれなかったが、そんなふうに確かめずにはいられなかった。
ダダやセレニーの返事がなかったので、シュールはもう一度聞いて見た。
「そりゃ、ここはなに不自由ないよ。両親にだって友だちにだって、いつでも会いに行けるし、海にでも山にでも行こうと思えばどこへでも行けるさ、バーチャルでね。でもそれが本当の体験なの?」
バーチャルリアリティは、このころ人類にとって欠かせないものになっていた。そこに現れた映像は、本物と区別がつかず、触ったり臭いも嗅いだり出来た。人間や動物に関しては、実物と同じように意思を持っているかのようにこちらに反応してくるのである。
シュールの心はなぜか揺れた。不安だった。
心の奥の暗闇から、彼を駆り立てる何かが静かにうごめいていた。
「シュール、この部屋から出たければ出たっていいのよ、たぶんその玄関から出られるわよ」
セレニーは、さらりと、朝の挨拶でもするような顔で言った。
シュールはギクッとして
「えっ、出たことあるの?」
目は、セレニーに向かって丸く開いたままになっていた。
「あるわけないでしょう。そんなこと考えたこともないわよ。たぶん、自由に出入りできると思っただけよ」
セレニーは、今度は、お昼の挨拶ぐらいの軽さで言った。しかし、シュールは今の言葉でますます不安に襲われて行った。出られるかもしれないのに出ようとしていない自分がここにいたとは。
確かに外の世界への恐怖心からでもあるのだろうが、それだけではなさそうだ。
『僕たち、あの日、ここへ、あのふわふわした所に入れられて・・・ここに・・閉じ込められている・・じゃなくて・・出ないだけ?・・・・嘘だろ!』
シュールは、分からなくなっていた。
なぜかそのときですら、玄関のドアを開けることも近寄ることも、考えにうかばなかった。
そして、次の瞬間、なぜかシュールの気持ちが、まさにボールが落ちて地面に着いたとたんに上に方向を変えて上がりだすように変化した。
「セレニー。俺、海(バーチャルの海)へ行ってくるよ」シュールの声は、さきほどよりはるかに明るくなっていた。
「そうしなさい、気分が晴れるわよ」
セレニーがシュールのそうした変化にまるで気にもとめずに、さわやかに言った。
「あっ、僕も行く」
いつのまにかそばに来ていたポップと一緒にシュールはバーチャル転送室に入って行った。
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