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風のように

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第15章

 悟空が病気? この健康そのもののような悟空が? チチには到底信じられなかった。
「いってえ何の病気だ?」
「わからねえ。オラ、今まで病気なんてしたことねえからな。ただ、気分がすごく変な感じなんだ。チチは何ともねえか?」
「うん」と、チチは不安げに片手で胸に手をやった。
「ならよかった」
「悟空さ、今までおらのこと避けてたのは、おらにうつしちゃなんねえと思ってのことだったのけ?」
「……まあな」
(そうだったのけ……)
チチは安堵の溜息をそっと漏らした。
(別に悟空さに嫌われてたわけじゃなかったんだな)
 だが、チチにうつさないか心配だっただけだと悟空は言うが、チチには彼の自分を見る表情にはそれ以上の含みがあったような気がしてならない。
 何かを探るような、不思議がるような目――――あれはいったいどういう意味を持つのだろう。

「とにかくさ」と、努めて明るく悟空は続けた。
「この筍茸を煎じて飲めば治るんだから、チチは心配すんな」
 気にせずに寝ろと重ねて言う悟空にチチはなかなか同意しなかったが、自分が代わりにやるからと言っても悟空は頑として譲らないので、仕方なくひとりベッドに入った。しかし、すんなり寝付かれるものではなく、溜息をついては何度も寝返りを打った。
 悟空の病気がもし万能薬の筍茸をもってしても治らないものだったら?――――暗闇を見つめていると悪い方へ悪い方へと考えが転がっていく。
 悶々としている間に窓の外はだんだん明るくなっていった。

 すがすがしい朝の空気の中にチチが起き出して行ってみると、台所の悟空は筍茸の煎じ汁を顔をしかめて突っ立ったまま飲み干すところだった。
 うえ〜っと舌を出しながらカップを置いた悟空に、チチは期待を込めて訊いた。
「どうだ? 治ったけ?」
「まだわかんねえ」
 朝食を終えると悟空はさっさと席を立ち、いつものように修行に出かけようとする。チチは慌てて止めた。
「病気なんだから今日くらい休んだらどうだべ」
「うん。でもよ」
「でももへちまもねえだ。体調の悪い時は無理しちゃなんねえ」
「んじゃ、そうすっか。修行してっと気が紛れて何ともねえんだけどな」
 家にいても手持ちぶさたで何もすることのない悟空は、洗濯だ掃除だと駆け回るチチの手伝いをしようとしてはヘマをして、かえってチチの仕事を増やしてしまった。
「悟空さは手伝ってくれなくてもいいだ。邪魔になるから散歩でもしてきてくれろ」
 チチに追い出され、そこらをブラブラと回った悟空が戻って来てみると、チチはまた意気込んで訊いた。
「どうだ? 治ったけ?」
「うーん、まだみてえだな」
 やがて昼になり、いつもと変わりなく旺盛な食欲を見せる悟空をまじまじと見つめながらチチは尋ねた。
「どうだ? もうそろそろ治ったんじゃねえけ?」
「治ったと言えば治ったような気もすっけど。わかんねえや」
 チチは箸を置いてキッと悟空を見て言った。
「おらたち健康の見本みてえな生活してんのに、病気になるなんて信じられねえだ。悟空さ、おめえ何か変なもんでも拾い食いしたんじゃねえのけ?」
「そんなもんオラ食ってねえぞ」
「胸に手を当ててよーく考えてみるだ。ぜってえ何か変なもん食ったに違いねえだよ。心当たりねえんけ?」
「うーん……」

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